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29.運命の花嫁が見つかりません(2)

「すべて、カリナ嬢のお陰だ。いずれ、陛下への謁見日の連絡が来るはずだ」


「へっ! 国王陛下に謁見?」


 カリナは驚きのあまり、素っ頓狂な声を出した。


「私もメイソンもしっかりと報告しておいたから。一人の娘の洞察力と占いのお陰で国が救われたと」


「わ、私、そんなつもりでは」


 カリナの頭の中は真っ白になった。


(没落予定貴族が、国王陛下に謁見なんて。ど、どうしよう)


 カリナの占いは当然、当たり。

 そして、カリナは思っていたより大きなことを防いだのだった。

 

 つい先ほど、ルーカスはカリナにその報告をしたところだ。






 サーラの占いをした日から数日後の夕方。

 ルーカスはカリナの店を訪れた。


「やはり、彼らは旅芸人を装った窃盗団だった」


 彼はそう言って、サーラについての報告を始めた。


 占い通りの場所は容易に見つかった。

 ルーカスとメイソンは、他の騎士と共にその場所を囲み、芸人一座を捕らえた。

 サーラも当然、捕らえられた。

 しかし、一座の内数人は盗んだ物と一緒に国外に出てしまったよう。

 

 様々な国を周期的に回り、短期間で盗みを働く。これが彼らの手。


 そして、骨董品店、占い店というように決まった職種の店だけで盗みを働く。

 これは、盗みの手口が広がるのを防ぐという考えからだった。

 

「異なる業種同士、連絡を取り合うことはほぼ無い。今後は商業組合も交えて、こういった時の注意喚起をどうするかということを考えていかなくては」


「そうですね」


「その為にも、被害届をきっちり出してもらわないと」

 

 また自分のことを言われた気がして、カリナは「すみません」と小さく呟いた。


(窃盗団ということは、オランジア公爵家を窃盗団は狙っていたということ? それとも宮殿?)


 この疑問を尋ねよう。

 カリナはそう思い、口を開こうとした。


 だが、先に口を開いたのはルーカスだった。

 

「ただし、彼らが窃盗団というのは基本的に、だ。今回の窃盗は、一部の者がついでに行っていたことだった」


 カリナは予想外の言葉に驚いた。

 

「基本的? どういうことでしょう?」


「彼らは、頼まれればスパイのような真似をしていた。旅芸人というのは時に国と国を自由に行き来できる存在だから」

 

「では、やはり彼はルーカス様が言ったように宮殿の情報を探り、他国に売ろうと?」


 ルーカスは重い口調で答えた。


「似ているが違う。一座は、国王陛下の暗殺計画に協力していた」


 カリナは自分が想像すらしていなかった言葉に絶句した。

 数秒後、やっと言葉を発することができた。


「そ、そんなこと、誰が何の為に?」


「隣国ダリウス王国の王からの依頼だ」


「えっ、隣国?」


 カリナはルーカスの言葉に違和感を覚えた。


「サーラいや、本名はエリィと言う。彼女の役割はオランジア公爵家に取り入り、宮殿、特に陛下の情報を得ること。一座はそのお膳立てをすること、さらには暗殺者の隠れ蓑となることが役割だった」


「暗殺者がこの国に?」


「身を潜めていた者の中にダリウス王国の兵士達が紛れていた。旅芸人を装って王都へ入ったのだ。彼らが暗殺の実行者だ」


「そんな‥‥‥」


「一座の数人は、盗品と一緒に隣国へ報告に戻ったと思われる。残りの者は連絡係、そして暗殺実行への協力をしていた。彼らは、実行までの計画を詰めていたよう。宮殿の見取り図や警備の弱さを書いたメモを押収した」


 カリナはここで、自分の違和感を口にした。


「でも、隣国は内戦状態なのでは? 反乱を起こし勝利した前国王が、元国王の息子を支持する勢力に殺されたと。今は元国王の息子と前国王派の貴族の間で争いが続いているはず」

  

 ルーカスは「その話を忘れていたね」と呟き、カリナに説明をした。

  

