友の窮地だ 炎の中だろうが何だろうがオレは行く
スティッグレイブ古墳――
名前こそ今に伝わっていないが、ここには古の大女王が眠っていると言われていた。
その御魂の加護を受けたゼンチィは、人格を奪われることを代償に、巨大な霊力を身に着けることになった。
そのゼンチィが、アスカ=ウィスタプランとゲン=アルクソウドを炎の中に閉じ込めて、最後はそこへ火球を投げ込み、大爆発させた。
すぐに黒煙が晴れる。
爆発の跡は、焼け焦げた地面のみが黒々と広がり、木どころか草一本残らぬ完全な荒れ地となっていた。
何もかも、跡形もなく消し飛んでいる。
マーモ
「アアァァァァァ!」
マーモが、両手で顔を覆って、膝をついて慟哭した。
オッグ
「あれはお前の友人だったのだろう? 許せ。 我々にもなすべきことがあるのだ」
マーモ
「なすべき事とは何なのですかッ! それは、人の命よりも重いことなのですかッ! あぁ、あなた達は恐ろしい人。 この方の事もそうですッ!」
マーモは、ゼンチィの事を指さした。
マーモ
「この人は、あなた達の仲間でしょう? それが、荒御魂に身体を奪われているのに、何とも思わなかった。 むしろ、利用した。 それが人の道ですかッ!」
この言葉を聞いたオッグ=アイランダーは、マーモの胸倉をつかんだ。
オッグ
「お前にッ! お前にゼンチィの何が分かるッ! アイツはなぁ、親兄弟、みんな殺されているのだッ。 誰にだって? この国のお天子様だよ。 お天ちゃんが軍隊送って、ゼンチィの親兄弟を皆殺しにしているんだ。 その無念がお前に分かるかッ!」
マーモ
「それを言うなら私も同じですッ! 私の父も、殺されました。 アナタの仲間に。 あの盗賊団にッ!」
その事かと、オッグは胸倉をつかむ両手の力を弱めた。
オッグ
「お前は、何も分かっていないのだ。 あの盗賊の本当の親玉が誰であるかを」
マーモ
「?」
オッグ
「ナガヤ王だよ。 ナガヤ王が盗賊団に命じてクレイマスタ家を襲わせたんだ。 それを知ったオレは、クレイマスタ家で養育されている2人の姉弟を救いたかったのだ。 だが、オレが駆け付けた時には、2人ともどこかへ逃げていた。 それでオレは、一時、盗賊団と一緒になって2人を追いかけていたというわけさ」
マーモ
「それは嘘です。 アナタはオビト皇子とヒロヨ皇女を襲っていました」
オッグ
「おいおい、オレ達はお天子様と戦おうという集団だぜ。 オビト皇子やヒロヨ皇女を襲うことに理由は要らないだろう?」
マーモ
「そ、そんな……」
このような会話を続けていたところで、ゼンチィが「もう良いか?」と聞いてきた。そこでオッグが話を切り上げた。
オッグ
「ゼンチィ――その、ゼンチィの時の記憶はどれだけ残っているのだ?」
ゼンチィ
「記憶はある――だが、理解ができぬ――我は、何をしたいか――」
オッグ
「ならば、一緒に来てくれないか。 紹介したい人がいる」
そうしてオッグは、ゼンチィを連れて、主君と仰ぐヨーダ王が待つトライリング神殿に戻ることにした。
トライリング神殿に向かう途中、オッグはマーモに耳打ちをした。
ゼンチィの心は、必ず取り戻してみせる――
× × ×
???
「ちょっと! どこ触ってるのよ!」
???
「仕方ないだろう♡ ここは狭いのだからさぁ♡」
???
「あ、ダメ。 そんな風に動かないで」
???
「(赤面)」
ゼンチィが焼け野原にしてしまったスティッグレイブ古墳前の戦場である。果たして、アスカとゲンは、ゼンチィの火球の前、本当に跡形もなく焼失してしまったのだろうか。
2人が炎の海に包まれて、どこにも逃げ場がなくなった時、そこに駆けつけた別の2人組がいた。ヒロミ=ドグブリードとキョウ=ボウメイクである。
この2人は、元々はゼンチィの大鼻の能力に中てられて、鼻が巨大化してしまい身動きが取れなくなっていた。しかし、そのゼンチィがスティッグレイブ古墳の主に魂を奪われ、その能力が解除された。これで2人は、戦場に駆けつけることができたのである。
戦場が何処であるかは、目の前でみるみる炎が立ち上るので、遠くにいてもすぐに分かった。
キョウが、炎の中でうずくまるアスカとゲンを発見。すると目の前から、大きな火球が飛んでくるのが見えた。
通常ならば、自慢の守護霊を召喚して、この火球を弾き返すところである。ところがこの時、キョウはハイストン神殿で賜与された六叉の鉾に気をとられていた。今こそ六叉の鉾を使って守護霊を召喚する時と念をこめたが、何も起こらない。
火球が目の前に迫っている。
ここで何もしなければ、せっかくアスカとゲンを助けに来たのに、助けに来たばっかりにパーティ全滅である。
そこでキョウは、何を思ったか、否、戦士としての本能に基づく行動と言っても良いかもしれない、咄嗟に六叉の鉾を構えて2人の前に立ち、これで火球を受け止めようとしたのである。
キョウはこれでゼンチィの火球を受け止めて、人力でこれを打ち返した。
六叉の鉾は、ハイストン神殿で守り続けて来た神宝の一つであり、100の守護霊をも退けることができると言われている霊剣である。それが故にできた芸当だったと思われる。
火球は、キョウがこれを六叉の鉾で打ち返した衝撃で大爆発した。
しかし、一面、炎の海なのである。このままでは、パーティ全員が一酸化炭素中毒で死亡してしまうかもしれない。
そこで駆け付けたもう1人のヒロミは、その守護霊、白銅の聖獣『迷い犬』を召喚して、大急ぎで地面に穴を掘ったのである。その掘った穴の中に4人で隠れ、上に土の蓋をした。これで、炎の熱さをしのぐことができた。
ゼンチィやオッグの気配がなくなったところで、4人は地面の中から這い出て来た。
ヒロミ
「もう、大変だったのよ。 キョウが無闇に炎の中に突っ込んでいくから」
キョウ
「友の窮地だ。 炎の中だろうが何だろうか、オレは行く」
ヒロミ
「それですぐに大火傷を負うものだから、こっちは回復の連発でヘトヘトよ」
アスカ
「おかげで……助かったわ。 ありがとう」
ヒロミ
「それにしても、何なの? さっきの炎は? 巨鬼でも現れたというの?」
ゲン
「いや、あれは巨鬼ではないよ。 別の敵だ。 敵が、また恐ろしい力を手に入れたようなのだ」
キョウ
「だから、どうした。 そうであろうと、オレは、任務通り巨鬼を退治するまで」
ゲン
「それは無茶だ。 第一、君は、せっかくもらった六叉の鉾から守護霊を召喚できないでいるじゃないか。 キョウ、焦ることはないんだ。 そうだよ、巨鬼は必ず僕達で斃す。 けれどもその前に、人に会ってみないか?」
キョウ
「人の手は、借りたくない」
ゲン
「そうではない。 君が六叉の鉾から守護霊を召喚できるようになるために、人に会うんだ。 巨鬼退治はその後だ」
そういうことならばと、キョウはゲンの提案を承諾した。
ゲンによれば、その人は、目指すフジワラ京に住んでいるという。




