渡り廊下の出来事
不埒な描写があります。
「最悪ですわ」
私の右斜め前の席と左斜め前の席にあの双子がいました。
「どうしましたの?南雲さん」
「桜さん、大丈夫なのですの?あの双子に挟まれて…」
可哀想なヒロイン体質…桜さんの席はあの双子の間の席でした。
「えぇ、話して見ると、とても面白い方達なの。」
「そ、そう…」
笑顔で言ってのける桜さんに、私は歯切れの悪い返事をした。
「なぁに、2人でヒソヒソ話してるの?」
「僕らも混ぜてよ」
本当にさっきとは打って変わった態度に、私は嫌な態度をとってしまった。
「勝手にどうぞ。私は、気分が悪いので保健室に行って来ますわ。」
「大丈夫ですか?」
「えぇ」
私は席を立ち、保健室とは違う方向に歩いて行った。
保健室は言い訳で、少し散歩をしたいと思ったのだ。
広い校舎を歩くのは楽しくて、私の教室からは結構離れた渡り廊下まで来た時だった。
「友達に嘘ついて散歩?結構性格悪いんだね」
風に靡かれながら振り向いて見えた髪色は、琥珀色だった。
双子の片割れ伊吹がそこにいたのだ。
「皐月くんを残していて良いのかしら?見たところ皐月くんも桜さんに惚れていると思うのだけど。」
私に嫌味を言いに来ただけなら帰れ!と言う眼差しで伊吹の方を威嚇していると、伊吹の顔が素っ頓狂な顔になっていた。
「お前…俺達を見分けられるな!」
ダンッと勢い良く壁に押し当てられ、伊吹の口調が変わっていることに気付かなかった私は、少し咳込んだ。
「言え、どうやって分かった」
「ッ、こほ…先ず離しなさいよ!」
ギリギリと女相手に胸倉を掴んで迫る伊吹に、私は掴まれている胸倉を引き千切って伊吹から離れた。
破れた服が風に靡かれ空へと飛んで行く。
「ほんっと最低。私、貴方みたいな人嫌いなの」
「っっ、言え。」
私の軽蔑の眼差しに一歩引き下がった伊吹は、それでも理由を聞きたいのか攻めてくる。
私はわざと長い溜息をして、伊吹の方を見据えた。
「知らないわよ。強いて言うなら声のトーンね。伊吹の方が少し低くて皐月の方が少し高い。って言っても絶対音感は無いんだけど」
理由を知りたいだけなら、もう私に構わないでしょう。私は胸元を握り締め今度こそ保健室に行こうとした。
「ごめん!僕が悪かったよ!このジャケット使って!」
と、伊吹はうるっとした目になり、着ていたジャケットを私に着せた。
私は伊吹の切り替えの早さに寒気と嫌気が差した。
「巫山戯ないで。見分けがつくと分かったらコロッと態度変えて…こんなジャケット、必要無いわ!」
私は無理やり着せられたジャケットを外に脱ぎ捨てた。
どうして外に脱ぎ捨てられたかと言うと、お忘れかもしれないが此処が渡り廊下だからだ。まだ春の初め…寒い。
(くっそ…風邪でも引いたらどうしてくれよう…)
私は小さなくしゃみをして、保健室へと足を運んだ。
(わっ…綺麗。)
保健室に行くまでの道のりで壁にとても細かい彫りをしている階段があった。
私は、天使と蓮花を表現した、その彫りに手を滑らすと誰かの手に当たる。
(誰かの気配に気付かないほど見惚れちゃってた…?)
ちょっと恥ずかしい気持ちになりながら、すかさず謝った。
「ごめんなさいっ、気付かなくて…」
しかし返事は帰ってこない。
そ~っと、隣にいる人を見て見ると真剣に彫りを指でなぞっていた。
芸術の方に興味がある人なのか一向に私の存在に気付かない。
その彫りを見つめる私と同じ碧の瞳が心地良くて、その場で膝を抱えて座った。
時計の音がチクタクと、耳に滑り込んでいく。
ガラス張りの窓からポカポカと暖かい熱が入り、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
コツ…コツ…と身体の動きに合わせて廊下に鳴り響く、足音。
「起きてしまったかい?」
薄く目を開けると逆光で顔がよく見えなかったが、状況は理解できた。
「ぇ…ごめんなさい…邪魔をし、てしまいましたね…」
そこまで言って、また暖かさから彼の腕の中で眠ってしまった。
*****
次に目が覚めた時、保健室のベッドで寝かされていました。
「目が覚めたか?ユキ。」
「あれ、どうしてアベルが此処にいるの?」
目を擦り大きく欠伸をして、身体を伸ばす。
そして、もう一度白衣を着た保健医を見つめる。
赤髪に瑠璃色の瞳を私の黒のカラコンに絡める様に見つめる保健医は、私の幼馴染み兼教育係のアベルだった。
「ラスベガスで遊ぶのではなかったのかしら?」
「そのお嬢様みたいな口調やめろ。気色悪いぞ」
「だってお金持ち学園だからお嬢様みたいな喋り方の方が合ってるでしょ。」
ふんっと、ソッポを向いた私にアベルは段々と近付いてくる。
とうとう、私が寝ているベッドに近付き、破られた胸元を凝視した。
「で?その服はどうしたんだ。」
何時もより少し鋭い眼で見られ、私は溜息を吐いた。
「なんでもないわよ。」
これ以上聞くのはやめて欲しいという思いが伝わったのか、アベルはこれ以上追求しなかった。
「分かった。早くシャツのボタン外せ」
アベルの言う通りにボタンを外し、新しく貰ったシャツに袖を通す。
「ありがとう。」
「あぁ、もう少し俺は巨乳に育ってくれることを望むよ」
「ん?」
アベルはどさくさに紛れて私の胸を揉んでいた。
「こんの…エロガッパ!」
「お前、何時も下着姿の癖によく言うよ。早く大きくなれよな」
私は、短い溜息を吐いたアベルに怒りを表すため2.3度叩き、保健室から出ようとする。
「おい、ユキ。ちゃんとユキを運んでくれた奴に礼を言えよな」
私に叩かれた背中を摩りながら保健室に繋がるドアを指差す。
「え、アベルが運んでくれたんじゃないの?」
「いや、金髪碧眼の男がお前を連れて来たんだよ」
「私…あのまま寝ちゃったのか」
自分の失態に恥ずかしくなり、どう顔合わせしていいのか分からなくなった。
「まぁ、アベルは早くラスベガスに帰ってよね!いくら面白そうなゲームを私がしてるからって途中参加不可なんだから!」
アベルに指を差し女子用のジャケットを着て保健室を出て行く。
「ばーか、誰が参加するかよ」
アベルがユキに言った時には、ユキはもう保健室を出ていた。
「あ、ユキの奴、ユキを連れて来た奴が阿呆だということを知ってんのかな」
まぁ、いいか。とアベルは鼻歌を歌いながら、ラスベガスに帰ることをやめたのだった。




