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異世界の朝餐

こ「おっさんどこだ~?」


軽く30分は館内を彷徨っている気がする。

十分すぎるくらい目立つ格好をしたおっさんを探すのにこんなに手間どうとは思ってもいなかった。

先ほどの大広間、最初に奴が勘違いで無理やり冒険者への勧誘をしてきたロビー、窓すらない寝床、その他いろんなところを探したがとうとう見つからなかった。

というか人すらほとんどいなかった。おっさんを探す間に騎士を二、三人見かけたくらいで、町の中心的な建物にはそぐわないほど過疎っている。


残っている捜索場といえば帝王のいた最上階くらいだった。

いくら顔見知りとはいえ行くのは恐れ多いが、武器がなければ冒険者になれない。なれたとしても武術で獲物を絞める実にワイルドな冒険者になるだろう。

それは困る、というかそんな力があるはずもないので少し無茶をしてでも武器を手に入れる必要があった。


 そして私たちは帝王の部屋の前に着いた。相変わらず13回まで上るのは億劫だった。

階段を上る前と違い、いざ部屋の前に来てみると威圧感は全く感じなかった。多分99%はあのへんてこな姉のせいだろう。

ただそれと同時に奴はここにいないんじゃないかと思い始めた。なんとなくだけど。

とはいえせっかく上ってきたので捜索。せめてはるかさんに挨拶だけでもしていこう。


しかし私が扉をノックしようとしたその瞬間――


如「おやおや皆さんお揃いで」


後ろから執事の如月さんに声をかけられた。

どこから出てきたんだ…


美「あ、おはようございます」

卯「緑の鎧のおっさんしりません?」

如「緑の…おっさん…?」


如月さんは困惑したように聞き返す。

そりゃ隠語だしわからなくても致し方ないだろう。


如「緑の…あ、ああ、ギルド長のことですかな?」

雪「んにゃっ!?」


嘘でしょ…あの人ギルド長だったんだ…

普通に"おっさん"とか"あん畜生"とか呼んでたけどバチは当たらないだろうか…


如「ギルド長ならここにはいませんよ」

ち「で、今どこにいるかってわかりますかね?」

如「食堂ではないでしょうか。多分皆さんのことお待ちしてますよ」


食堂か…確かにそれっぽいとこは探さなかった気がする。

というかあいつ一階のロビーに来いって言ってただろ。

なんで勝手に食堂で待っているんだよ。


舞「まあとにかく食堂に向かうしかないわね…」

茜「で、食堂はどこにあるんですか?」

如「三階です。ただ少々わかりにくいので案内します。さあ、付いてきてください」



――――――――



如「さあ、着きましたよ」


そう言って如月さんは立ち止まる。

どう見ても行き止まりで、辺りに扉らしきものはない。

あるとすれば壁にはしごが立てかけられている――ってまさか…


如「ここをこのはしごで上れば食堂です」


やっぱりだ。どおりで見つからなかったわけだ。

にしてもなぜ飯前にはしごに上るだなんてことしなくてはならないのか…


美「嫌だけど…上がるしかないのね…」


如月さんがはしごを取り付ける。はしごの片方を天井に思いっきり突き付けた。

すると天井から光が差し込んだ。

そしてはしごを立てかけた。


如「さあ、上りますよ」


そう言って如月さんははしごを上った。


こ「じゃあ私次行くわ」


こはるもはしごを上っていった。

次に雪音がはしごに手をかけた。

そして上っていった。


雪「ひゃっ!?」


突然雪音が変な声を出した。

よく見ると舞香菜が雪音の尻を鷲掴んでいた。


雪「何するのよ!手離すところだったじゃん!」

舞「だってぇ~雪音ちゃんのかわいいお尻が目の前にあったからぁ~それにしてもそんなかわいい声出すのねぇ~」

雪「ちょっ…こいつ…変態!バカ!アホ!」


雪音が小学生並みの罵倒をしたが、舞香菜は断固として放そうとしなかった。

それどころか雪音の尻に顔を近づけたため慌てて止めに入った。

幸いにもパンツにプリントされていた猫ちゃんとのキスは免れたようだ。


雪「ああもう!私がいいって言うまで絶対そのド変態を離すんじゃねぇぞ!」

茜「お、おう…」


雪音は半泣き状態で再びはしごに手をかけた。


舞「もぉ~そんなに怒らなくたってぇ~」

雪「はぁ!?馬鹿じゃないの!?黙れ!二度と話しかけるな!」


雪音が舞香菜を睨みつける。

それに対し舞香菜は笑顔だった。

雪音の罵声がむしろご褒美に――舞香菜はもしかしたら俗にいうマゾというやつかもしれない。


その時上からはしごを伝って何かが落ちてきた。

――そして"それ"は雪音の頭に直撃した。


雪「痛ったぁ!!!!!」


