戦争準備…②
夜の森に、冷たい風が吹き抜ける。
焚き火の炎が揺らぎ、幾つもの影を不規則に揺らす。
ブラッドヴァルド帝国軍の野営地には、戦いを前にしても、張り詰めた空気のような物は薄かった。
「斥候部隊が帰還しました。」
周りよりも一際大きなテントの中に1人の男が入ってくる。
「あぁ。・・・どうだった?」
「はい。変わらず、黒鋼騎士団と多くの冒険者達がダンジョンブレイクに手を焼いているようで、少なくとも後、数日はかかるでしょう。グリスヴァルド内には殆ど戦力が残っていないかと。」
「そうか。別働隊の動きは?」
「少し苦戦しているようですが、あの村を滅ぼしきるのも、時間の問題でしょう。」
「ふん。滅ぼせるのなら、問題ない。設置班は本隊が動き次第、アルツ村方面から向かわせろ。絶対にバレないように細心の注意を払えよ。」
「はい。その、少し疑問なんですが。」
「なんだ?」
報告に来た男が恐る恐る質問をする。
「黒鋼騎士団が居ない今なら我々だけでもグリスヴァルドを占領出来るのでは?と思いまして。」
「無理だ。占領した所で、奴等がいればすぐに奪還される。それでは意味がない。」
「・・・それ程までに奴等は強いのですか?」
「ああ、お前も我らの国の王直属のイカれた戦闘狂供を知っているだろう?グリスヴァルドの騎士団は殆ど被害出さずに、あれを退けたんだ。」
「なっ!?そ、それは本当なんですか!?そんな事が・・・」
「事実だ。私がこの目で見たからな。我が国でも類を見ない、最強の部族であった、あの戦闘狂供がなす術もなく殺される様を、俺は見たんだ。」
「そ、そんな相手に我々は勝てるのでしょうか?」
「その為の今回の戦争だ。奴等を殺すには、念入りに準備をしなければならない。上層部の奴等は数年規模の作戦を立てているようだ。今回の戦争もその一つに過ぎん。」
「・・・」
ごくり、と唾を飲み込み音が聞こえる程に、このテントの中は静寂に包まれる。
「話は終わりだ。全隊に通達せよ。すぐに動けるように準備しておけと。」
「は!」
男がテントを出る。
全隊に先程の言葉を告げる。
ブラッドヴァルドの脅威はすぐそこまで迫っていた。
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「私が今回の総指揮を務める、エルンストだ!皆、よろしく頼む!」
1人の男が、壇上に立つ。
「クラウス、エルンストさんって、確か領主だよな?あの人も戦争に参加すんのか?」
「?当たり前だろう。上の者が前線に出ないと、士気が下がるだろう。」
「え!?前線まで出んの?大丈夫なのか?」
「安心しろ。あの人は過去、冒険者でAランクにまで上り詰めた。簡単に死ぬことはない。それに、全隊の指揮を取らないといけないから、ある程度俯瞰出来る位置にいるだろう。」
Aランク!?
あの人そんなに強いのか!
でも、よくよく考えてみれば、長い間ブラッドヴァルドから街を守ってきたわけだし、上の人間が戦争について知らないと守る事もできないか。
「グリスヴァルド付近の森に、ブラッドヴァルド帝国軍の本隊を発見した!いつ攻められるか分からない状況だ!いつでも迎撃出来るよう、君達は街の外で準備しておけ!!」
「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」
領主の館の庭に集まった、数多の冒険者と兵士達が雄叫びを上げる!




