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殺人

『どう言うこと?』


「この大きな四角は君にぶつかった車、×印はぶつかった時のあんたの位置。あんたが倒れてた位置や自転車の位置、傷の位置なんかから推定したんだろ。この図が示すのは、あんたが第二走行車線の中央にいた時、車の右側に接触したって事」


『それがどうして殺人?』


「車は右側と左側の車線の真ん中、車線境界線上にいる。普通はどちらかの車線を走るから、走ってた車線から移動して車線境界線上に来たんだろ」


『それはそうだね』


「時速40kmで走っていたなら停止距離は20m、時間にして2秒弱だ。ブレーキかけずに回避しようとしたなら回避し始めたのは20mより近かったと考えるのが自然だ。例えば横断歩道に来る1.5秒前に車線変更を始めたとする。」


「一方あんたは立ち止まらずに歩いて横断してた。ぶつかるまで車に気がついてないからな。計算しやすいように秒速1m、つまり時速3.6キロだとする。」


 大輔は図に丸を描いた。


挿絵(By みてみん)


「車線は約3メーターだから、衝突した時あんたが車の進行方向に対して右側、図では下側だが、の第二走行車線の中央にいたなら、車が車線変更を始めた時、いたのはこの丸印のところ、車線境界線の上だ」


「左側の第一走行車線を走ってたのなら左に少しよければ良い。右によるのは当てに来てる」


「右側の第二走行車線を走っていたなら左によけるのは不可能じゃないが、丸の位置より左側にいく必要がある。つまり横断歩道前で完全に第一走行車線に車線変更を終えている必要がある。実際にはあんたが歩いて移動したから、ぶつかったのは車の右端ぎりぎりだったが、立ち止まってたらど真ん中だ。やはり回避するためにハンドルを左に切ったと言うのは無理がある。実際には移動し始めたのはもっとぎりぎりかもしてないが、どっちにしても左側に歩行者がいるのに左側に避ける事になる」


『じゃあ居眠りとかで車線境界線上をずっと走ってたとか』


「時速40キロでか? 後続車に追突されてるぞ」


『つまり、そいつは私をわざと轢いたって事ね。そいつは私を殺した』


「そうだ。あー、くそ。」


『何?』


「さっきの刑事だよ。なんか態度が変だと思ったら、あいつ、俺が犯人だと疑ってやがる。殺した相手の家に引っ越すって変質者的な殺人者だと。」


『これであんたも私を殺した真犯人を探さないといけなくなったよね』


「ああ」


 大輔は図をもう一度見た。


「俺達はあんたが車とぶつかるまで立ち止まってない事を知ってるが、警察は車が突っ込んできてあんたが立ちすくんだ可能性も考慮しないといけない。その場合、第二走行車線を走っていて第二走行車線の中央で立ちすくんでいるあんたを見つけたら、右に逃げてセンターラインを越えて反対車線に行くより左に逃げるだろう。だから警察は殺人と断定することは出来ないんだ。意見が割れるよ。交通事故が専門の交通捜査課が、事故を殺人と断定するのは立場上難しいのかもしれない」


「とにかく、もう一度現場に行ってみよう。」

 そう言うと大輔はショルダーバッグにノートを仕舞って外出した。事故現場の交差点を北側に渡って横断歩道から少し西側に行った所でノートを開いた。


「俺がもし犯人ならエンジン掛けて信号より少し前に停車して目標が来るのを待ってるね。勿論ヘッドライトは消してる。信号が変わるタイミングに合わせて発進して速度を上げぶつけて、そのまま走り去る。加速始めて5秒で時速40キロで交差点に突っ込んだとする。平均時速20キロとして秒速5mちょい。信号の25mか30m手前に路上駐車していた車がいなかったか?」


