てんやわんやな神の箱庭7
「あらあら、こちらの方々は中々隙は無いようですね」
無言で相対するギルツとセラ、そして大剣の先を地面に向け下段の構えで先生を見つめるバフマン。
こちらの戦闘は静かな開幕となったようだ。
セラは常にバフマンをサポート出来る位置を確保しており、ギルツはバフマンの後ろの線にいる。
セラから抜き打ちの矢が数本撃たれて、全て先生の顔に向かっている。
先生は杖を構えるが、矢は先生に当たる前に爆発する。
「ドッゴッォォォン!」
爆音と共に炎が巻き上がるがギルツは自分の周りに無詠唱で氷の壁を作る。
爆風の中からギルツ目掛けて走ってきた先生は氷の壁を飛び越えようとするが上から矢が降ってくる為、後方に下がる。
それを読んでいたのか大剣を肩に担いだバフマンが全身の筋肉を膨らませ、上段からの一撃を先生に振り下ろす!
「良い連携です。及第点ですね」
先生は歩行により半回転でその斬撃を避ける。
しかしバフマンは縦の剣戟を無理矢理横薙ぎに変え追従する。
横薙ぎをそのままの形で受けるかと思われた瞬間、その場にしゃがみ込み水平蹴りに移行する先生。
予想外の行動に後ろに飛び退くバフマンだが、そこに杖の突きが喉へと迫る!
「やらせん!」
ギルツの一言で、氷の荊が杖に絡みつき杖を凍らせていく。
しかし、杖の持ち手は既にその場におらず、横からセラのうめき声が聞こえる。
「気を取られすぎましたね」
セラの腹部に当身がされておりセラはその場で崩れ落ちる。
ギルツは氷の槍を放つが左右に揺れながら歩いてくる先生には掠りもしない。
「ギルツ!5秒だけ稼ぐ。それで何とかしろ!」
バフマンは大剣を捨て、本来の槍に戻す。
槍がしなり無数の蛇のように先生に襲い掛かるが、素手のままの先生は全てを払いながら前に進んでくる。
「自慢の槍さばきですら流され、払われるか!」
嬉しそうに笑いながら更に槍の速度は上がる。流石に先生も前に進む速度が鈍り硬直状態に陥る。
その隙にギルツは詠唱を終え、天から冷気が落ち始める。
天から堕ちてくる冷気は氷の龍となりバフマンと先生の膠着の場へと舞い降りる。
「すまん!(氷龍牙)」
氷の龍は全てを喰らい、辺り一面を白へと変えていった…
さて、ようやくうちの処刑時間だが三人に別れたうちの一人は既にマドックと撃ち合っている。
俺は公爵達の護衛だ。
あの人は人の隙を突くのが上手い。
動揺したものやダメージを受けた相手から脱落させていく。
だからこちらが動揺しないようにする為にも三人の護衛は必須である。
「ベルは酷い考えをしてますね。それは誤解というものですよ?」
マドックと戦っているのにこちらの思考すら読んでくる。
いっその事このまま頭脳戦でせめてみるか?
「それは戦いに無粋ですね」
マドックが弾き飛ばされこちらに飛んでくる。
俺はそれを受けもせず、先生に対し黒の長剣で斬りかかる。
(百鬼夜行)を放ち、先生に肉薄するがその殆どの斬撃は流され動きすら止められない。
次元の檻に閉じ込めるが次元そのものを切り裂かれる。
「技を多用し過ぎです。動きが読まれてしまいますよ?」
俺の顎を先生の左手が撃ち抜く。
その腕を俺は手首を極め先生を背中から落とすように振り抜く!
関節を決めてからの投げは、こちらの世界ではあまり見られない技だけに捉えたかと思ったが、先生は流れに体を乗せ更に自ら回転する事で技を振りほどく。
「いい技ですが知ってしまえば対処はできます」
こともなげに体勢を整える先生を見て思わず俺は叫んでしまう。
「この世界の神様が他の世界の技を使うのは良く無いと思います!」
「貴方達は何をしてもいいのですよ?私はこの体しか使ってないのですから」
こちらの批判を何とも思わず、むしろもっとやれと言われた気がした俺は流石に頭に血が上り、奥の手を発動する。
【完全制御】【神龍紋】【百花繚乱】起動、乱れ咲き舞い散れ!
神龍紋が体全てを覆い光の龍人となり先生を襲う。
完全制御が他の二つのスキルを制御し最適化させる。
技の数々は完全では無いものの無駄のない攻撃に隙はなく、神造体の体は人とは思えぬ力で破壊力を生み出す。
光の花が散りゆく中、俺と先生の剣と杖のぶつかり合う音だけが今ここで存在する音となる。
「無駄の無い動きゆえに読みやすい」
俺の剣豪としての剣技を捌き、俺の魔導師としての魔法を打ち消し、俺の挌闘技すらカウンターを取られ、更に倍増されて俺に痛みを返してくる。
「ぐふっっ!」
内臓がやられたのか胃から血が溢れて口から溢れる。
「ベル ⁈ …天使!手前やり過ぎだ!」
マドックの剣が輝き始め、光の粒子が集まり続ける。
勇者の動きは剣豪を超え、その体捌きはすでに芸術、先生の間合いに入るや否や杖の中央を切り飛ばし躱す先生の先を読む。
マドックの振るう一撃は他の誰よりも早く、他の誰よりも鋭く、先生の頰に一筋の傷を先生につけたのであった。
「合格です」
その言葉が紡がれると同時に、傷つき動けなかった者は元の姿に戻り、消えてしまった人達も戦う前の姿で帰ってくる。
この光景を見ていた公爵達は自分の目を信じられず何度も見返すのであった。
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