それも想定の範囲内
コウセイとオビトが潜入していった古墳の前、ナーニャとシラクの幼姉弟を守っていたヒロヨは、盗賊団『朱屍党』の刺客に襲われた。
刺客のナシールは守護霊の能力である保護色を用いて周囲の風景に溶け込んでおり、ヒロヨからはその姿が見えない。
周囲は、ナーニャとシラクの能力で、防壁として生成された竹林である。ナシールは、その竹のうちの1本の高い部分によじのぼり、じっとヒロヨの隙を伺っている。
敵はどこだ?
ヒロヨは辺りを注意深く観察した。
無差別に周囲を攻撃するのは愚策だ。幼いナーニャとシラクが動揺し、2人が林間焼葉を発動してしまって、さらに敵を発見し難くするおそれがある。
竹同士のぶつかる音がする。
その音がする方を見上げると、1本、大きくしなる竹があった。風もないのに、その周囲の竹に微妙な動きがあり、それで竹同士がぶつかっているのだ。
さては――
ヒロヨ
「火焔光!」
ヒロヨの守護霊、輝ける闘士『太陽の法衣』の眉間からビーム弾が飛ぶ。
ナシール
「オゥワッ!」
気付いていないと思っていた相手からいきなり攻撃を受けたので、ナシールは思わず叫んでしまった。だが、距離がある。回避は可能だ。
そこでストンと、何かが落ちて来る音がした。
ナシールが、竹上から落下したのだ。『太陽の法衣』の火焔光を避けたところで、しがみつく竹から手を放してしまったのだ。
その瞬間だけ、ヒロヨはナシールの姿を見ることができた。
ヒロヨ
「火焔光! 火焔光!」
その見えた姿の辺りを狙って、『太陽の法衣』が連続攻撃を仕掛ける。
だが、当たらない。
ナシールは、再び保護色を発動し、周囲の風景に溶け込んでしまった。
ナシール
(この小娘……侮り難し……竹の上にいれば見つからないと思っていたが……そうでもないか……わが保護色も万能の能力じゃぁない……迂闊に近づけば見つかってしまう……だがこの竹林の薄暗さ……ここはひとつ……闇に紛れてみるか……)
ナシールはヒロヨから距離を取り、周囲の竹林と一体化した。
また、消えた――
おそらく敵は、姿を消して相手に近づき、隙をついて攻撃するタイプ。
だとすれば、敵に近づかれる前に発見して先制攻撃で仕留めるのが良いのだが、さて、どうしたものか。
ヒロヨは思案して、ナーニャとシラクに聞いてみた。
ヒロヨ
「この周りの竹だけれども、あなたたちは、これを枯らしてしまうこともできるの?」
ナーニャ
「カラス?」
5歳のナーニャは、十分な語彙があるものではない。『枯らす』という言葉が分からない。
ヒロヨ
「たくさんの落ち葉を作ってほしいの。 枯れた落ち葉をたくさん集めて、カサカサさせると、楽しいと思わない?」
ナーニャ
「カサカサ?」
ヒロヨ
「そう、カサカサよ」
シラク
「カサカサ! カサカサ! カサカサッ!」
ナーニャ
「カーサカサ! 分かった! カサカサ! カサカサ! いっぱいカサカサ!」
自分の願いは通じただろうか?
ナーニャとシラクが両手をつないで輪になって「カーサカサ! カーサカサ!」と歌いながら踊り出した。
すると、周囲の青竹が、しだいに黄色くなっていき、すぐに頭上から大量の竹枯葉がピラピラと舞い降りて来た。その様は、桜吹雪ならぬ笹吹雪である。
大量の竹枯葉が舞うものであるが、無風の中で落葉するその有様の中で、1ヵ所、不自然な動きをするエリアがあった。そのエリアにだけ、竹葉が積もらないのである。
ナシール
(む? この竹葉……大量の竹葉だが……この竹葉はまずいッ!)
ヒロヨ
「そこッ!」
竹葉が積もらない場所があるのは、そこに見えない何かがあるからである。
ヒロヨの『太陽の法衣』が火焔光を放つ。
だが、まだ距離がある。ナシールであれば、回避は容易だ。
ナシール
(この竹葉は……確かにまずい……だが……利用もできるッ!)
ナシールの特技は、保護色で姿を消すだけではない。日頃の鍛錬により、己の気配を消して行動することも可能なのだ。その場でジッと機会を窺うのではなく、この笹吹雪の中で移動しながら保護色を用いれば、その笹吹雪に紛れて自然に相手に近づくことができる。
そこで、再びナシールの姿が消えた。
ヒロヨは、その笹吹雪の中で、ナシールの姿を見失った。
ヒロヨ
「けれども、それも想定の範囲内ッ!」
ヒロヨの『太陽の法衣』が水撃波を発動した。守護霊『太陽の法衣』を中心に、四方へむけて大激流が発生した。
舞い降る大量の笹吹雪も激流に乗って一掃される。
流れる竹葉は、障害物ある場所でふきだまる。
そのふきだまった場所は――
大量の竹葉が人型のようにまとわりつく物があった。
ヒロヨ
「敵はそこッ!」
ヒロヨの『太陽の法衣』が火焔光を発射した。
竹葉がまとわりついた人型はナシールであった。
ナシールは眉間を火焔光に射抜かれて絶命した。




