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できた♪

「なーんでこんなことになっちゃたんだろうねー」


 ゴミ溜めの中で、マジェンダはガラクタに腰を掛けて煙草を吹かした。

 これまでの人生について考えていたのだ。


「あの御方に憧れて家も学校も飛び出して念願の宇宙海賊になったってのに、何年も何年も下働き生活。ようやく手柄を立てても不当な理由でお役御免扱い……なにが、前々からお前の厚化粧が気に入らなかった、よあの犬ッコロ!」


 思い出したらまた腹が立ってきた。

 たしかに小じわを隠すためにちょーっとだけ濃くしてたが、だからといって理不尽すぎる。


「ウェイロー。ジアング。お前たちだけでも残ってよかったんだよ……?」


 マジェンダは一緒にここに落とされた二人の部下に言葉を投げる。

 今回の手柄は実質二人の功績。

 ウェイローはその技術者としての手腕。

 ジアングは怪力を買われてワッチワンから打診があったのだ。


「なにを言ってるノーネマジェンダ様。アタチは前々からあいつ嫌いだったし、何よりアタチが心に決めたのはマジェンダ様、あなたなノーネ」

「そうでガッツ! 誰にも見向きもされないオデたちに手を差し伸べてくれたのはマジェンダ様でガッツ! 一生ついていくでガッツ!」

「お前たち……」


 マジェンダは部下二人の温かい言葉に感無量。溢れた涙が目元のメイクを洗い流した。

 アメリカのロックバンドみたいだった。


「うんうん。いい話だ」


 いつの間にかいた一坂が三人の絆の固さに、なぜか知った風な感じで頷いていた。


「よお」

「なっなんでアンタがここにいるのよ!?」

「理由はお前らとたいして変わんねーよ。……あー、あんたあの時のババアか。化粧濃いとは思ってたけど、どうした? ペイントレスラーみたいになってんぞ?」


 一坂は特技の毒霧(青汁)吹き出した。


「お黙りっ!」

「誉めてんだけどなー。あんたの恰好もちょっとケバいけど、ボディコン風のリングコスチュームみたいだしな」


 個人的な好みは置いておいて。


「んなことよりお前ら、ここを脱出するために協力してくれねーか?」

「誰がアンタみたいな坊やなんかに!」


 突っぱねられた。

 しまったなー。


「ここから脱出なんて不可能なノーネ」


 ウェイローが言う。


「ここには出口なんてナイー。この場所はコンテナになっていて、溜まったゴミを廃棄する際はコンテナごと宇宙にポイして新しいのと交換する仕組みなノーネ」

「でもそれをしたのは見た感じ随分前なんじゃねーか?」


 少なくとも死体が白骨化するくらいには。


「この船って今どの辺りにいるんだ?」

「? まだチキュー星の衛星軌道圏内にはいるはずなノーネ」


 だわな。

 恐らく名取が応援を呼んでいるだろうし、それなら逃げるよりも隠れることに徹するのが宇宙的には正しい。


 宇宙船には標準装備としてワープ機能が備わっているものだが、そんなものを使っては一〇〇%捕まるのは教科書に載るレベルの常識だ。


 ワープ航法とは〝物質を光の速度で移動させる〟こと。

 一見して逃走に使えそうだが、そんなことは決してない。

 それはワープが〝移動したり物を運んだりする手段〟であって、〝追手から逃げるための手段〟ではないからだ。


 ワープはその性質上、直進しかできない。

 そして連合の船にはワープを探知するかなり高性能なシステムが備わっており、そんな連中の探査範囲内でワープをすれば、あっという間に軌道計算され、場合によっては先回りすらされてしまう。


 速度に関しても、光の速度を物理的に上回ることは決してできない。

 これは船の性能云々ではなく、そこが速さという概念の上限だからだ。


 こちらがワープをすれば当然向こうもする。

 追い付かれもしないが、振り切ることもできない。

 この広大な宇宙において、敵に捕捉された時点で距離の差などまったくアドバンテージにならないのだ。


 差が出るとすればワープ状態をどれだけ維持できるかだが、万年宇宙を漂っている宇宙海賊がいくら節約し、補給をこまめに行っていたとしても、基地から補給を万全に発進した自分たちを捕まえることを前提の相手に体力勝負で勝てるわけがない。


