純白の騎士
エイリアンの意識が瞬間的にその方へ向いた。
純白のシルエットが、そこにいた。
ゆっくりと一定のリズムで響く硬い靴音。
それが一歩一歩進むたびに、この淀んだ路地裏に涼風が流れた。
「もう大丈夫ですよお嬢さん。安心しなさい」
闇を弾く純白の軍服に身を包んだ男は、穏やかな口調でミカンにそう告げると、その紫の瞳で異形の怪物を見据え、
「おや?」
エイリアンが、消えていた。
音もなく。
ほんの一瞬意識をミカンにやった隙を突いて、怪物は姿を消したのだ。
「……ふむ」
男は焦った様子もなく、感覚の糸を周囲へ張った。
近くにいる。
おそらくこちらの油断を突いて一気に強襲つもりなのだ。
男は感覚をさらに鋭敏にした。全身を目にするように意識を集中する。
その先端にミカンの震える呼吸が触れた。
完全に状況の置物と化したミカン。
彼女の怯えた視線が、ゆっくり男の頭上へと動いた。
「ありがとうございます。あなたは勇敢なお方だ」
フッと微笑む。
余裕ではない。ただの誠実な感謝と敬意。
その頭上に今まさに男を丸飲みにせんとする怪物の姿。
だが、―――動かない。
怪物は綺麗な歯並びを晒したまま、ピクリとも動かない―――動けない!
まるで空間に氷漬けされたかのようにエイリアンは空中で固まっている。
豊かな表情すら停止させ、だが反応には明らかな驚愕が見て取れた。
男は落ち着きを払ったまま起立良く踵を返した。
背筋を正した状態で、右の掌を眼前の怪物に向ける。
見えざる拘束がより強固なものになった。
エイリアンの巨体が不思議な力で狭い夜空へ持ち上げられていく。
広げた指の隙間から紫の瞳が煌めいた。
次の瞬間、〝純白の騎士〟が跳び、狭い夜空を急速に駆け上る。
そして、―――
空間で固定された怪物を青い閃光が一閃した。
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