開戦②
「現在の戦況はどうなっている?」
「グリスヴァルド側は苦戦しているようです。押し返される心配は無いかと。予定通り、時間稼ぎに徹しています。」
「そうか。順調そうだな。」
「はい。」
森の中、一際大きなテントには、ブラッドヴァルド帝国側の指揮官と、報告に来た兵の2人が会話を交わす。
「雑兵供には、このまま好きに動かせろ。ただ、出来るならば奥まで攻めさせろ。魔法使いは早めに消しておきたい。長期戦になる。そうなると、魔法使いが多いグリスヴァルドが、有利になるやもしれないからな。」
「宜しいのですか?作戦も何も無く、無闇に突撃させても無駄死にする可能性が高いですが。」
「構わん。奴等はいつでも代えが効くような無象無象供だ。隊長格が死んだら困るが、黒鋼騎士団が居ない今回は、死ぬ事は無いだろう。」
「そうですね。分かりました。」
「とはいえ、奴等にはあまり奥まで行かないように言っておけ。多勢に無勢だ。ある程度腕が立つとはいえ、死ぬやもしれん。」
指揮官の男は、各隊長の損失は痛手だと言う事は理解しているため、無理はさせない。
「侵攻度はどれくらいだ?」
「はい。ある程度奥まで入れておりますので、後衛に到達するのは時間の問題かと・・・ただ、1部、押し返されている箇所があります。」
「なに?どこだ?」
予想していなかった応えが帰ってきて、指揮官の男は兵を睨みつける。
「は、はい。Aランク冒険者達が数人居る箇所が、突破出来ないのです。」
「Aランク冒険者・・・もしや、その中に踏破者が混じっているか?」
「混じっております。そいつが非常に厄介でして、」
「やつが居るのか・・・てっきり、ダンジョンブレイクの対処に当たっていると思っていたが、まさか街に残っていたとは。いつもいつも我らの邪魔ばかりしおって!」
指揮官の男が激昂する。
その男に相当な恨みがあるようだ。
「それ程までに、奴は強いのですか?時間が経てば倒せるのでは・・・」
「無理だ。雑兵共では束になっても敵わん。どれだけ時間をかけようともな。それに、ずっと前線に居るわけでは無いだろう。」
「そうですね。踏破者とはいえ、人間ですものね。」
「そういう事だ・・・一旦引かせろ。待機命令を出せ。少しの間休憩させていろ。」
「攻め続けなくて宜しいのですか?十分数は居ますが・・・」
「いい。奴らの注意を引きつける事が目的だからな。奴らは森から目を離せないだろう。全隊に伝えろ。」
「はっ!」
そう言って報告に来ていた兵は、テントの中から出ていく。
「・・・ふう。忌々しい冒険者め。あやつも、あやつの弟子も、いつも我々の壁となるな。」
男は苛立ちが隠せなかった。
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「止めろ!これ以上奥まで入らせるな!!」
「わかってる!!」
「固まれ!単独で動くな!!」
現在の状況は非常にまずい状態だ。
敵が1部、奥まで到達してしまった。
すぐに対処に当たったが、その時にはすでに、後衛組に被害及んでしまった。
このせいで、グリスヴァルド側は一気に不利になった。
このまま行けば、黒鋼騎士団が来る前にグリスヴァルドは占領される。
敗北の2文字が全員の脳裏によぎったであろう。
「三番隊!もう少し下がれ!!最前線に出すぎだ!」




