てんやわんやな決戦前日
楽天使の使徒であるピュセルさんの苦労を可哀想に思いながらも、現状その竪琴に対応出来るのが【神龍紋】を【完全制御】で強化した自分だけだという絶望感が自分の心に突き刺さる。
「その事ですが、多分その竪琴はそこまでの力は無いと思います。オルゴールの方は楽天使様が自ら作り上げた物でしたが竪琴の方は楽天使様の設計された物を天使達の手で作り上げた物ですし…ただ一般人だと抵抗するのは無理でしょうけど」
ピュセルさんの話を聞いて神具にも色々ある事が判明したが、それでも危険物には違いはない。
「そうすると、ある程度の実力を持った仲間でないと敵に回るという事ですよね? これ……自分ひとりじゃどうにもならないんですけど…」
自分はラシャンを見ながら話をするが、我関せずといった態度をとるラシャンの前に自分程度のプレッシャーは効きそうになかった。
「わ、私がお手伝いしますのでお願いですから見捨てないで下さい! 私ベルさんのお力を借りれないとこのままじゃ、ブラウマウ大陸中の楽天使様の神殿から恨まれてしまいます! 」
……本当に楽天使様の使徒って大変なんだなと遠い目になる自分に目を合わせないまま、ラシャンが更に爆弾発言を告げる。
「こちらもそうなると不味いので私の勇者を派遣するとしましょう。幸いな事に、現在マルガス公国に居ますのでベルと共にピュセルの手伝いに回ればこの程度の困難はどうとでもなるでしょう」
「ちょっと待てよ! 何勝手に俺まで巻き込んでるの? 俺は創世神様の使徒であって識天使の使徒じゃないから ⁈ 神様に自由にしていいって言われてるのに何でこんな神様の後始末ばかりさせられるの? 」
思わず本音でラシャンに怒鳴ってしまったがラシャンはハンカチを目に当て、およよという雰囲気を出しながら、俺に対して反撃してくる。
「昔は『母さん』とまで呼んでくれたのに今じゃ反抗期になって、私は悲しいです。こんな事ではうっかり父親の方に更なる苦難を与えなくてはいけなくなるでしょう……例えば魔獣教団への単独突入とか」
汚い! 神様汚い! 流石にマドック1人で突撃させる訳にもいかず、思わずラシャンを睨んでしまうが本人は未だ泣き真似をしてピュセルを困らせている…あぁそのピュセルさんまで某チワワみたく、こちらを見てるし…
「分かりましたよ! ピュセルさんとマドックの手伝いをすればいいんでしょ? やりますから、もう嘘泣きはやめて下さい! 」
その言葉でピタリと嘘泣きをやめ、お茶に戻るラシャンを疲れた顔で見ながらピュセルさんに確認していく。
「ピュセルさんの方はどの程度の人数を集められますか? こちらは大体ですが上位冒険者3名にダークエルフと騎士を1名ずつ、それに識天使の勇者1名という所ですかね」
自分の言葉にピュセルさんは更に済まなそうな目でこちらを見ながら答えてくれる。
「実は楽天使様の部下にはほとんど戦闘に適した人がいないんです…それで私もそこそこは戦えますが、正面きっての戦いは苦手で。あ、でも竪琴の力は私が相殺出来ると思いますからそこだけは何とかしてみせます! 」
小さくガッツポーズをするピュセルさんを見ながら、今回も激戦は間逃れない事を諦めて受け入れてしまう自分だった。
取り敢えずピュセルさんにはこの場にいてもらい、念の為に作っておいた出入り口のマルガス公国の宮殿内の待合室へと神の箱庭から移動をして、【隠密】【気配遮断】【認識阻害】などを駆使して大公のいる場所へと向かう。
どうやら執務室に一人でいるようだが、護衛の隠密が2、3名ほどいたので申し訳ないが魔法で眠らさせてもらう。
「おぉ⁈ ベル殿ではないか! こんな夜分にどうしたのかね? 」
多少の驚きはあったようだが、すぐに平然と受け入れるあたり大公としての器の大きさを感じる。
「実は……」
これまで分かっている事を大公に説明するが大公の顔色が赤から青に…最後には白くなってしまうほどの内容に、大公も流石に冷静ではいられなくなってしまう。
「なんという事だ。このままではブラウマウ大陸全土に戦火が広がってしまう…しかし、下手に手を出せば我が国が他の国からの的になりかねん…これでは動かぬ! 」
大公の的確な判断に感心しながらも自分はこれからの行動の為、ギルツとハニカムを借り受ける事をお願いする。
大公は他の竜騎士なども動かしたいようだったが、流石にマルガス公国の主軸たる竜騎士を動かせば他国や魔獣教団にバレてしまうので丁重にお断りする。
「では、すまんが魔獣教団についてはベル殿に任すとしよう。こちらは他国が火種にならぬよう監視を十分にしていく事にする」
夜半の秘密の会話を終え、更にギルツとバフマンにセラ、そして不幸の代名詞になりかけているマドックを転移魔法で攫いつつ、神の箱庭へと運んでいく。
「そういう事なので申し訳ないけどここにいるみんなには魔獣教団の殲滅に手を貸してもらいたいと考えています。拒否しても構いませんが、その場合はこの大陸から離れる事を強くお勧めします」
最後に連れてきたユーリッヒとハニカムさんを入れ、総勢8名という少数ながら精鋭とも言える人達を見渡して自分が話し始めると、ギルツとハニカムさんは完全に屍のような状態になりマドックはすでに酒を飲んでいる。ユーリッヒがマドックと酒を飲み合いながら、バフマンやセラも巻き込んでいく辺りかなり手慣れている気がする。
「本当にこれで良いのでしょうか? 」
ピュセルさんが不安げな顔でこちらを見ているが俺は目を合わせたくない。
これでも出来るだけの戦力を集めたのだ。後はなるようにしかならない…はず!
自作品コラボの短編小説を投稿しております。この世界に少しだけ関係がある設定などが盛り込んでありますので、お暇な時間があれば読んで頂けると嬉しく思います。後書きの下にリンクを貼っておりますのでよろしくお願いします。