「内戦は1年ほど前に元国王の息子の勝利で終わったらしい。今の王は彼だ。彼は、内戦状態が続いていると嘘の情報を流していたんだ」


「内戦状態は嘘?」


「我が国へ攻め入る為の嘘だった。王なった元王の息子は、我が国、そして陛下のことを恨んでいてね。我が国が前王の妻と娘を匿わなければ、彼女らを人質にでき、自分の父は死ななかった。彼はそう思っているようだ」


「それは、逆恨みでは‥‥‥」


 思わず言ったカリナの言葉。ルーカスはそうだ、と言うように頷いた。


「内戦状態だと思わせておけば、武器を揃えている様子を察知されても相手は警戒しない。しかし、軍事力では我が国に敵いそうもない。だから、陛下を暗殺して我が国が混乱している間に一気に攻め入る。それがダリウス王国の計画だった」


 自身が関わったことの大きさに、カリナはゾクリとした。


「そんな恐ろしい計画を立てていたなんて」


「暗殺計画は、一座が盗んだペンダントから始まったようだ」


 ルーカスは、捕らえた者から聞いた話をカリナに話した。

 

 一座は、骨董品店で盗んだペンダントをダリウス王国の前王の妻か娘のものだと判断した。

 そのあたりは流石、窃盗団。価値を判断できたよう。

 

 半年ほど前、彼らはそれをダリウス王国で売ることにした。

 彼らは様々な人脈を持っており、闇商人の伝手もあった。

 

 悲劇と名高い話。

 前王は亡くなっていても、高く売れるのではと考えていたようだ。


 その頃、ダリウス王国の王はフローラシア王国へ攻め入る計画を立てていた。

 軍事力では劣る。何か優位に立てる方法は無いか。

 

 だが、長年国交が無い国のことを探るには限度があった。

 内戦状態という嘘の為に表立って動くこともできない。


 そんな時、王の耳にペンダントの話が届いた。


「話を聞いた時、王は、偽物のサーラ様を仕立て、同じく逆恨みしていたオランジア公爵家を利用することで、我が国の情報を得ることを思い付いた。そして陛下を暗殺できるのではと、考えたらしい」


「オランジア公爵家が、前王の妻と娘を匿ったから逆恨みを‥‥‥」


「王は我が家の情報にも詳しかった。どうやら、復讐しようと機会を伺っていたようだね」


「オランジア公爵家の情報?」


「私の婚約破棄のこと。妹がアルバート殿下の婚約者で母が王妃殿下と親しいことも知っていた。それに、母が言った貴族への愚痴から、母が私の結婚を強く望んでいることも王は知っていた。このあたりの情報なら、我が国の貴族と懇意にしている商人からも聞けるだろう」


「王妃殿下と親しく、取り入りやすそうなオランジア前公爵夫人に目を付けたのですね」


「それだけじゃない。彼は前王にあてた本物のサーラ様の手紙を読んでいたんだ」

 

 ルーカスはカリナにその手紙について説明した。


 サーラの父、前王を殺したのは彼の軍。

 彼は、前王の遺体のポケットに入っていたものを見たのだった。

 

 入っていたのは、娘からの手紙。


 書かれていたのは、父から貰ったペンダントをオランジア前公爵夫人から素晴らしいものだと、とても褒められたこと。


 ルーカスへの淡い恋心も、そこには書かれていた。

 そして、その気持ちを知ったオランジア前公爵夫人が、「応援するわ」と言ってくれたとも書いてあった。


「ペンダントの入手先である一座の裏の仕事を知った王は、彼らを呼び寄せた」


「そこで、陛下の暗殺に協力するよう依頼したのですか?」


「そうだ。表向き旅芸人の彼らなら疑われることは無いし、スパイまがいのことができて演技ができる女性がいる。まさに、彼の考えた計画に一座はぴったりだった。半ば脅しに近い言葉と、成功すれば褒美と共に全員を貴族に取り立てると言われ、一座はその依頼を受けた」


 ルーカスは利用されたことが悔しいのか、時折、声を震わせた。

 彼は、さらに言葉を続けた。


「数か月かけて準備をする中、一座と王は、運命の花嫁の占いのことも知ったようだ。初恋、運命。そして、その言葉で母は彼女は本物だと信じた。幼い頃に世話をして情を持っていたからね。会った日は、サーラ様が生きていたと涙を流して喜んでいた」


