最終章:三十年目の奇跡と、一枚の家族写真
親馬鹿のじいじ、お嬢様の双子誕生
神聖シャルロット帝国が宇宙を鉄の規律で平定し、魔王(太郎)と二人の最高のワイフたちの「周替わりベッドスケジュール」が平和に、しかし物々しく稼働し始めてから、実に三十年の歳月が流れていた。 太郎は72歳(肉体年齢はオリハルコン骨格とエルフの秘薬により、未だ精悍な20代後半から30代前半のまま)。そして、不老不死の破壊神であるシャルロット姫は49歳(外見は18歳の少女のまま)。猫妖精の完全体であるアリスお嬢様も49歳(外見は可憐な19歳前後のまま)。 三人の命がけの愛のサバイバルが続いていた新帝国の宮殿に、ついに宇宙の歴史を変える「最初の大騒動」が巻き起こった。
「――お生まれになりましたわ! 太郎様、アリスお嬢様が、無事に双子の女の子を出産されました!」 エルフの治療長が、嬉し涙を流しながらハイテクICU(産室)から飛び出してきた。
帝国全土が歓喜の渦に包まれる中、ベッドの上で二人の赤ん坊を抱いたアリスの元へ、太郎と、帝国宰相である大商会長(義父)が、弾かれたように転がり込んできた。
「おお……っ! なんて可愛いんだ……! 俺の娘、俺たちの子供……っ!」 若返ったイケメンの顔をこれでもかとクシャクシャに歪ませ、大粒の涙を流して赤ん坊に頬ずりをする太郎。
遺伝子の強さのせいか、双子の女の子たちは太郎にはあまり似ておらず、ふさふさの愛らしい猫耳と尻尾をパタパタと動かしていた。「ハハハハハ! 見なさい太郎殿! この目元、この耳の角度! 私の愛しいアリスが小さかった頃にそっくりではないか! 素晴らしい、我が商会、いや我が帝国の最高の宝だて!!」 普段は冷徹に宇宙の経済を牛耳る老宰相も、この時ばかりはただの「じいじ馬鹿」へと完全退化していた。 太郎と宰相の二人は、文字通り馬鹿がつくほど双子を猫可愛がりし、四六時中「抱っこさせてくれ」「私の孫だ」と palace(宮殿)の中で小競り合いを繰り広げ、それを見たアリスお嬢様は、呆れたようにため息をつくのだった。
「もう、お父様も太郎様も、少し落ち着きなさいな。子供たちが甘やかされすぎて、将来どんな泥棒猫に育つか分かったものではありませんわよ?」 呆れ顔のアリスだったが、その瞳には母親としての深い幸せの光が宿っていた。
慈愛の夜戦と、二度目の爆弾 しかし、アリスの双子誕生を、誰よりも複雑な表情で見つめていた人物がいた。
第一の妻、シャルロット姫様である。「う、ううう……っ! 先を越されてしまいましたわ、泥棒猫アリス……っ! 私の方が先に太郎様と結婚しましたのに、悔しい、激しく悔しいですわーーーっっ!!」 最初こそ、猛烈な嫉妬と自己嫌悪で部屋の隅でシーツにくるまって泣きじゃくっていたシャルロットだったが、彼女の行動は迅速だった。
「こうなれば、なりふり構っていられませんわ!」と、お顔を真っ赤に染めて、周替わりの自分の週になるや否や、怒涛の勢いで太郎をベッドへと襲撃(夜戦)し始めたのだ。
だが、30年前の暴走とは、決定的に違うところがあった。 かつてアリスお嬢様と「肉体言語による毆り合い」を経て和解し、さらに保険体育(性教育)の授業をきっちりと叩き込まれたシャルロットは、もう力任せに太郎の腰骨を粉砕するような愚は犯さなかった。
彼女は、壊れやすい大切な宝物を扱うかのように、【太郎の肉体を深く慈しみ、労わりながら】夜のスキンシップに臨むようになっていたのだ。
「太郎様、苦しくありませんか? 痛くありませんか?……ふふ、私、ちゃんと手加減が出来るようになりましたのよ❤」 愛の質量は相変わらず銀河系最重量級だったが、太郎への身体の負担は以前に比べて劇的に少なくなっていた。
