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上月瑠璃

「はい、はい。どうもご協力ありがとうございました。」


 覆面パトカーの中で電話していた西野はそう言うと通話を切った。


「C県立F高校の200X年度卒業生には、確かに柳 大輔と言う生徒がいたそうですよ。現役でT大に受かったそうですから、相当優秀だったみたいですね。少なくとも一部は裏が取れましたね。やっぱり本人が言うように被害者宅に引っ越すまでは関係なかったのでは?」


「なあ、西野よう。さっきのあれはどう思うよ。」


「あれですか? どうもこうも分かりませんよ。何かトリックがあるかもしれません。でもね、あの部屋の家賃が同じ階の同じ間取りの部屋の半分だってのはさっき大家に確認したじゃないですか。それでも直ぐ出ちゃうって言ってましたよね。」


「あんな話、課長に出来ないぞ。」


「そうですね。奇妙な現象ですが、事故の犯人検挙とは直接関係無いですし。それにしてもあの柳とかいうのは所謂霊能者なんですかね? 被害者の名前の読み方や事故状況を知ってたのも霊に教えてもらったとか?」


「仮に被害者の証言が得られるなら手がかりになるかもしれんが、祈祷師の口寄せみたいなのが証言と認められる事はありえん。もっと情報を持ってるかもしれんが、あの様子だと協力も得られそうにないな」


「……(それは七五三田さんが犯人扱いしたからでは?)」


「一旦署に戻るぞ。」


 七五三田がそう言うと覆面パトカーは動き出した。



『大輔は被害者である私の手伝いをしてるってのに。ホント失礼しちゃう』


「殺人説を支持しようと思ったんだが、ちょっと口が滑ったな。あの刑事が俺を疑ってたのは分かってたんだが」


『とにかく、あいつら当てにならないよ。私たちが犯人を見つけないと』


「それなんだが。俺はあんたの高校時代の人間関係を知らないし、動機の点から犯人を推定することが出来ない。もしあんたの親友が犯人じゃないなら、彼女の協力を得たい。彼女が犯人だという可能性はあるか?」


『瑠璃ちゃんが私を殺したって言うの?』


「そんな事は言ってない。その可能性があるかと聞いてるんだ」


『そんなのあるわけないでしょ』


「だが、あんたが死んで彼女が後釜に座ったわけだろ」


『東京に出てから再会して付き合い始めたって言ったよ』


「彼女の言い分ではね」


『彼氏奪うために彼女殺すなんて考えられないよ。それに、健二君の話は瑠璃ちゃんが言い始めたんだよ。もしそんな事したんだったら、絶対健二君と付き合ってるなんて言わないよ。車の運転だって出来なかったはずだし』


「そうか。まあ高校生なのに痴情のもつれで殺人は無いか。彼女が関係してないなら良いんだよ。彼女に協力してもらおう」


『瑠璃ちゃんが美人だからって、色目使っても駄目だよ。もう結婚決まってるって言ってたよ』


「そんなつもりは毛頭無い。単に当時のあんたの人間関係を知る人から情報を得たいだけだ」


『そうだね、元彼女とよりを戻せば良いよ』


「どうしてそうなる」



 大輔は上月瑠璃に電話を掛けた。


「はい、ビューティーサロン上月です。」


「柳大輔と申します。上月瑠璃さんはいらっしゃいますか?」


「この来られた柳さんですよね。ノートの件でしたらお断りしたはずですけど」


「ちょっと事情が変わりまして。上月さんに事故当時の事を教えていただけないかと思いまして。特に高校での事です」


「何故そんな事を? 事故と関係があるのですか?」


「ええ、多分。詳しい事はお会いした時にお話したいと思います」


「分かりました。この前と同じ時間にお越し下さい」


「お伺いします」


 大輔は電話が終ると説明した。


「前に言った様に、もし犯人が君を殺す目的で待ち構えていたとしたら、犯人は天文部で流星群の観測会をやる事を知っていたに違いない。観測会の終了時刻を知って事前に待ち構えてないといけないからな。距離と移動時間から言って、観測会が終ってから移動したんじゃ難しい。だから観測会に参加してない人間で、観測会の事を知り得る立場のもの、そして君を殺す動機があるものだ」


「当時の事を思い出して、そう言う条件に合う人間が思いついたら教えてくれ」


『私を殺す動機がある人なんて思いつかないよ。私、誰かに殺したいほど憎まれてたの?』


「動機は様々だよ。憎んでいたとは限らない」


『分からないよ』


「では観測会の事を知ってたのは?」


『顧問の先生、天文部のみんな。他の先生も知ってたかも。他の生徒も天文部員から聞いたかも知れないし』


「君が天文部だって事を知ってたのは?」


『先生と天文部員とクラスのみんなは知ってるよ。それ以外の生徒も知っててもおかしくないけど』


「中々難しそうだな」


 そう言うと大輔はノートを閉じ、椅子の背もたれに寄りかかった。少し疲れた様に見える。ため息をつくと、ダイニングに向う。冷蔵庫を開けると、ペットボトルに入ったウーロン茶を取り出し、マグカップに注いで飲んだ。


 約束の時間ぴったりに上月家のドアのベルを鳴らすと、大輔はこの前と同じ応接間に招き入れられた。


「それで、どう言うお話でしょうか?」


「ちょっとこちらを見てください。」


 そう言うと大輔はノートを取り出し、事故の図面のページを示した。


「この図は平宮さん、と言ってもいいですよね、が警察で見たものを元に書いた物です。この×印が事故の時の平宮さんの位置、四角い箱が車の位置です。この状況から少なくとも刑事の一人は、犯人は故意に平宮さんを轢いたのではないかと考えてるようです。この辺に『刑事がホワイトボードに図を書いて、事故じゃなく故意にぶつけてるって』と書いてありますよね。」


「ええ。でもそんな事って。」


「この丸と矢印は私が書いたんです。ここ見て下さい。『自転車降りて国道を渡ってる時に吹っ飛ばされたよ。車だと思うけど見てない』って書いてあるでしょう。つまり、平宮さんは衝突するまで車に気づかなかった。立ち止まらず歩き続けたと考えられます」


「車体がこの位置に来るという事は、上か下の車線から移動してきたんでしょう。上側を走行していたんだったら、間違いなく故意にぶつけに来てます。だから下側の車線を走行していて上に逃げたと言うのが警察の公式見解です。でも我々は平宮さんが車に気づかず上から下に向って歩いていた事を知ってます。」


「車線変更に掛かる時間を考えれば、車線変更を開始した時平宮さんはもっと上の方にいた。平宮さんがもし車に気づいて立ち止まっていたら正面衝突です。警察の中にも少なくとも一人はこう考えてる刑事がいます。これは平宮さんを故意に轢いた殺人事件だと。」


 上月瑠璃はしばらく黙り込んだ後、答えた。


「それで、私は何をすれば良いんです?」


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