ワンポチでお届け
警報が鳴り響き、船内は騒然としていた。
たった一発の襲撃にレーダー手は誤作動を疑ったが、外壁に開いた小さな穴の存在がそれを綺麗さっぱり消し去った。指揮を任された者が指示を飛ばし、速やかに穴の修繕と被害状況の確認、周辺宙域への警戒が行われた。
「まさか仲間がいたとはな……」
ワッチワンは口輪の下で苦虫を噛み潰した。
「ありがたい限りだ。あいつはポチって即日配送、時間指定有りとかよくわからんこと言ってたけど、おかげで欲しいおもちゃが手に入った」
一坂は、便利な世の中になったもんだ、と上機嫌に笑った。
注文の品である紅い光の刃を形成する機械作りの剣『スパークルセイバー』を、まるで飛行機の玩具で遊ぶかのように空間を滑空させる。
「その業者の名を教えてくれるか? オレの口から是非ともお礼が言いたい」
ワッチワンは忌々しそうに壁に空いた穴を見つめる。
「めんどくせーぞきっと。それより次は上等な酒でもポチってみるか? 安心しろ、もちろん俺の奢りだ。なんならつまみにドッグフードもつけるぜ」
「ほざけ!」
あらら。怒っちゃった。
どうやらこのワンちゃんはドッグフードが嫌いらしい。
「さてさて、困ったなワッチワン。かくれんぼの途中だったんだろうが、さすがに今のでバレたな」
今の騒動で間違いなく連合がこの宇宙船の存在に気付いたはずだ。
「どうする? 今度はおにごっこでもするか? 逃げ切るのはたぶん無理だけど」
たとえ今から慌ててワープしても、もう遅い。
連合が一度補足した宇宙海賊を逃すはずがない。
「素晴らしいぞイッサ」
ワッチワンはこのサプライズにようやく拍手を送った。
なにせ、先ほど感じていた嫌な予感が見事的中したのだ。
ここまで見事だと、怒りよりむしろ喜びの方が勝る。
「このオレがしてやられるとはな。やっぱりお前は油断ならない」
ワッチワンは賞賛しつつ、少し目を離していた内なる殺意に再び火をかけた。
「関係ないな。オレはお前を殺せればそれでいい」
宣言したワッチワンは両手の爪を剝き出しにした。
夢にまで見たヤツの首に狙いを定め、全身を興奮による痺れが駆け巡った。
「懐かしいなこのかん―――」
遅かった。
「阿呆が」
その声を聴いた時には、すでに光の刃はワッチワンの心臓を貫いていた。
「こっちは余裕なんてねぇんだ。だったら……」
視界から消えた男の声は、不思議なことにすぐ真下から聞こえてきた。
「こうするしかねぇだろ」
低い声がため息のように漏れる。
理解と認識がワッチワンの意識に届く前に、その巨体から力が抜けた。
「じゃあな」
その言葉を聞いたのが先なのか。
何にしても、痛みを感じる方が圧倒的に遅かった。
「ぐ……あぁ………」
あまりにも遅い呻き声。
そして、もはやその領域にさえ入れなかった何かが床で軽い音を立てた。
ワッチワンの顔から落下したサングラスがようやく追いついたのだ。
「こんなもんだ」
呆気ない幕切れ。
一瞬という表現すら生ぬるい。
まさに光の速さだった。
「さてと」
あとは連合の船が駆けつけてくるのを待つだけだ。
一坂はスパークルセイバーのスイッチを切ると、ミカンを探すために部屋を後にしようとした。




