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「ああっくそ!」
ワッチワンはふらつきながら足元のゴミを蹴っとばした。
こんなに酔ったのは、まだ自分が若造だった頃以来か。
あの時もこんな感じで歩行もままならなかったが、あれは最高の気分だった。
初めてのデカいヤマを成功に収め、手にした巨額の金で高い葡萄酒を水のように煽り、群がってくる娼婦を抱きつくした。
あの時の溺れるほどの贅沢は、今思えば若さゆえの稚拙なものだったが、それでも王様のような高揚は筆舌に尽くしがたい。
しかし今日のは酒は最悪。
ただひたすら自分をぼかすための麻薬代わりだった。
今頃あのメスガキは馬鹿共と一緒にステージの上で扇子を振って踊っているのだろう。
あれはこの宇宙でヤツに通用する唯一の切り札。
だが、自分は決してあの男を屈服させたいわけではない。
本気のヤツをこの手で殺さなくては意味がない。
何もかもがどうでもよくなり、自棄になったヤツを殺しても何も満たされない。
だからわざわざ人質にして、希望を与えてやらなくてはならない。
ヤツの言う通り、人質として丁重に扱わなくてはならない………
「~~~~~~~~~っ」
ワッチワンは今にも溢れそうな憤りをどうにか拳一発分に押し込めた。
それを叩きつけられたスイッチは破損しながらも、その機能を損なうことなく主を部屋に迎え入れることに成功した。
こうなったらあのゴミ溜めの隠しカメラでヤツの無様を眺めて飲みなおしだ。
それができると思うと少しは気分が晴れた。
なにせヤツに恨みを持つ者は、この宇宙に星の数いるのだ。
そんなヤツの滑稽な様を特等席で拝めるのは、この上ない贅沢と言える。
きっとその味は、あの時の葡萄酒に勝るとも劣らないだろう。
「そうと決まれば、まずはシャワーだ」
ワッチワンは泥まみれだった。
仕方なしにやったピンでのめくり芸の後、なんか知らんがクイズに答えさせられ、見事不正解のパネルに突っ込んで泥の中にダイブした。
完全に汚れ芸人の有様だった。
ワッチワンは影で〝お約束の血統書付き〟と呼ばれていることなどつゆ知らず、無造作にシャワールームを開けた。
「サイドチェスト!」
鏡の前で一坂(全裸)がポージングをキめていた。
「あらお代官様」
一坂はお銀派だった。
「なっ!? 貴様!?」
「そこは、銀やっこ背中を流してやるぞうひょひょ、だろうが!(謎ギレ)」
水遁の術 (シャワー)をぶっかけられ、泥と一緒に酔いも醒めた。
意外にも、なぜこの男がここに、という疑問も、理不尽に水浸しにされた怒りも湧いてこない。
それどころか歓喜すらしていた。
当然だ。これから見ようと思っていた映画のコメディアンがファンの目の前に現れたのだから。
それもヌードとなれば、生唾ものだろう。
「………嬉しいぞ、イッサ。ちょうど箸が転んでも笑い転げる、馬鹿なオーディエンスにいい加減うんざりしていたところだ」
一坂は背を向けたまま、色紙を持ってサイン待ちしているファンの前でゴシップ物の生着替えを披露。
「客を選ぶたあ、お前の芸は随分と高尚らしいな。お手でもするのか?」
ついでに生トークのサービスもくれてやる。
それそうと、この乾燥機の所持者はどうやら犬まで乾燥させているらしい。
おかげで服が犬臭くなってしまったが、ゴミの臭いよりはマシだろう。
「期待させたところ悪いが、あそこまでレベルが高いと習得が困難でな」
「そりゃ残念」
服に鼻を鳴らしていた一坂は振り返り、
「じゃあ一つ、俺が別のやつを手本で見せてやるよ
ナンセンスなワンちゃんのために、お手に匹敵する最高難易度の芸を披露した。