『そんなの覚えてないよ。それとさっきの計算と違ってない?』


「さっきのは、事故だと言う前提で巡航時速40キロで走ってる車が直前に衝突回避しようとしたって仮説が成り立つか考えてたんだ。今のは停車して待ち構えてた車が40キロまで加速する場合を想定してる。違ってて当然だよ」


 大輔は横断歩道から30m位西側に移動した。


「おそらくこの辺だな。左端に寄せて、ヘッドライトを消して停まる。後続車に追突されるのを避けるためにテールランプをつけてたかもしれないし、つけて無かったかもしれない。街灯の類は無いし、この位置ならかなり暗いな。自転車の方はライトは? 横を通るときあんただって分かるか?」


『自転車には発電式じゃなくて電池式のライト。私かどうか分かるかは知らない。部活で学校行く時は夏休みでも制服だから、I高の生徒なのは分かるかも』


「そうか。信号は? 交差点で信号待ちした?」


『多分着いた時は赤で青になるまで待ったと思う』


「そうか。それなら、犯人はこの辺で、ヘッドライトを消して待つ。横を通った時、制服であんたと判断した。信号が変わって直ぐ発進して、あんたの自転車の位置を自転車のライトで確認しながら加速する。あんたが歩き続けるので、少しづつハンドルを右に切っていく。位置が少しずれて車の右端をあんたにぶつけてそのまま通り抜けるっと。出来なくはなさそうだな」


『私を殺した奴は許さない』


「まあ冷静に。それで、天文部の天体観測が終ってこちらに帰ってきたのは一人だった?」


『そうだよ』


 大輔はそこまで確認するとノートを閉じてスーパーに向った。なべ一杯に作ったカレーも昼食で食べきったから、新たに食材を買いに行く必要がある。



 時間は少し前に遡る。所轄のI警察署の一室。上役らしい男と大輔のアパートを訪問した2人の刑事がホワイトボードに書かれた図を見ながら話している。上役は年配の刑事七五三田(しめた) 雄三(ゆうぞう)に怒りを顕わにした。


「だから何故そんな余計な事をするんだ。昨日職質を受けた男がたまたまあの事故の被害者の元住居に今住んでるからどうだって言うんだ。」


「でもその職質を受けたのが事故現場で、しかも事故発生推定時刻となると、単なる偶然とはおもえませんよ、課長。大体以前から言ってるように私はあれは故意だと思ってるんです。」


「見たまえ。被害者の推定位置がここ、車の右前方に当たってる。これは第二走行車線にいた被害者を避けようと左にハンドルを切ったんだろ。それ以外に何がある。」


「被害者は南側に向って横断していたんですよ。ハンドルを切り始めた時点ではもっと車線境界線寄りです。被害者を避けようと被害者側にハンドルを切るものでしょうか?」


「殺人だと言いたいのかね。時効が迫ってるからあせるのは私も同じだが、ちょっと強引ではないのかね。それにだ。仮に万が一殺人だったとして、当時17歳だったその男に何の関係がある? 二輪じゃなくて四輪の事故だぞ。」


「当時17歳という事は、被害者と同学年です。他県に住んでいてもクラブの全国大会だのなんだので知り合ったという事はありうるんじゃないでしょうか?」


「妄想もいい加減にしたまえ。第一被害者は天文部で天体観測からの帰りで事故にあった。天文部に全国大会があるのかね。西野も西野だ。七五三田が暴走しないように注意しろと言っただろ。」


「課長。俺には七五三田さんを押さえるのは無理です。七五三田さんは俺の親父と同じ年ですよ。」


「年の問題じゃない。それがお前の役目だ。」


「勘弁してくださいよ、課長。」


「課長。兎に角あの男は何か知ってます。放っておいて良い訳ありません。」


「だから止めろと言ってるだろ。そんな事より現場付近で検問するとか、情報提供呼びかけるとかやれることはまだあるだろ。」


「そんな事は散々やりましたよ。」


「時効までそんなに時間はないんだ。兎に角やれる事をやれ。まだ犯人逮捕の可能性はある。」

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