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リーダー着任

 起床後、顔を洗う間もなく東京ドームの五分の一くらいの広さの広間へ呼び出された。

ここがいわゆる冒険者ギルドのようだが、人手不足もあってか私たちの他には誰もいない。

しかもかなり埃っぽい。何年も使われていないようだ。

この空間といい、私たちの部屋といい、一国の主が住んでいる同じ屋根の下なのにこんなに汚らわしい部屋があっていいのだろうか。

本来なら異世界から突然来た私たちに住まいや食事を恵んでくれたのだからお礼として掃除をすべきなのであろうが、帰属した自衛を兼ねる冒険者が人手不足な以上そちらに手を回している場合ではない。


茜「それで話というのは…」


私はまともな恩返しができないことへの罪悪感や朝の一件を顔や声に現れないよう頭の片隅で楽しい情景を思い浮かべながらおっさんに尋ねた。


緑「まあまずこれをどうぞ」


そう言って私たちに冊子を渡す。

"冒険者の心得"と手書きで書いてある。学校で言う校則が書いてあるようだ。

量産すべき書類が手書きな辺り、どうやら印刷技術はないらしい。

この技術の発展具合から見ると、こはるの持ち歩いている小型ナイフの方が優れていると言える武器しか配給されないだろう。


卯「てか冒険者って言うけど何するの?日夜魔物討伐とかやだよ」

緑「名前のままだ。冒険すればいい」

騎「ただ、街に魔物が接近してきた場合、そちらの討伐に当たってもらいますが」

緑「正直普段は暇です」


え、それって…


こ「ほぼ自由人じゃん」

騎「はい。魔物倒して売れば金になりますし、功績によっては名声ももらえますよ」

卯「なんだよ!悪いことないじゃん!」

美「まあこっちの世界にいるだけってのも暇だし」

こ「前言撤回!!全力でやります!」


動機は不純だが意見はまとまったようだ。


緑「じゃあ後はリーダーとパーティ名を決めてくれ。決まったらこの契約書に書いてくれ。あ、リーダー名はリーダー本人が書いてくれよ。念のためね。書いたら1階のロビーに来てくれ」


――――――――


茜「リーダーか…誰がいいんだろう」

こ「いやいや何言ってんの。リーダーにふさわしいのなんて決まってるでしょ」

茜「お、だれかふさわしい奴いるのか?」

こ「そうね。…日比谷美涼!お前に決めた!」

美「…え?」


美涼がポカンとする。


美「いやいやいやいや無理だって!わわ私そういうのやったことないし!!!」

こ「あたしは知ってるぞ。美涼は小学生の時学級委員長やってたんだぞ~」

美「なんでそういうこと言うのよ!!!」

こ「ふふふ…逃げ場はもう無いようですな…」

卯「お主も悪よのぉ…」

こ「お代官様こそ…ククク…」


卯乃とこはるが謎のセリフを決めた。蚊帳の外の私たちは先ほどの美涼同様に私たちはポカンとした。


こ「ほら、書けよ書けよ」

卯「頭領に返り咲きだよ。嬉しいでしょ」

美「やだぁ!やめてよぉ~」


美涼が泣き出した。

卯乃とこはるの悪行を止めに入ろうとしたその時――


雫「…え、じゃあやるよ。リーダー」


雫が手を挙げる。

流石元生徒会長だ。中学時代300人近くの生徒を率いてきた雫なら頼もしい。

…改めてなぜ雫が薬に手を出したのか疑問に思う。

そして横では美涼が安堵の息をついていた。


こ「お、マジか」

雫「ええ、茜がね」


…ん?????


こ「茜かぁ…まあ、いいか。じゃあリーダーは茜で!で、パーティ名は…」

茜「え!?ちょっと待ってよ!」


慌てて進行を遮る。

私は生徒会長や総務委員どころか校外学習のグループリーダーにすらなったことすらないのになれるはずがないじゃん。


こ「なんだよ」

茜「なんで勝手に私ってことになってるの!?てかなんで不満そうに了承してるのさ!」

こ「いや、雫が推薦したからさ…茜とは4歳からの仲なんだろ?」


そう言われると何も言い返せない。

なにをもって推薦したのかは全く身に覚えがないけど。


ち「大丈夫ですよ。責任を全部押し付けたりしませんから」

雫「そうだよ。あくまで名を借りるだけだから」


詐欺の時によく使われる定型文のようなものが聞こえた気がするが、不安と心配を抱きつつ私はリーダーになることを了承した。


舞「よし、後はパーティ名ね」

卯「あ、それならあたし考えてあるわよ」

こ「じゃあ契約書に書いて来いよ」

卯「おう、まかせとけ。I'll be back」

雪「すぐそこじゃん」


―――――――――


卯「ほら、書いてきたよ」

こ「どーもどーも。じゃあリーダー、署名を」


はいはいと言って立ち上がり、受付に向かう。

そういえば卯乃のやつパーティ名何にしたんだろう。

すっかり確認を怠っていた。

…そもそもパーティ名なんて決める必要があるのか。アイドルじゃあるまいし。


茜「あ、どうも」

受付嬢「茜さんですね。どうぞこちらに署名を」


聞こえていたのか卯乃が漏らしたのかはわからないが、受付は私がリーダーになることを把握していたようだ。

私は筆記具を受け取り自分の名前をできるだけ丁寧に書き込んだ。


受「はい、ありがとうございます」

茜「あの…そういえばパーティ名はなんて書いてましたか」

受「あら、把握していなかったのですか?」

茜「え、ええ…確認するのをすっかり忘れてまして…」

受「えっと、パーティ名は『あああああ』ですね」


おいちょっと待て。なんだよ『あああああ』って。

ソシャゲのリセマラかよ。全く緊張感が無さすぎる。

私は卯乃を呼び事情聴取をすることにした。


卯「え、いいじゃん。茜だってスマホのゲームでこの名前にしてたじゃん」

茜「それゲームの時だけだから。普通そんな名前にしないって」

卯「え、じゃあ『あかねちゃんとゆかいななかまたち』にするか」

茜「やだよ。なんだよ『あかねちゃん』って」

卯「んも~文句ばっかりだな~じゃあ自分で考えてよ」


立候補したのは自分なのに無責任な奴だ。

私が考えることにしたのはいいが、パーティ名決めるのって意外と難しい。

やはりパーティ名なんていらないと最初から思いながらも決めざるを得ないので考えなくてはいけなかった。


結論を言うと『Desire』に決まった。

『この異世界から一刻も早く出ることを望む』という意味でこの名前に行き着いた。

だって命がけで化け物と戦っているより家でゴロゴロしながら同人誌読んでいるほうが言うまでもなく幸せでしょ。


茜「…というわけで『Desire』に決まりました」

卯「ふーん。まあいいか」

茜「まあいいかってなんだよ偉そうだな」

こ「ま、それよりさ、行こうよ、武器もらいに」


皆は無関心そうに返答し、私を置き去りにして一行はおっさんのところへ向かう。

なによ。ちょっとくらい関心持ってくれたっていいのに。

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