表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/158

それとも落としたものかしら

 ヒロミ=ドグブリードが守護霊(トーテム)能力(スキル)で自我を取り戻したとき、ハイストン家の書庫の中で1人であると認識した。


 ともに入室した、アスカはもちろん、ゲンやキョウの姿も見えない。


 だが「1人」というのは、ヒロミの認識の誤りであり、書庫には2人の賊が潜んでいたのである。


 賊の名は、1人はウグイといい、もう1人はカノイという。2人は兄弟であり、守護霊(トーテム)使いである。


 2人の賊は焦っていた。


 その守護霊(トーテム)の能力で、入室してきたヒロミら4人の全員を、ハイストン家の書庫にある大量の書物の中に別々に封印したはずであった。そして封印した書物を探し出し、その書物を燃やして殺してしまおうと、そういう手はずであった。


 ところが、封印したはずの4人のうちの1人、ヒロミ=ドグブリードが早々に書物の中から抜け出してきたのである。


カノイ

「あ、あ、あ、兄貴、ど、ど、ど、どうしよう! あ、あ、あ、女が本の中から飛び出してきた!」

ウグイ

「焦るんじゃあねぇッ! 1人出てきたからって、どうだって言うんだいッ! 出てきたなら、また封印すれば良いだけじゃぁねえか」

カノイ

「けどよう、1人は守護霊(トーテム)を召喚してなんか能力(スキル)を発動しているし、こうして女が書物から出てきたんじゃぁ、今度という今度こそ、オレたちはヤバいんじゃあないのかい?」


 カノイがいう守護霊(トーテム)とは、ゲン=アルクソウドのものである。ゲンの、山吹色の手品師(トリックスター)、鳥頭人身の『偉大な神鳥(グレイトピーコク)』である。


 その召喚されていることは、ヒロミもすぐに認識した。


 守護霊(トーテム)が召喚されているということは、術者のゲンが、その身を守る必要に迫られたということである。


 それが、ヒロミの警戒心をさらに強固にさせた。

 守護霊(トーテム)の様子がおかしい。ただ木人形のように立っているのみであり、微動ひとつしないのである。


 何があったのか、とにかく調べようと近づいてみる。


挿絵(By みてみん)


 『偉大な神鳥(グレイトピーコク)』の能力(スキル)神木の鞭(セイクリッドウィップ)がヒロミを襲う。


 不意の方角から伸びてくる硬木の(つる)の攻撃であったが、白銅の獣聖『迷い犬(ストレイドッグ)』に守られているヒロミは、守護霊(トーテム)の俊敏なスピードでこれをかわした。


ヒロミ

「何なの? これは? 無差別攻撃?」


 そこで注意深く周囲を見回すと、『偉大な神鳥(グレイトピーコク)』から何本もの草木の(つる)が発せられている。その木の(つる)を、守護霊(トーテム)偉大な神鳥(グレイトピーコク)』を中心に蜘蛛の巣のようにはりめぐらせ、これに触れた者を自動で攻撃する仕組み(ギミック)にしているようだ。


カノイ

「あ、あ、あ、アレだ。 アレのせいでオレたちは男の()に近づけねぇ」

ウグイ

「おいカノイッ! てめぇ、さっきから(うるせ)いぞッ。 今は、女が本の中から抜け出しているんだ。 そうベラベラと声をたてると見つかっちまうじゃねぇか!」


 この2人の賊の眼の前を、1対の巨大な足が通過していった。


 否、足が巨大なのではない。


 足の主は、ヒロミ=ドグブリードである。


 2人の賊は、ウグイの守護霊(トーテム)の能力で、親指ほどの大きさに縮小しているので、注意深くあたりを観察しなければ発見されることはない。


 このように賊に観察されていることにも気づかずに、ヒロミは、眼の前の守護霊(トーテム)の術者であるゲンの姿を探した。


 見当たらない。


 守護霊(トーテム)偉大な神鳥(グレイトピーコク)』の足元には、ゲン愛用の錫杖が無造作に投げ出されている。ゲンは、この錫杖を用いて守護霊(トーテム)を召喚する。ゆえに、ゲンはその近くにいるはずである。また、守護霊(トーテム)が発現しているので、無事なはずである。


 さらに注意深く守護霊(トーテム)を観察すると、その足元の床上に一冊の()があった。本は書棚にあるものだから、これは、何かの拍子に落ちてきたものか。


ヒロミ

「それとも、()()()()ものかしら?」


 ヒロミは、自分がどのような状態から自我を取り戻したか、思い出した。


 そうだ、自分は確か、『論語』の孔子と会話をしていたのだーー

 『迷い犬(ストレイ・ドッグ)』の能力(スキル)を使って気がついたときには、眼の前に書物の『論語』が落ちていた。

 そのことからすれば、それまでの自分は、この『論語』の中に封印されていたのではないか。敵の能力(スキル)は、どうにかして人を書物の中に封印するものではないのか?


 そして、ゲンの守護霊(トーテム)、『偉大な神鳥(グレイトピーコク)』の足元に、一冊の()が落ちている。


 ゲンはおそらく、あの()の中にいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