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本日の予定

 朝食である。


 バクバクがつがつモグモグ、ずぞぞぞぞー! ……ごっくん。バクバクがつがつモグモグ!


 一坂が暑苦しい気迫で食べ物を勢いよく口に詰め込んでいく。

 そして、その隣では、


 パクパクもにゅもにゅウマウマ、ゴクゴク……ごくりんこ。パクパクもにゅもにゅ。


 ミカンが夢心地で握ったスプーンを動かし、もりもりご飯を平らげていた。

 父親(←絶対違う by 一坂)譲りの食い倒れ属性だった。


「おかわりっ!」「おか~」


 二人同時に空の丼を掲げた。


「あ」


 ミカンがスプーンを落とした。


「ほら」


 詩織が新しい物と交換する。

 そそっかしいやっちゃな、とそれを何気なく眺めていた一坂は、


「? ……あれ?」

「どうした?」

「いや、……そのスプーン、お前が拾った瞬間曲が―――」

「そんなわけないだろう」


 詩織が割り込むように言い切った。

 馬鹿馬鹿しいと、絶対に確認させない空気を醸し出しながら、淡々と炊飯器(二升炊き)から白米を盛る。

 一坂が狐につままれた感覚に陥っていると、そこへテレビから気の抜けたニュースが流れた。


『今日の見出しはコレ。〝世界各国、エイリアン捜索にノリノリ〟よ』


 ツナマヨちゃんとゆかりちゃんのバーチャルキャスターコンビが朝刊の一面をご紹介。


『記事によると宇宙連合から人員が派遣されるそうよ。人数とかは不明みたいね』

『どんな人だろうね~』

『少なくとも、こんなのでないことを祈るわ……』


 ツナマヨちゃんは紙面に描かれたタコみたいなラクガキに脂汗を垂らす。


「概ね予想通りだな」


 詩織がミカンの丼におかわり(五杯目)を盛りながら言った。


「宇宙連合なら人ひとり探すくらいお茶の子さいさいだろう。早ければ今日中にもこちらに接触してくるかもしれない」

「催促の電話でもしてみるか? がつがつ!」

「生憎電話帳にも載って無くてな。あと食べながらしゃべるな、汚いやつめ」


 ミカンのおかわり(七杯目)を盛る詩織に注意されるも、一坂は内心ニヤニヤだった。

 電話会社の怠慢も気にならないほどに。


 なんせ事がスムーズに進めば、この得体の知れないエイリアン娘とオサラバできるのだ。

 そして、その際に宇宙連合から心ばかりのお礼を頂戴する。


(そうなれば俺は一夜にして億万長者! 大金持ちだぜしゃあオラぁっ!)


 目が『金』になっている。

 詩織はそんなアホの脳内を見透かしながら、


「それはそうと、今日はミカンの服を買いに行くぞ」


 と、切り出した。ミカンのおかわり(十一杯目)を盛る。


「はあ? なんでそうなるんだよ?」


 さすがの一坂も丼から顔を離し、異を唱える。


「ずっとお前の服なんて可哀そうだろう。ミカンだって女の子なんだぞ? 可哀そうに」


 詩織は〝小銭拾え!〟と、買った者の性格を非常によく表した文字Tシャツを着ているミカンに憐れみの視線を送る。

 なぜ二回言った?


「そういうことじゃねーっつーの! こんな状況で外なんて出たらまずいだろうが!」


 吠える一坂を「まあ聞け」と制する詩織。

 チラリ、と空になった丼を、ご飯がどっか行った!? とばかりに驚いているミカンへ目配せする。

 そしておかわり(十五杯目)を盛りながら、


「一坂。お前はミカンがこのまま家でおとなしくできると思うか?」

「それは………」


 一坂は、銭勘定にしか使わない脳細胞をよっこらせと動かし、想像力を働かせた。


「…………………うわぁ」


 リアルに想像できた。

 今でこそ食事に夢中になっているが、それが終われば今度は窓の外に興味が行くだろうことは、なんとわかりやすい未来予想図。

 

「連合と接触する前にミカンに突飛な行動をされても、強要して泣かれても困るだろう? 幼い身にストレスを溜めることは、それらを誘発しているようなものだ」


 何を今更、という風の詩織。

 現実問題として、ミカンにガチで勝手な行動をされては一坂達に打つ手はない。

 最悪、この街がやばいビームで夢の国になってしまう。

 だからと言って中身五歳児の幼子に現状を理解し、自らを律することなど期待できないし、言ったただけで聞くようならこの世の親も苦労しない。


 一坂は思う。

 はたして自分は、そんな無邪気な訴えを抑えることができるだろうか?


 絶☆対☆無☆理。

 だって死にたくないもん!


「………言いたいことはわかった」


 一坂はそれでも不承不承を前面に出し、


「でも行きたきゃお前らで勝手に行けよ。こちとらこいつのせいで寝不足だ。見ろよ俺の顔を」

「相変わらず酷い顔だな」

「そうじゃねーっつーの! クマがすごいだろってことだろーが! せっかくの休みなんだから昼まで寝かせろよ、ちゅーかメンドクセー」


 ぶっちゃけこれが本音だった。


「お前は可愛い娘のために買い物に付き合ってやろうという甲斐性はないのか一坂パパ」

「俺の甲斐性はケツに円やドルがつくんだよ。あとパパじゃねーっちゅーの」


 一坂はうんざりしたように吐き捨て、ずずー、と味噌汁をすする。

 そして、二人が呑気に買い物している間に、知り合いの税理士事務所で書類作成のバイトでもしようと模索していると、


「お前はミカンを使って、その金儲けを企んでいるのだろう?」


 ……ピクッ。


「ならば、ちゃんとミカンに気に入られるように振舞った方がよいのではないか? 連合に引き渡す際に、お前に酷い扱いを受けたなんて告げ口されたら困るだろう?」

「た―――」


 たすかにその通りだ。俺はなんて愚かなことをしていたんだ!

 さすがは詩織。俺のことを一番わかっている! ありがとう!


「しばらくバイトは全キャンセルだ(キリっ)」


 扱いやすい奴だ、と詩織は思った。


「そうと決まれば腹ごしらえだ。おかわり!」


 調子づく一坂は空の丼を差し出す。


「もうないぞ」


 しかし、詩織からはそんな無情なお言葉。

 ジャーの中身はミカンの胃の中へそっくりそのまま移動していた。

 おかずの大皿もいつのまにか更地になっており、全然食べ足りなかった。


「ぐぐ……我慢……我慢だ……」


 一坂は、億万長者だ。総金歯だ、と念じ、虚しく箸を握りしめる。


「買い物は近くの余り人目に付かないところにしよう。最低限揃えるだけならそれで事足りるし、わざわざ人通りの多いところにいく理由も………ん?」


 詩織が何かに気が付いた。

 お腹を風船のようにパンパンにしたミカンがテレビジョンの前でぺたんと座りこみ、目を⦿(←こんなん)にしていた。


 ニュースはいつしかエンタメコーナーに変わっていて、女の子向けアニメの映画を特集をしていた。

 そして、映画公開を記念したイベントの告知へと移る。


『~以上の会場で本日イベントショーを行いまーす。みんな来てねー』

「………あれ?」


 一坂は斜め上の方を見た。

 凶悪な尻尾の先端がこっちを向いていた。





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※数ある作品の中からこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。

 少しでもいいな、と思っていただけたなら、応援していただけるとものすごく励みになります!

                              おきな

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