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星降る夜

 店側に出し物の手伝いだと言ってこっそり隠れて見てた大輔の前で、同窓会はめちゃくちゃになってしまった。『あきちゃん』も最初は言葉で説明してたが、渡貫(とつら)が手品だの何だのと言い出すとジョッキ飛ばしてビールを頭からかけたり、料理をぶっ掛けたり。幽霊もヒステリー起こすのかと大輔は疑問に思う。

 

 刑事が出てきて逮捕したら納まったが、『あきちゃん』納得したのだろうか? それとも渡貫(とつら)に取り憑いて恨みを晴らすんだろうか? 成仏してくれたら一番良いんだが。まさか、また部屋に戻ってくるんじゃないだろうな。


 大輔としてはやれる事はやったつもりだった。『あきちゃん』の希望はかなえたはず。『あきちゃん』がもし部屋に戻ってきたとしても、同窓会の途中でノートをもう使い切ってたからもうコミュニケーションの取る手段もない。使い切ったノートは警察に証拠品として持っていかれた。


 大輔はそんな事を考えながら駅からアパートに向って歩いていた。空には三日月が出ているが、街灯はあまり無く暗い。途中で見かけた桜の木は八分咲きという所か。


「そう言えば今年は桜の事なんか全然気にしてなかったな。よし、明日は花見に行こう」


 大輔が明日の予定を口にした所で、アパートにたどり着いた。アパートの外階段を上がって自室のある二階につくと、自室の前に人影がある。近づいてみると身長170cm位、リクルート向けの紺のジャケットと膝丈のスカートを着た女性が大きなスーツケースと一緒に立っていた。足を少し開いてがっしりと廊下を踏みしめ、左手を腰に当て、右手を伸ばして人差し指で大輔を指差すと大きな声で叫んだ。


「遅い。何してたのよ」


 大輔の元彼女の小野木(おのぎ) 亜希子だった。


「お前、何でここにいるんだ?」


「あんたの元同僚にここに引っ越したと聞いたのよ」


「いや、そういう意味じゃなくて何の目的でここに来たんだ?」


「あんたを待ってたに決まってるでしょうよ」


「待ってたって何故?」


「明日からI市民病院勤務なのよ」


「そうか、研修終ったから……ってI市民病院って。お前実家の病院継ぐんじゃないのか?」


「いずれは継ぐけど、とりあえず明日からはI市民病院の勤務医よ」


 大輔は頭を抱えた。


「明日からI市民病院勤務だと言うのは分かった。で、それで俺に何の用が?」


「だから、明日から勤務なのよ。それでここに泊めてもらおうと言うわけよ」


「いや、だからお前とはもう別れたって言っただろ。」


「『でもここは元々私の家よ』」


 大輔は目を瞬かせて亜希子を見た。


「『一段落ついたし』、明日から仕事なんだから『帰ってくるのは当然よ』」


「あきちゃん?」


「『ちゃん呼ばわりはお断りよ』」


大輔は唖然とした。


「取り合えず中に入れなさいよ」


「いや、ちょっと待った」


「もう待てないよ」


 暫くドアの前で押し問答していると、隣の部屋のドアが開いて、太った女性が顔を出した。


「何かありましたか?」


「いえ、大丈夫です。お騒がせしてすいません」


 大輔はそう言うと、渋々ドアを開けて亜希子を中に入れた。



 何ヶ月か経ったある日、二人はやって来た。何回も飛行機を乗り継いで。


 空港に降り立つと彼女は叫んだ。


「ついに来たよ」


 彼は少し疲れた様子で、彼女より年を取ってるかのように見える。事前に薬を服用し、順応に一日掛けたとはいえ、少し高山病の症状が出ているのかもしれない。


 二人は荷物を受け取るとタクシーで町に向った。空港の周りは何もない荒野で、真っ青な空に輝く太陽の日差しの反射は強い。町に入って少しして駅前にあるホテルに到着した。


 チェックインして部屋に荷物を置くと、直ぐにホテルのそばにある旅行会社に向った。まだ午前10時だったのでワンデーツアーにも間に合ったが、お目当ては夕方から出発するサンセットツアーだ。

英語でツアーの説明を聞くのもそこそこに、料金を払って予約をする。


 出発時刻まで町を見て回ったり、昼食したり、日焼け止めなどの準備をしたりして時間を潰す。時間の少し前に集合場所に行くと、同乗するメンバーは台湾人のカップルと香港人、何故か東洋人ばかりだった。現地人のドライバーと大型のRVに乗り込んでツアーに出発した。


 途中でレンタルの長靴の準備をした後、しばらく行くと前方に真っ白な大地が見えてくる。こうして二人は世界で最も平らな場所へやって来た。


 彼女の仕事の都合で日本人観光客に人気の雨季ではなかったが、地平線まで見渡す限り真っ白な世界。所々で停車して写真を撮ったりした後は、長靴に履き替えて局所的に水がある場所へ移動した。


 太陽が水平線に沈む。西の空の輝きが薄れていき、星はその数を増す。薄暮の時が過ぎる頃、彼らは星の光に包まれた。


「My god, it’s full of stars.」


「何よ」


「昔見た映画にそういうセリフがあったんだよ」


 二人は天頂を見上げる。降るような星だ。


「ありがと。願いがかなったよ」と彼女は言った。


 くしゅんと亜希子がくしゃみをした。


「確かにきれいな星空だけど、寒くなってきたわね」


「そうだね」


「私昔からハネムーンはビーチリゾートにしようと思ってたのに、何故こんな所にきちゃったのかしら?」


「いや、君がここに来ようっていったんだよ」


「確かにそうだけど。ね、次に海外旅行する時は絶対ビーチリゾートにしましょう」


 そういいながら大輔に向けた亜希子の顔は幸せそうに笑っていた。




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