てんやわんやな前日回2
神の箱庭で宴会となった仲間達はさておいて、更に戦力を整える為に竜の島へと向かっていく。
オモチとリッツはついてきたので【飛行】による移動で竜の島へと向かう。
竜の島には神の箱庭の出入り口はつけてなかったので少々手間が掛かるが、自分が知る限り竜達の力が必要だし今の戦力では大人数を相手に出来ない。
出来ればトリヴェスを借りてきて多少の陽動をしてもらえればと考えている。
『何を言うのです ⁈ 私は貴方の召喚獣ですから呼ばれたら何時でもお供しますよ? ついでにワイバーンも10匹ぐらい連れて行けば人間なんぞ敵ではないでしょう』
自信満々に言われても、殺す気は無いんだが……
「取り敢えず陽動だけで良いから無理はしなくて良いよ? それに、その人達は操られている可能性が高いから殺す気は無いしね」
自分の言葉に多少不満気ではあったが召喚には応じてくれる事を確約する。
それにしても…ここにきてからずっとある竜からの視線を感じて困ってしまう。
周りに竜は沢山…いや、ほぼ島中の竜がいるかも知れない状態なのだが、その中に一際大きな竜がこちらの目の前まで来ているのだ。
「すいません。そんなに見つめられると流石に緊張してしまうんですけど」
ここに来てからしばらくして竜の王が来たのだが、無言でこちらを見続けるのでリッツが怯えて仕方がない。
まぁ正確には自分ではなくオモチを見ているのだけど…
「オモチ、お爺ちゃんが見にきてくれているから挨拶しなさい」
自分フードの中から中々出ようとしないので引っ張り出して竜の王の所まで連れて行く。
周りの竜が慌ただしくなってはいるが、こちらも忙しいので早めに終わらせたい。
「ギョピィ? 」
オモチが竜の王の顔を見ながら挨拶?をすると竜の王の表情が和らぎ顔をオモチへと近付ける。
『うむ。順調に育っておるようだの。神龍紋を持つ使徒よ、よくぞここまで育ててくれた』
「毎日美味しそうにご飯は食べてますね。最近食べ過ぎな感じはしますが大丈夫ですかね? 」
「ギョピピピ! 」
『竜は魔力が栄養だから通常の食べ物は嗜好品みたいなものだ。食べ過ぎても問題はないが、食べれないからといって死ぬような事はないから安心するがいい』
「そうなんですか。なら少し減らした方がいいかもね、オモチ」
「ギョッピィ ⁈ 」
竜の王の話を聞きながらオモチのダイエットを考えてみるが、つぶらな瞳に涙を浮かべるオモチを見るとその決意がいつまで持つか不安になる。
『それよりトリヴェスの力を借りたいという話であったが、何か問題でもあったのか? 』
竜の王の問いに多少躊躇したものの、力を借りる以上本当の事を言うべきだと思ったので今起こっている事を話す事にする。
『成る程、そのような事が起こっていたのか。それでオモチにも魔獣教団とやらの手が伸びてきたのか……許せんな! 神龍紋を持つ使徒よ。其方には大きな借りもあるし、何かあれば我々竜の一族がその総力を持って助力する事を誓おう』
竜の王の咆哮に続き、周りの竜まで咆哮する。
竜の島が震えるほどの咆哮の唱和に自分達は吹き飛ばされそうになるが、竜の王の結界により咆哮の衝撃波から何とかその身を守られる。
「わ、分かりました。助けがいる時はお呼びしますのでお願いします」
自分はそれだけを約束すると、気絶したリッツとオモチを抱いて神の箱庭に逃げるように帰っていった。
鼓膜にダメージを受けたものの竜の応援を取り付ける事が出来た為にかなりの余裕が出来た訳だが、今この場で行われている宴会をどうにかしないと次の行動に進めないのも事実だ……ほぼ無理矢理参戦させられた人達だし、今ぐらいは騒いでもらった方が良いかもしれない。
「何黄昏てんだ息子よ! お前も飲め! 」
いきなり口に突っ込まれた酒瓶に驚きはしたが、これはかなり出来のいい日本酒だ!
「父さん、何処から持ってきたの? 自分の記憶にはこんな酒を作った記憶は無いんだけど ⁈ 」
自分がここにいる間に作ってみた酒は芋焼酎にワインと蜂蜜酒だけだ。
日本酒も作りたくはあったのだが、毎日の先生による指導で中々米を作る時間までは取れなかったのだ。
「なんか天使のパニちゃんとやらがラシャンに作らされたって言ってたぞ? お前のスキルなのに本当に使われ放題だな」
ガハハと笑いながら日本酒を煽るマドック……すでにユーリッヒとハニカムさんは撃沈してる。
「こっちのウイスキーとやらもいい感じだぞ? ここは酒や飯が美味くてたまらんな」
赤ら顔のバフマンさんとセラさんがロックでウイスキーを飲んでるし…ギルツは横になってるけど大丈夫かな?
「あの……本当に大丈夫なんでしょうか?私、実はとんでもない人に援軍を頼んだんじゃ…」
言ってることは正しいけど、喋っている相手はそれ椅子なんですけど? ピュセルさん…
「戦う前の宴会は必要でしょう。これで皆の団結も深まると言うものです。ところで息子として母親にお酒を注ぐぐらいはしても良いとは思うのですか? 」
「そのくらいならさせてもらいますけど、どうしてお酒の種類まで増やしたんですか? 自分はこの世界に広めるつもりなんてないんですけど? 」
ラシャンの空のグラスに日本酒を注ぎながら、識天使として他の世界の知識をやたらめったらとこちらの世界に広めていくのはどうかと思っていると、ラシャンは寂しそうな表情でマドックを見ながら呟く。
「別にこの世界に定着させるつもりはありません。ただ……昔の貴方はお酒が好きなようでしたから…」
その言葉に対して俺は無言で自分のグラス日本酒を注ぎ、ラシャンのグラスに軽くぶつける。
久々に味わう日本酒は顔すら分からない家族との団欒が少しだけ思い出せた気がした。
自作品コラボの短編小説を投稿しております。この世界に少しだけ関係がある設定などが盛り込んでありますので、お暇な時間があれば読んで頂けると嬉しく思います。後書きの下にリンクを貼っておりますのでよろしくお願いします。