これにより、太郎の肉体が破壊されることなく「安全に回数を重ねる」ことが可能となり、寝室の外でストレッチャーを構えて待機していたゴブリンや地球人の医師団も、「これなら心臓マッサージの必要がないギギッ!」と、心底ホッとして胸を撫で下ろしていた。
なんやかんやで、アリスの産んだ双子の女の子が1歳になる頃には、シャルロットもすっかり母親代わりのようになっていた。
「ほら、おいでなさい、可愛い泥棒猫の赤ちゃんたち❤」と、自らの豊満な胸に双子を抱き上げ、自分の子供のように本気で可愛がるシャルロットの姿を見て、新帝国の関係者たちは「これで内紛による宇宙滅亡は完全に回避された……」と、心から安堵していたのである。
――しかし。 そんな奇跡の平和は、数年後、アリスお嬢様が『二度目の妊娠・出産』を迎えたことで、再び激しい政治的サバイバルへと変貌を遂げる。
アリスが次に産んだのは、元気な【男の子】だった。「……これは、まずい。極めてまずい事態だて」 赤ん坊の誕生報告を聞いた瞬間、帝国宰相(大商会長)の顔から笑顔が消え、老獪な政治家としての危機感がその目を覆った。
新帝国の後継者問題である。 いくらアリスが第二夫人候補として抜群の内政能力を誇っていようとも、この国家は『神聖シャルロット帝国』なのだ。不老不死の破壊神シャルロットを頂点に据えた専制君主(宗教)国家において、最初に生まれた男子がアリスの子であれば、帝国の諸侯や群衆は、自動的にその男の子を「次期帝国の後継者(皇太子)」として扱ってしまう。
だが、シャルロットの名を冠する帝国である以上、少なくとも歴史の最初の一度は、シャルロット姫の実の子が皇帝の座を継ぐべきだった。
さもなければ、将来的に帝国が「シャルロット派」と「アリス派」に二分され、本物の破壊神を巻き込んだ銀河滅亡大戦争が勃発しかねない。
「太郎殿、事態は一刻を争う。今回アリスが産んだ男の子は、戸籍上【女の子(皇女)】として世界に発表する。
これで数年の時間は稼げる」 宰相は血走った目で、太郎の胸ぐらをつかまんばかりの勢いで詰め寄った。
「その間に……何があっても、どんな手を使ってでも、シャルロット様との間に男の子を作りなさい!! これが我が帝国、いや、全宇宙の生命が生き延びるための、絶対のサバイバルミッションだ!!」「ギギッ! 医療班も総員でサポートする! 地球の日本政府から、マカとスッポンエキスを積んだ輸送船がさらに100コンテナ到着したギギッ!!」
「いや、ちょっと待ってくれ! 女の子として発表するって、アリスに怒られるし、何よりプレッシャーが強すぎて俺のオリハルコンの胃に穴が空く……っ!」
42歳(実質72歳)の魔王太郎は、新帝国の重臣、地球の日本政府、そして全宇宙の未来という重すぎる神輿を担がされ、物凄いプレッシャーの前に本気で鬱になりかけていた。
アリスお嬢様以上に圧倒的な生命力と神の力を持つシャルロットの前には、やはりただの(超人化したとはいえ)人間である太郎では、子を成すことは不可能なのか……。医療班の部屋には、連日連夜、太郎の絶望の溜め息が響いていた。
三十年目の奇跡 それから、さらに数年の月日が流れた。
これまでにないほど増員され、地球の最新遺伝子工学とゴブリンの魔導調合、そしてエルフの祝祷術を組み合わせた「総勢数百名」の超巨大医療団による決死のバックアップ。
そして何より、太郎とシャルロットの、互いの肉体を労わりながら紡ぎ続けた純粋な愛の営みが、ついに大宇宙に【本物の奇跡】を呼び起こした。
「……出た、出たギギッ……! 禍々しいほどの、しかし最高に清らかな神の魔力反応……! シャルロット姫様、御出産ですわ!!」 新帝国の全星系が、そして地球の市ヶ谷の作戦本部が、その瞬間、一斉に歓声と涙で揺れた。
ついに、ついに太郎とシャルロットの間に、待望の【男の子】が産まれたのである。 その男の子が産まれた瞬間、宰相や日本政府、そして太郎たちの間で交わされていた「女の子としての偽装工作」は、すべて包み隠さず全宇宙に向けて公表された。
