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先輩と後輩

 場所は変わって、NOAH内にあるファミレスへとやってきた一坂たち。


「さっきは悪かったな、後輩」


 あの親子も一緒だった。

 母親、白井伊緒しらい いおは向かいの席でジュースを豪快に飲み干した。

 見た目は染めた髪がプリンになっているヤンママで、細かいことは気にしない肝っ玉母ちゃんといった感じだった。

 聞けば一坂が通っている高校のOBらしく、それを知ってからは先輩後輩の関係に落ち着いた。


「ママ!」


 彼女の娘である絶叫系幼女、けいが見事な複式での発声。


「おかわり持ってきてあげる!」

「ありがとな。帰ったらお手伝いスタンプ押してやるよ」

「やったああああ!」

「あと他の人の迷惑になるから静かにしろよ」

「はい。よし、いくよミカン」

「うん!」


 すっかり仲良くなった景とミカン。

 傍から見ればミカンの方が全然年上だが中身は同じくらい。

 景もその辺りをなんとなく感じているらしく、生意気にも姉御気取りだ。


「あの、先輩。俺とミカンは……」

「あーいいってそういうの」


 伊緒がめんどくさそうに手をひらひらやる。


「世の中いろんな家庭があるように、お前らだっていろいろあんだろ? 見た感じそういう趣味ってわけでもなさそうだし、じゃあ〝いろいろ〟なんだろ。ま、楽しくやろうや」

「……うっす」


 一坂はなんともさばさばしたこの母親のおかげで、少しだけ肩の力を抜けた。


「そういえば後輩、お前はどう思うよ?」

「なにがっすか?」

「テレビでやってるエイリアンの話だよ」


 ドギーンッ!?


「さっきからサツが結構な数巡回しっけど、あれってやっぱこの辺にそのエイリアンがいるってことなんかねー」


 どきどきっ!


「さすがのアタシもエイリアンとは喧嘩したことねーけどよ。もしもの時は景を守んなきゃいけねーからな」


 今、まさに一緒にドリンクバーに行きましたけど……。


「エイリアンってトラックより強いのかな?」


 引き合いに出されたのがおかしい。

 そういえば学校の伝説で突っ込んできたトラックを殴ってぶっ飛ばした女番長が過去にいたとかなんとか……。


「そ、それにしても、子育てって大変そうっすねっ」


 無理矢理話題を逸らした。


「ん? まあな。でもアタシの子だし、当然っちゃ当然だな」


 伊緒は特に気にした風もなく、豪快にカッカッカ、と笑った。


「ほんと、親ってすごいっすよ……」


 一坂はしみじみ思う。


〝子育て〟と言っても、実際は環境の違いや子供一人一人の個人差があるので、なにが育児で大変だとは一概に言えないだろう。


 だから敢えて親の苦労として比較的共通のものを上げるなら、それは〝費用〟だろう。

 仮に子供一人を幼稚園から大学まで通わせるとなれば、どんなに安く見積もっても一千万円は必要となる。そこに生活費などを加味すると、プラス一千万円。

 つまり―――最低でも二千万円である。


 守銭奴でかつ、高校生の割りに何かと金儲けの場に首を突っ込んでいる一坂にとって、その金額が漠然とした単なる数字ではないことを理解している。


 人の親になるということを経済面だけで見るなら、その費用以上をなにがなんでも稼がなくてはならない。

 当然、途中で投げ出すことは許されない。

 一坂にはそんな経済力もなければ、それを将来的に捻出する見通しもない。


 しかも金銭面の問題など子育ての苦労の、ほんの一面でしかないのだ。

 一坂はそんなことが当たり前にできる〝親〟という存在を尊敬しているし、感謝すべきだと思っている。

 だから昨日の不良たちの親を侮辱した会話には、たとえ顔も知らぬ他人の親だろうがどうしても我慢できなかったのだ。

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