 ちなみに、やり合おうなんてことは間違っても考えてはならない。

 相手は常に最新装備に切り替わる、極めて高度に統率された〝群〟なのだ。

 ほとんど〝個〟と言っていい宇宙海賊など、到底太刀打ちできず瞬く間に蹂躙される。


 故にこういった場合、宇宙海賊がすべき最善の手は、とにかくステルス機能を全開にすること。

 絶対に敵に見つからずゆっくりそこから遠ざかり、敵の探査範囲から外れて、初めてワープ航法に移るのが鉄則である。


 しかし同時にこれは、名取ら連合の救助も期待できないことを意味する。


 ワッチワン率いる宇宙海賊トライタンパーティは、そんな最新技術の塊を相手に十年以上も生き残ってきた〝かくれんぼ〟のエキスパートなのだ。


 事実、宇宙海賊のほとんどが結成後一年以内に連合に処理されていることを鑑みれば、彼らがどれだけ説明不要の実力者かよくわかる。


「さっきから何なノーネ? 言っとくケード、助けを呼ぼうにもここは外部と連絡を取れないように電波も遮断されているノーネ。スマホも使えないノーネ」


 見せられたスマホの画面には、確かに圏外を示す記号が出ている。


「そもそもこの惑星おかしいノーネ! チキュー星に近づいたら急にスマホの調子も悪くなったターシ、アタチが開発した特性アプリスーラまともに機能しなくなったノーネ! ムキー!」


 ウェイローは憤りを爆発させるように一気にまくしたてた。

 きっと技術者としてのプライドを傷つけられたのだろう。

 稀代の超天才(自己申告)である彼には自分にすら解明できない、〝チキュー星特有の不思議な現象〟が我慢ならないのだ。


「………………(スマホをいじる一坂)」

「なにしてるノーネ? 通信はできないと言ったはず。ウーバーも頼めな―――」

「あ、繋がった」

「うそーん!? ちょっと見せるノーネ!」


 ウェイローが目ん玉かっぽじって画面を見ると、確かに通信中の表記。

 しかし、電波は依然として圏外だった。


「その時、不思議なことが起こった」

「納得いかないノーネ!」


 目ん玉ひん剥いて顔を赤くするナマズは放っておいて、一坂は秘密の特殊回線でこれまでチキュー星で、ずーっと待機していた仲間に連絡を取った。

 そして、―――まあ、向こうも予想通りの反応。

 長話すると〝耳を犯される〟ので要点だけ伝えて早々に通信を切った。

 あとはいい具合に勝手にやってくれるそうだ。

 同じように、ずっとそばにいた〝もう一人〟にも声をかけておいてくれるらしい。


(そういえばあいつ、工場の下敷きになったと思ったけど、大丈夫なんか?)


 一坂が随分雑に扱ってしまった、そのもう一人の末路に顔を引きつらせていると、


「言っとくけど、私たちは協力しないわよ!」


 マジェンダが断固として言ってきた。


「私たちはもう誰の命令も受けない。誰にも縛られない新生宇宙海賊を結成して、あの御方のようにこの宇宙に名を轟かせるのよ! オーッホッホッホッホ―――――――ッ!」


 高笑いしながら、野望の炎をメラメラ燃やす。


「あの御方?」

「これよ!」


 胸の谷間から引っ張り出した一枚の手配所を、ババ―ンと見せつけてくる。


「この御方はこの世に二人といない、恒星の如く輝く金色の瞳の宇宙海賊!」


 曰く〝黄金の流星〟!

 曰く〝紅い閃光〟! 

 曰く〝宇宙の端に届く刃〟! 

 〝禁忌の前を通り過ぎる風〟〝一三八億宇宙史の歌うラクガキ〟!


「ああったらもうっ! 紅の君! マージェは貴方様を目指し、新たな道へ進みますっ!」


 まるで神でも崇めるように熱弁する。


「ほーん」


 一坂はその手配書の男をまじまじと見て、


(あー、昔の俺ってこんなだったなー……)


 過去の自分とこんなところで対面していた。


「だからどんな方法かは知らないけど、私たちは私たちで勝手に………」

「一本貰うぜ」


 一坂はマジェンダから煙草をかすめ取った。


(やっぱりあの匂いはこの銘柄だったか)


 ヒステリックに吠えるマジェンダをよそに一坂はそれを口に咥えた。

 鼻の穴を通り過ぎる葉っぱの匂いと、舌に染み込んでくる懐かしい味。

 一坂はそれと同じ気配を、頭の中ではっきりと感じることができた。

 これならできるかもしれない。


「あんた未成年でしょっ!? 煙草は二十歳になってから―――」

「大丈夫。俺、今はこんなんだけど実年齢はお前らよりずっと上だから」


 一坂は一応悪党のはずのマジェンダの説教をテキトーにあしらった。


 記憶が蘇っただけでは、今の自分に過去の自分を馴染ませることはできなかった。

 ならば別の方法。

 例えば昔の自分の習慣を取り入れてみるとか。

 うまくいけば昔と今を、チャンネル合わせのように切り替えることができるかもしれない。


 一坂はダメもとな期待を抱きながら、昔愛煙していた煙草に火を点けた。

 

「「「あっ!?!?!?(目を丸くした三人)」」」


 できた♪

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