雪音は床に転げ落ちた。

とばっちりで突き飛ばされたり、お尻を揉まれたり、落下物にぶつかったり本日の雪音じゃ何かと不幸続きだ。


そして落ちてきたのはモノではなくさっきはしごを上り切ったはずのこはるだった。

…なぜか涙目だった。


こ「ねぇ美涼、あのねあのね」

美「あの…それ私じゃなくてはしごよ…」

ち「どうしたんですか?そんなに取り乱して…」


こはるがこちらに向きを変えて早口で答える。


こ「えっとえっと…大きいのにドバーってなっててその上にジャーってなってて…」


何言ってるのか全然わからない…


こ「とにかく来ればわかるって!」


そう言ってこはるは美涼のツインテールを両手で掴んだ。


美「あのね、はしごはあっち。私は美涼」



――――――――



ギ「全く…はしご上るだけに何日かけるつもりだったんだか…」


ロビーで待つとか言ってたくせに勝手に食堂≪ここ≫で待ってたのはどこのどいつだ。


ギ「まあいい、食事はできている。冷める前に食え」


緑のおっさん改めギルド長の手の先には見事な食事が並んでいた。

香ばしいパンに半熟の目玉焼き。こんがりよく焼けたベーコンに今さっきそこで採ってきたんじゃないかと思うくらい新鮮なレタス。

シンプルだがどれも食欲を掻き立てる逸品だ。

もはやこれ以上の完璧な朝食があるのか。いや、あるはずがない。これぞ朝食の頂点だ。

…ある一つの事情さえ除けば。


雫「6人分しかないわね…」


そう、私たちの人数分無いのだ。

しかも一席はギルド長が座っているので私たちに残された椅子はあと5席だ。


舞「これは…」

卯「朝食を賭けてのじゃんけんか…?」


ギ「あっ、ミスった」


朝食争奪戦が起こりそうなところでギルド長がミスに気づく。


ギ「君たちの朝食は向こうだ」


ん?向こう…?

私たちの朝食はこれじゃないの?

そしてギルド長の指の先を見る。


皆「………!!」


もしかしてあれが私たちの朝食…!?

というかありを食べものと称していいのだろうか。


ち「こ…これ食べられるんですか…?」


ちさが震え声で尋ねる。


ギ「食えるも何もあれが君たちの朝食だ。名付けて"勇者飯"だ」


どうやらあれが朝食らしい。

一言で言うなら"生ゴミの集積場"。中央に肉が置いてあり、周囲には死んだ色をしたブツが申し訳程度の彩を添えている。

器の底には「ドレッシングとでも思え」と言わんばかりの雑巾を絞った後の水の色をした液体が待ち構えている。

臭いは到底言葉では言い表せられない。


私たちはそれに少しずつ近づいていく。


ギ「肉に周りの野菜をかけて食べるんだぞ」


ギルド長は爽やかな笑顔で言った。

こいつらまさか私たちをスパイかなんかだと思って殺す気なのでは…?



――――――――



 語彙力を失いそうなほどひどい臭いに耐え、遂に椅子に腰かけた。

ただこれからこのブツを胃に流し込むと考えると生きている心地がしなかった。


雪「私これ食べたくないんだけど」

雫「そう思っているのあなただけじゃないと思うわ…」


やはり皆同じことを思っていたようだ。


こ「じゃ、じゃあ誰が最初に食べるかじゃんけんする…?」

卯「ば、馬鹿!冗談言わないでよ!あたし嫌だからね!?」


キリがいいわけでもないのに会話が止まる。

昨日まで見た目の良さを追求したものを朝食にしてきた私たちにとってこれは論外であった。

右に目をやればそこには宝石の如く輝く目玉焼きとベーコン。そしてそれを美味そうに食べるおっさん。

なぜ私たちはこんなにも惨めな目に遭っているのか。そう思うと涙が出た。


 しかしリーダーである私が先導しなければ。

そう思ってナイフとフォークに手を伸ばそうとした瞬間――


こ「舞香菜…お前…」


視線を舞香菜の方にずらす。そこにはブツを喰らう舞香菜の姿があった。


卯「舞香菜…お前を一人犠牲にはできない…!!」


そう言って卯乃も食べ始めた。

そしてまた一人、また一人と食べ始めた。

私も食べなくては。そう使命感に駆られ、ブツを口に運ぶ。


口に含んだ瞬間、父親の靴下の臭いをそのまま口に放り込んだような味が口いっぱいに広がった。

肉自体は普通の肉の味だが鳥の胸肉を蒸して乾燥させた感じなので正直美味しくない。

底の汁につければ触感が緩和されるがやはり靴下臭がやってくる。

このブツにあえて料理名をつけるとすれば「乾燥肉の汁かけ~一難去ってまた一難~」といったところか。

レストランに出されたら星剥奪どころか訴訟ものだ。


…明日からは自分たちで調達しよう。

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