もっと簡単に貴様をやっつける
ハイストン家の書庫の中、ヒロミ=ドグブリードは賊に襲われていた。
賊の名は、ウグイ。『新緑の侏儒』を召喚する守護霊使いであり、敵を小人化する能力を持つ。ヒロミを小人化して、踏み潰して殺してしまおうという作戦のようだ。
『新緑の侏儒』の小人化は、ヒロミの守護霊、白銅の獣聖『迷い犬』の能力で解除可能だ。だが、ヒロミが小人化を解除しても、ウグイがしつこく小人化を仕掛けてくる。
これではキリがないーー
そう考えたヒロミは、小人化を解除しないで、小人のまま隠れる戦略に出た。
ウグイ
「や? 女はどこにいった?」
果たしてヒロミが隠れたその先は――
近くで仲間であるゲン=アルクソウドの守護霊、山吹色の手品師、鳥頭人身の『偉大な神鳥』が直立している。ゲンその人は、ウグイの仲間のカノイの守護霊の能力に嵌められ、本の中に封印されている。その本は『偉大な神鳥』の足元に転がっている。『偉大な神鳥』が、周囲に神木の鞭を張り巡らし、蜘蛛の巣のように草木の蔓を広げている。これを結界として、敵の攻撃を防いでいるのだ。
ヒロミは、小人のまま、その結界の中に潜り込んだ。
神木の鞭の草木の蔓が蜘蛛の巣のように張り巡らされているとはいえ、そこには網の目の隙間ができる。小人化したヒロミならば、その網の目の中に潜むことが可能なのだ。
ヒロミ
「けれども、この蔓に触れてしまうと……」
網の目の中に潜める大きさになったとはいえ、神木の鞭の結界が何重にも張り巡らされているため、注意して動かないと、どうしてもその蔓の1本に触れてしまう。すると、結界がその触れた箇所めがけて、硬木先鋭の蔓が飛んできて攻撃してくるのだ。
ときどき、結界の中で神木の鞭が発動するので、ウグイはすぐにその異変に気付いた。
ウグイ
「なるほど、女はあの辺りか?」
目をこらし、ヒロミが神木の鞭の結界の中にいるところを見た。
見られたーー
ヒロミは発見されたことに気付いた。
だが、この結界の中にいれば安全だ。敵は、通常サイズの人間の大きさをしているので、結界の中にいるヒロミに近づこうとすれば、神木の鞭の攻撃を受けてしまい、大怪我をしてしまう。
そこで賊のウグイはニヤリとした。
ヒロミの方は、ウグイに発見されたと気付いたからには、そのウグイの挙動に注意を向ける。そのウグイが、結界の中にいる自分を見て、厭らしい笑みを向けるのだ。
何か、仕掛ける気だ――
ウグイ
「お前、オレがそっちに近づけないと思って、安心しきっているな? なるほど、その結界の中に潜んでいる限り、確かにオレはそっちに行ってお前を攻撃することができない。 だがな、お前を殺すのに、オレがそっちに行く必要はないんだぜ」
どういうこと?
飛び道具でも持っているのかしら?
でもこの距離よ。何かを飛ばされても回避可能よッ!
ウグイ
「まぁ、そんなに警戒はするな。 オレは何も弓矢を持ってきて、お前を射殺そうとか、そういうことは考えていないんだ。 もっと簡単に貴様をやっつけるッ! その方法はッ!」
その方法は?
ウグイ
「小人化をッ解除するッ!」
ヒロミが元の大きさに巨大化していく。
すると――
『偉大な神鳥』の結界の中にいたのだ。たちまち、張り巡らされた草木の蔓がヒロミの身体をとらえていき、四方から硬化した攻撃仕様の神木の鞭が飛んできた。
まずい!
ヒロミは守護霊『迷い犬』を使役して、できる限りの防御姿勢をとった。『迷い犬』が素早く爪を奮って遅いくる神木の鞭を切り払っていくが、その爪は見た目ほどの攻撃力がない。払いきれなかった神木の鞭の何本かがヒロミの肉体をえぐることとなり、彼女は重傷を負うことになった。




