女子高生、バズる
「苺ショートと、チョコレートパフェ。あと、アイスコーヒーも」
私、東堂凛花は駅前のケーキ屋「ベル・エポック」で豪勢に注文していた。
ダンジョン報酬が入ったばかりだから、今日くらいは贅沢してもいいだろう。
窓際の席に座り、運ばれてきたケーキにフォークを入れる。
甘くてふわふわのスポンジ。口の中に広がる苺の酸味。
「んー、幸せ……」
今日の出来事を思い出しながら、私は至福のひとときを味わっていた。
ドラゴンを倒した時のシロナちゃんの驚いた顔。配信コメントの大騒ぎ。
まあ、あれくらいなら数日で話題も消えるだろう。
そう思ってスマホを取り出し、ダンジョン関連のニュースを確認しようとした時だ。
「え、ちょっと待って」
画面に映ったのは、私の背中を写した映像。
『通りすがりの女子高生、ドラゴンを一撃で瞬殺!』
『正体は誰? 顔は映っていないが、髪型はツインテール』
『超絶美少女確定! 推しにしたい!』
「は?」
フォークを持つ手が止まる。
SNSのトレンド一位は『#通りすがりの女子高生』。
「ちょっと、なんでこんなことに……」
コメント欄をスクロールすると、次々と推測が書き込まれていた。
『あの装備、ダンジョン産のレアアイテムだよね?』
『身長からして中高生?』
『顔が見えないのが逆に良い』
『心霊写真かよ』
「なにこれ、怖いんだけど」
思わずケーキの皿を引き寄せる。
私の顔は映っていない。でも、髪型と服装で特定される可能性はある。
「はぁ……」
ため息をつきながら、私はチョコレートパフェにスプーンを入れた。
冷たいアイスが口の中で溶ける。
甘さが広がるのに、心の中は冷たい。
(あまり目立ちたくはないんだけどな……私の平穏な早期リタイア計画が…)
スマホの画面では、相変わらずコメントが流れ続けている。
『早く正体バレないかな』
『推せる!』
『クンカクンカ! ハァ〜』
私はケーキを一口食べ、静かにスマホを伏せた。
「……今日のところは、とりあえず帰ろ」
苺ショートを平らげ、会計を済ませる。
外に出ると、夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。
ポケットの中でスマホが震える。
通知は、まだ止まらない。
私は空を仰ぎ、小さく呟いた。
「……面倒くさい」
こうして私は、自分の知らぬ間に『通りすがりの女子高生』として全国に知られていたのだった。
(誰か、私の平穏な早期リタイア計画を、どうにかして――)




