お義兄様のトーテムの真名は @ ここで本編に戻る
ウゴウ=ウィスタプランは、父親のフヒト=ウィスタプランに命じられて、我らが主人公オビト皇子を暗殺しようとしていた。殺されると覚悟したオビトが守護霊の召喚に成功したため、ウゴウも守護霊を召喚した。
オビトとウゴウ=ウィスタプランの守護霊決闘が始まる。最後はお互いの能力、霊刀と超回復のぶつかり合いとなったが、能力の応酬となると最後は精神力の勝負となる。このような消耗戦では、守護霊使いとして修練を積んでいるウゴウにオビトが勝てるはずもなかった。
ウゴウの守護霊、琥珀色の大賢者『知恵ある商人』がオビトの黒装束の守護霊の頭を掴んで、高々と持ち上げている。
オビトの守護霊を無力化したウゴウは、自らオビトの胸倉をつかみ、締めあげている。
ウゴウ
「思い知ったか! 今、オレは、貴様の生殺与奪の権を握っている。 何か、言い残すことはないか?」
オビト
「ま……まだです」
ウゴウ
「まだ、だと? まだ戦うつもりでいるのか? 能力値は、わが『知恵ある商人』の方が君の守護霊よりも優れている。 君の守護霊の霊刀は恐るべきだが、君は精神力を使い果たしたようであり、その能力はもう使えない。 いったい君に、何ができると言うのだい?」
オビト
「分かったんです……」
ウゴウ
「分かった、だと? ハハハハハ! 君が、オレに勝てないということを、今さら分かったというのかい? 分かったところで、君が、今この場で、殺されるということに変わりないがなぁ!」
オビト
「違い……ます」
ウゴウの目から、嗤いが消えた。
不快だ――このガキ、まだ何か企んでいる――
ウゴウは、オビトの頬を、思い切り引っ叩いた。
オビトは、ウゴウの顔をにらみ返す。
死にたくない――ならば残された手段はただひとつ――
オビトが、ひるまず話を続ける。
オビト
「お義兄様は、さっき、自分のトーテムについて『文殊菩薩とも対等に渡り合』ったと言いました。 それで、思い出したんです」
ウゴウ
「何が、言いたい?」
オビト
「お義兄様は、ご自身のトーテムを『知恵ある商人』と呼びました。 これは、トーテムの正体を暗示しているものではないのですか?」
ウゴウ
「いや、やっぱり聞かない。 もう黙れ」
オビト
「そして、お義兄様は、お尚父様|(フヒト=ウィスタプランのこと)から授かったという大経典からトーテムを召喚しました。 経典は仏具のひとつ、ならばお義兄様のトーテムは仏教系と推察されます」
ウゴウ
「黙れと言っているのだ!」
本当に黙らせたかったら、有無を言わさずオビトを殺せばよい。ウゴウはそれをしなかった。否、人を殺す度胸がなくて、できないでいるのだ。
オビト
「おそらく、その経典は、クダラ国の尼僧から授かったもの。 その由来はこうです。 その昔、大祖父様|(カマコ=ウィスタプランのこと。 フヒトの父親であり、今は亡い)が大病を患ったとき、とある居士の像を作って読経をすれば完治すると言われたことがあると聞きました。 お義兄様が持つその経典は、その時のものでは無いのですか?」
ウゴウ
「黙れ! それ以上、話をしたら本当に許さぬぞ!」
オビト
「いいえ! 黙りません! その経典の名は、ヴィマラキールティ=ニルデーシャ=スートラ! 居士の名は、わが国では維摩居士と呼ばれている者! 維摩居士は、天竺国の商人にして文殊菩薩とも議論ができたという大賢者! したがって、お義兄様の守護霊の真名は、維摩居士その人、すなわちヴィマラ=キールティです!」
正解だった。
ウゴウの『知恵ある商人』は能力値が半減して能力を失い、これに掴まれていたオビトのトーテムは容易に離脱。
守護霊の真名を言い当てられたウゴウは戦意を喪失し、オビトの胸元を締め上げる両腕からは力が失われた。




