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ひとりぼっちの姫と不思議なぬいぐるみ  作者: 空桜歌
第一章 偶然と、必然と
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君の才能


「ステラ、一旦火を消してくれるか?」


「ん、わかった」



 さっき水の球を消した時に、魔法の止め方は理解したんだろう。

 ステラは迷う様子もなく、言われた通りにすぐ火の球を消してみせる。


 初めて魔法を使うにしては上手くできてるし、暴走する気配もない。

 これならもう少し難しいことをやってみても良いかもしれない。

 何より魔法の扱いに慣れるには、色んな魔法を使うのが一番だしな。



「次はちょいと難しいからよーく見てろよー」



 そうステラに声を掛ければ、言われた通り見るためだろう。

 無言でじっとオレを見てくるステラだが、今回は手元でやるつもりはないのであっちを見ろと少し離れたところを指差す。


 次にやろうと思ってる魔法はちょいと派手なもんだし、失敗したら爆発してもおかしくないからな。

 何があってもオレが守ってやるけれど、安全の確保は大事なことだ。

 そうしてステラがオレの指差した方向へ視線を向けたところで、オレは水と火の螺旋を作り上げた。



「わ、ぁ……」


「すげーだろ? 魔法ってのはこういうこともできるんだぜ」



 柱の如く空へと伸びる水と火の螺旋に、ステラは目を大きく開き、小さく声を漏らす。

 驚いてもらえたようで何よりだ。こういう刺激も経験になるからなぁ。色んな事を見せてやらないと。



「水ってのは火で蒸発しちまうし、火は水で消化されちまうだろ?

 そんな風にこの世界には反発しあう力ってのがあってな。反発しあう力を使った魔法はちょっとでも力加減を間違えたら失敗しちまうんだ。

 だからちょいと難しいんだが……ステラは目が良いからな。きっとできるはずさ」


「……わかった」



 さきほどまでの魔法とは違うと感覚的にわかっているんだろう。

 見本として作った水と火の螺旋を消しながらステラに促せば、少し自信無さげに頷き手を前へと向ける。

 そして数秒の間をおいて、全く同じ場所に、全く同じ水と火の螺旋が現れた。


 いやー、流石にもうちょい時間が掛かると思ってたんだけどなー。

 やっぱ目が良いと魔法も上手く使えるんだろうな。これぞ才能ってやつ?



「よーし、そんじゃ今度はそいつをそのままでっかくしてみな」


「そのまま、でっかく……?」



 大きくするだけだから、一から作るよりかは簡単だと思ったが、やはり手本無しでは変化をもたらすのは難しいらしい。

 僅かに水の魔法が揺らぎはしたが、特に変化はなく、水と火は螺旋を保ち続けている。


 だが、さっきとは違って魔法に干渉することはできている。

 きっと魔法として形作られるほど強く想うことができていないだけだろう。

 想いを強固にできるよう集中させてやれば良さそうだ。



「ステラ、オレが補助してやるから、お前は奇跡を願うことだけに集中するんだ」



 繋いだ手から魔力を流し、少し不安定だったステラの魔力を支えてやる。

 魔法初心者なステラでも魔法が安定したのがわかったんだろう。

 そのまま水と火の螺旋の制御が完全にオレへと移ってくる。



「でかくするのが難しそうなら、何でも良いから思い浮かべてみな?

 今見えてるものとかでも良いぜ」


「……今見えてるもの」



 変化を起こそうとしているのは伝わってくるが、中々上手く行かないステラへ助け船を出してやる。

 大きくするのが難しいのなら、他の変化でも何でも良い。

 こういうのは一度でもできれば、色々できるようになるものだ。

 定番でいうと風を足すとかかねぇと見守っていると、考え込むようにステラが呟いたその次の瞬間、オレの隣にオレが現れた。は?



「……ロアが増えたね」


「見えるものっつったもんなオレ。ステラの目の前にいたもんなオレ」



 どうやらステラはオレを思い浮かべたらしい。

 光でできている魔法のオレは、オレが軽く手を挙げれば真似をするように同じく手を挙げてくる。

 螺旋に変化を起こして欲しかったんだけどなぁ。別で新しい魔法を使っちまったかぁ。


 まぁ、これはこれで螺旋の方と交ぜてしまえば変化になるはずだ。

 せめて活用しようとすぐに魔力を操り、魔法のオレと螺旋を結び付ける。

 すると魔法のオレはフワフワと水と火の螺旋の方へと飛んでいき、螺旋の周りをぐるぐると回り始めた。



「ロアが飛んでる」


「あっちは魔法のオレね? 本物のオレはここにいるからね?」



 まるでオレが飛んでいったみたいに言ってない? 飛べなくもないけどさ、今はお前の隣にいるからね?

