行き倒れ
アンバー王国の西と東には、それぞれ森が広がっていました。
そこにはそれぞれ魔法を使うものが住んでいました。
西には魔女が、東には魔法使いが。
これも、とあるアンバー王国の日常です☆
う~。お腹が空いた。限界。
ばたっ
私は身体の限界を感じて、その場に倒れ込んでしまった。
ほんの目の前に、私が目的としていた家は存在しているのに!
目が覚めた時。ていうか、意識が戻った時というか。
私が目にしたのは、最後に目にしていた青々とした森の木々ではなく、どこか見知らぬ天井だった。
うん、お約束ね。
お約束なのは、それでいい。問題はどこの天井かってことよ。
私は天井をガン見したままパチパチと数回瞬いた。穴が開くほど見つめても、やっぱり記憶にない場所だわ。
すると。
「気がついたか」
と言いながら、ぬっと私の視界に入ってきたのは男の人。
びっくりして、これでもかってくらいに目を見開いちゃったわ。
煌めく金髪に、深い青の瞳の、とっても綺麗な男の人だったから。
「ふわっ!! びっくりした……!! おじさん、誰?」
また思わず瞬きをバシバシしながら、男の人に聞いてみた。
「おにーさんはこの森に住む魔法使いだ」
すると、さっきまで無表情だったのに、にわかに眉間に皺を寄せ、ムッとしながらも、おじさんは答えてくれた。あ、おにーさんですね。うん、どこからどう見てもおにーさんです! 何気に訂正されちゃったわ。以後気を付けなきゃ。
ん? でも待てよ。この森に住んでいる魔法使いは、確かお婆ちゃんだったはずなんだけど。こんなサラサラ金髪の若い綺麗な男の人じゃないはず。
「え? おにーさんが魔法使い? 私、お婆ちゃんだって聞いてたんだけど?」
実はおにーさんは魔女さんの弟子で、魔女さん本人は他の部屋にいるのかしら? 目だけきょときょとと動かしながら、それらしき姿を探すけど、
「何を言っている? 魔女が住む森は西の森だろう。ここは東の森だ」
冷静なおにーさんの声で、捜索は中止された。っていうか固まっちゃった。
えええっ?! うっそ!! 私、西の森を目指してきたはずなんだけど……
そんな心の声がダダ漏れだったのか、
「まさか、お前、方角を間違えたのか?」
呆れた声で言われましても。
「……多分。私、すっごい方向音痴なんです……」
「……」
「道理で、なかなか辿り着かないと思ったんですよ~! うちの村から西の森まで、徒歩で半日くらいって聞いていたのに、もう5日も歩きづめですよ!! でやっとたどり着いたところで燃料切れ。ああ、どうしましょ…がっくし」
自分の間抜け加減に脱力。もともと寝たままだったから、これ以上沈み込む余地はなかったけどねっ! おにーさんも、ベッドサイドで腕を組んだまま項垂れてるわ。
「……お前、どこから来たんだ?」
「えと、西の地方の外れの村です」
「はあ? 西の地方?! お前また、かなり遠いとこから来たんだなぁ……でも、そこからこの東の森までだと、途中で王都ディアモンドを横断するはずなんだが? 王都についた時点で方向が逆なのに気付くはずだろ」
「王都? はて? お城があったところですか?」
「ああ」
「そう言われれば、そんなところ通ったかな? おっきな噴水のある広場があって、なんだかお城みたいなのが見えたなぁ。ああ、あれって王城だったんですか?」
「……って、何だと思ってたんだ?」
「西の地方の領主様のお城かなぁって。だってそんなの見たことないモン」
「……」
あ、おにーさんがさらに深く項垂れちゃったわ。私のせいかしら?
「ところでお前、いくつだ?」
どこか底辺を見てきたのだろう、おにーさんが復活し、おもむろに聞いてきた。
「え? 10歳です」
「じゅっ……!! そんな子供がたった一人で、何の目的で西の森の魔女のところに行こうとしてたんだ?」
私の年齢を聞いたおにーさんが、目を見開いた。あれ? 思ってたより若すぎた? 老けて見えるのかしら、私?? しかしおにーさんの瞳、綺麗な青色だなぁ。うっかり見惚れてしまった。
「え? 魔女様んところで修行させてもらおうと思ったんです。手に職付けたいなぁって思って」
にこっと笑いながら言ってみたけど。
「……で、方向を間違えた、と?」
先程のほんの少しの動揺はすぐさま収めて、おにーさんは元の無表情でイタイところを突いてきました。
やっぱりそこに戻りますか。はい、すべての原因は、私の方向音痴によるものですもんね。がっくし。
「はい……おそらくは。半日で着けると思ってたから手持ちのお金もなくて。ほぼ飲まず食わずでここまで来て行き倒れました」
で、この家の前であえなくダウンですよ。
「おまっ……5日も飲まず食わずだったのか?!」
無表情だったおにーさんの顔に、若干の呆れが混じったね。うん。だって、お金なかったんだもん。
「そうです」
「……」
また無言、かつ無表情に戻ると、おにーさんは静かにベッドサイドを離れ、部屋を出て行ってしまいました。こんな私の相手なんてしてられないわよね。うん。
まあ、私はまだ疲れていたので、もう一眠りさせてもらうことにするわ。5日ぶりだもんね。まともなベッド! 野宿はきつかったよ。わーい、もふもふお布団!!
お付き合いくださり、ありがとうございました (^^)