「今は、ショックが大きいでしょうね」


「今頃、何かと「記憶がまだはっきりしません」とエリィが言っていたのは、偽物だったからだと気付き、憔悴しきっている。だが、反省はしてもらわねば」


「それは、いい逃げの言葉ですね」


「しかも、この件には王妃殿下も深く関わっている」


「王妃殿下も?」


「エリィは、母や知り合った貴族に聞いたり、実際に王妃殿下に招かれた際に宮殿内部のことや警備のことを調べていた。暗殺者の為に」


「王妃殿下は、彼女に何か話して?」


「エリィは宮殿内を見たいと王妃殿下にせがんでいたそうだ。2度、宮殿内を歩き、部屋を見せたそう。巧みな話術に誘われ、警備の説明もしたかもしれないと。しかも、陛下が朝、庭を一人で散歩することを好むことやおおよその1日のスケジュールまでも話していた」


「まさか、そんなことまで」

  

「実際は一座では役者をしていたようだし、人の心に入りこめる。そういう人物なのだろうな。エリィは」


 それは、演技力だけでない天性のものなのだろう。


 ルーカスはそこでまた、深いため息をついた。


「実は、我が家の侍女一人が、彼らに協力していたことが分かっている」


「えっ、侍女が?」


 カリナは驚いた。

 オランジア公爵家の侍女ならば、出自がしっかりした者しかいないはず。


「彼女は、街に出た際に一座の者に声を掛けられた。無料券を渡すから、屋敷の女主人を連れて来て欲しいとね。集客が少なく困っている。貴族の奥方が来るのは良い宣伝になるから助けてくれと、しつこく頼まれた。人が良い彼女は、そこまで言うならと頼みを聞いた」


「ルーカス様の屋敷の侍女だと分かって?」


「そうらしい。屋敷の前で見張るなどして数人の使用人に目星をつけていたようだ」


「それで、オランジア前公爵夫人は芝居小屋に。初めから、目前でペンダントを落とす目的で仕組まれていたことだったのですね」


 貴族の女性が旅芸人を見に芝居小屋へ行く。

 今、言われると確かに妙な感じがする。 

 話のロマンチックさに気をとられてそこまで気が付かなかったが。

 今更ながら、カリナはそう思った。


「その通り。しかもその侍女は、エリィに頼まれて一座との連絡係をしていた。私と恋文をやりとりしていると言われ、屋敷の外の木のうろに手紙を出し入れすることを度々、頼まれていたそうだ」


「同じ屋敷にいるのに木のうろに恋文? それを信じたのですか?」


「屋敷で私が彼女を避けているのは、私が初恋の相手に照れているから。この方法で慣れるまで愛を伝えあいたい。そう私が言ったとエリィが言ったそうだ」


「そんな話を信じて‥‥‥」


「彼女はある子爵家の娘。つい最近、花嫁修業で母が預かっていたんだ。どうやら人の良さと世間知らずなところを付け込まれたようだ」


 エリィが外部と連絡をとる方法が見つからないわけである。


「とにかく、戦争や暗殺なんて恐ろしいことを未然に防げて、本当によかったです」 

 

 心からそう言った後、カリナに疑問がよぎった。


(本物のサーラ様は亡くなっているはず。そうすると、ルーカス様の運命の花嫁はいない。やっぱり、占いは外れているの?)


 彼女の疑問は、次のルーカスの言葉で消えてしまった。

 それが冒頭の言葉である。






 数分後、カリナが少し落ち着いたのを見計らって、ルーカスは口を開いた。


「今日は報告もあったけど、別の件でも来たんだ。話をしても?」


「‥‥‥なんでしょうか?」


 安堵感と共に国王との謁見で気持ちがいっぱいのカリナは、心ここにあらずだ。


 しかし、彼の話はさらにカリナの頭の中を真っ白にすることになる。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サーラの本名がエリィと見て、アルバート殿下の恋に協力していたピンクのドレスのエリィ嬢と同じ名前なのが気になってしまいました。 先を読んでいないのでなにか理由があってのことだったら申し訳…
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