 繋いだ手を軽く揺らして自己主張をしてやれば、飛んでいった魔法のオレを見ていたステラの視線がこちらに向く。

 そして次の瞬間、またオレの隣にオレが現れた。そう来たかぁ。



「よーしステラ、一旦オレを思い浮かべるのは止めようか。このままじゃ世界中がオレで埋まっちまうかもしれねぇ」


「……してないよ?」


「そっかー無意識にしちゃってるかー」



 そうだよなー無意識に魔法を使うのは元々だったもんなー。

 しかもオレが補助してるから、余計に魔法が発動しやすくなってるんだろうなー。


 そんな会話をしている間にも、ステラは無意識に魔法を使ってしまっているんだろう。

 ポンポンポンポンと、あちこちに魔法のオレが現れて、螺旋の周りへと飛んでいく。

 多分オレが螺旋と結び付けたせいだろうね。段々水と火じゃなくて、オレの螺旋になってきちゃってるわ。



 暴走とは大きく異なるが、制御ができていないなら暴走と言ってもおかしくはない状況だ。

 ステラ自身もどうしたら良いのかわからないようで、困り顔でオレを見てくる。


 それにしてもなんというか、こう、オレが大量発生してると何とも言えない恥ずかしさがあるな……。

 ぬいぐるみだから可愛らしい光景で収まっているが、オレがもしもっと違う姿だったらどうなっていたことやら。

 とりあえずこのまま放置しておくのもアレなので、オレはステラの魔力に干渉し、魔法を終わらせてやった。



「消えた……」


「あれだな、ステラは魔法の才能がありすぎるんだろうな」


「才能?」


「そ。いくらオレが補助してるとはいえ、無意識にあんだけ魔法を使える奴は珍しいんだよ」



 繋いでいた手を離して補助も外しつつ、オレの見立てを話してやるが、ステラにその自覚は一切ないんだろう。

 ステラはただ不思議そうに首を傾げる。


 補助はあくまでも補助であって、魔法の発現には本人の素質が必要不可欠だ。

 その点、ステラは目の前にいたとはいえ、ポンポンオレを作りまくってたからなぁ。

 疲労も感じていない様子だし、相当魔法と相性が良いはず。


 魔法の才能があるのは間違いなく良いことだ。

 だが、その自覚まで無いのは少々まずい。

 こればかりはしっかり自覚しておいてもらわなければと、オレはステラの前へと移動する。

 そしてちょいちょいと手招きして、オレと視線を合わせるように屈ませた。



「良いかステラ、お前はすごい才能の持ち主だ。

 魔法に慣れさえすればどんな奇跡も起こせるようになる。そんな稀有な存在だよ」


「……そう、なんだ」



 それこそ、オレよりも魔法が使えるようになるかもしれない。

 そうなってしまったら別の心配が出てくるが――その時はその時か。


 少なくともオレがいる間は問題ないし、あんまり気にし過ぎてもなー。

 もし何か兆候でもあればステラに話せば良い。

 そう心に決めて、屈んだまま自分の手をぼうっと見下ろしているステラの肩をトントンと叩いた。



「ちょっと疲れただろ。今日はここまでにしとこうぜ」


「……うん、わかった」



 使った魔法の数としては大したことないが、初めて自分の意思で魔法を使ったんだ。

 特にステラは無意識で魔法を使ってしまうのだから、あれやこれやと詰め込むのも良くないだろう。

 卵を焼こうとして火の球を出しちゃうとか、魔法初心者でこんだけ才能があるとそういうこともあり得なくないんだよなー。

 オレの目の届くところならどんな魔法を使われても対処できるけどよ。


 当面の目標としては、ステラが魔法を制御できるようになることかねぇ。

 なんて考えながらステラを立たせ、屋敷の方へと歩き出す。



「――……魔法は、祈りと願い」



 小さく呟かれた言葉と、微かに魔力が動いた気配に振り返る。

 だが、そこにはただぼんやりとステラが立っているだけで。



「……どうかした?」


「……いや、気のせいだったみてぇだ」



 オレの様子を見て不思議そうに首を傾げるステラに、緩く首を振り返す。

 確かに何か魔法を使った気配がしたんだけどなぁ……またステラが無意識に魔法でも使っちまったとかか?

 だとしても特に変わった様子は見当たらないし、何かを呼び寄せてしまった気配もない。


 何かあればオレが対処すれば良いし、ステラに害が無いなら気にしなくて良いかねぇ。

 そう気を取り直し、キョトンとしているステラの手を取って改めて歩き出した。

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