『これまで女の子として育てられていたアリス夫人の第二子は、実は男の子であり、今回誕生したシャルロット皇后の第一子(皇太子)の未来の盾、そして生涯の友として育てるための政治的配慮であった』 宇宙の住民たちは「さすがは魔王太郎、どこまでも深謀遠慮な参謀だ……」と勝手に納得し、アリスの産んだ男の子も、本来の性別を取り戻して、元気に宮殿の中で兄(皇太子)の親友として健やかに暮らし始めることとなった。
すべての歪みが、彼らの深い愛によって、綺麗に、優しく包み込まれた瞬間だった
家族の写真 さらに数年の歳月が流れた、ある晴れた日の午後。
星系シャルロットの最高宮殿の、広大な美しい庭園にて、新帝国の歴史に永遠に刻まれるであろう「一枚の写真」の撮影が行われようとしていた。
「ほら、みんな、こっちを向いてくださいな。カメラの準備が整いましたわよ」 19歳の頃と全く変わらない、しかしどこか大人の包容力を滲ませた美しい黒の軍服ドレス姿のアリスお嬢様が、ふさふさの猫耳を揺らしながら皆に声をかける。
その隣には、純白のドレスに身を包んだ、こちらも出会った頃の17歳の少女のまま、永遠の若さを保ち続ける不老不死の破壊神、シャルロット姫様がいた。彼女の胸には、アリスが産んだ第二子である元気な男の子が、嬉しそうにぎゅっと抱っこされている。
シャルロットは、その子を本当の実の息子のように慈しみ、蕩けるような優しい笑顔を向けていた。
そして、アリスの隣には、すっかり大きくなったアリスの第一子――双子の女の子たちが並んでいた。双子たちは、自分たちの新しい弟である「シャルロットが産んだ小さな男の子(帝国の皇太子)」を、代わる代わる愛おしそうに腕に抱っこして、お姉ちゃんぶって笑い合っている。
その中心に立っていたのが、彼らのすべての心の支えであり、全宇宙の魔王たる、太郎であった。 72歳(肉体年齢20代)になった太郎は、かつて一佐から贈られた『子宝の御守り』を、今でも自らの黒い式典服の内ポケットにそっと忍ばせていた。
両脇に立つシャルロットとアリスの腰を、愛おしさを込めて優しく引き寄せる。
「さんぼう、僕の立ち位置、ここで合ってる?」 太郎たちのすぐ後ろから、落ち着いた、しかし聞き覚えのある悪戯っぽい声が聞こえた。 振り返れば、そこには42歳になり、立派に成人した人族の戦士へと成長したレオが立っていた。太郎からプレゼントされた、大好きなブルーとゴールドに塗られた専用超高速船を駆り、今や帝国の若き将軍として宇宙を駆け回っている青年だ。
だが、太郎の前に出ると、彼は今でも11歳の頃のような無邪気な顔で、太郎を「さんぼう」と呼ぶのだった。
レオの周囲には、旅の最初期からの最古参である、少しだけ髭が白くなったドワーフのメカニックや、美しいエルフの治療長。 さらには、孫たちの姿を見て完全に目尻を下げている老宰相(大商会長)や、30年間太郎の命を死線から救い続け、寝室のICUを見守り続けてきた地球の医師団、ゴブリンの薬調合師たちの誇らしげな笑顔が、ずらりと長蛇の列をなして並んでいた。
「よし。……みんな、最高の笑顔で頼む。これまでの、俺たちのすべてのサバイバルの成果だ」 太郎が優しく告げると、右側のシャルロットが「はい、太郎様! 世界で一番大好きですわ!」と頬を寄せ、左側のアリスが「私も、誰よりもあなたを愛していますわ、旦那様」と寄り添う。
カシャリ。 光の瞬きと共に、宇宙で最も過酷で、最も理不尽で、そして世界中の何よりも深い愛に満ち溢れた、魔王と二人の超人夫人、そして彼らを支えた素晴らしい仲間たちの歩みが、一枚の温かい家族写真の中に、永遠に刻み込まれるのだった。
(『自衛隊員サバイバル日記改』神聖シャルロット帝国編――これにて、大団円)




