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魔法のプロトジェ バーニングマイ  作者: 衛府 恵
File 5: ズルイデショーン事件
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第28話:Jedes Lebenswerte Leben

『デショーン!ズルイデショーン!』


紅明が発した光線が無数に突き刺さり、デショーンが苦悶の声を上げる。


舞は紅明の後ろから加速して追い越すと、デショーンの足元に入り込み、飛び上がりながらワンドを突き立てた。


「オキシジェェェン、ブラストォォォオ!!」


ドーン


爆発により、巨大なデショーンが打ち上がる。そして地面に落下し……吠えた。


「ショーガイシャ!ズルイデショーン!」


「そんな……」


オキシジェン・ブラストを撃ち込んでもなお、デショーンは黒い靄を噴き出さなかった。思わぬ事態に舞はとっさに動くことができない。


「許さない……フォトニック・インパルス」


パァン!


『ズルイデショーン!』


起き上がろうとするデショーンに紅明が追い討ちをかけるが、まだデショーンは健在だっだ。


「フォトニック・インパルス、フォトニック・インパルス……どうして……」


パァン!パァン!


『デショーン!』


時空間的に高密度の光エネルギーを撃ち込む紅明の切り札、フォトニック・インパルス。だが、それを連射してもこのデショーンには不足らしかった。


「……もう一度……オキシジェン・ブラスト!」


ドーン


『デショーン!』


今度は舞が飛びかかり上からワンドを叩きつけたが、それでもまだダメージが足りていない。


「無駄だ」


そこへ、聞きなれない声が響いた。


「生産性がない人間は社会には不要。障害者1人を養うために我々の社会が支払うコストは60,000ライヒスマルクに上ったのだ。おかしいと思わんかね?このデショーンは偏見などではなく合理に裏打ちされている。だから強いのだ」


見れば、デショーンの傍らに、ダークスーツの上に白衣をはおったアンチ・メントルがいた。


舞は、疲れた様子を見せる紅明の前に立ち塞がった。


「アンチ・メントル!ジョセフとかいう人?あなたがあのおばさんをデショーンにしたの?」


アンチ・メントルの方眉が上がった。


「ジョセフ?あのような痴れ者と一緒にするとは失礼な。私はエルンスト・リューディン。バイアースの顧問医だ。そしてこのデショーンは私の患者ではない。大方、アノニマス・エコーチェンバーの手になるものだろう」


「お医者さん?どうしてお医者さんがバイアースでアンチ・メントルなの?アノニマス・エコーチェンバーって誰?」


「質問の多い娘だ、煩わしい。ショーガイシャズルイデショーン、叩きのめせ!」


『ショガイシャ!ズルイデショーン!』


「うわっ!」


エルンストに命じられたデショーンは跳ね起きるとそのままジャンプし、舞と紅明に殴りかかってきた。舞は紅明を抱えて後ろにジャンプし距離を取る。


『ズルイデショーン!』


「クイック・リアクション!」


デショーンがまた紙の鳥を大量に放って来たので、舞はそれを焼き払った。


「……フォトン・トーペードさえ使えれば……」


紅明が悔しそうに呟く。


(フォトン・トーペードって……さっき禁忌魔法って言ってけど……)


《禁忌魔法は魔法少女1人1人が持つ、使ってはならない魔法だ。だが、これほど強いデショーン相手なら、限定的にその力を解放することもできる。舞君、危険だが、使ってみるかね?》


(うーん、危ない魔法なんだね……うわぁ)


『デショーン!』


大量に放たれた紙の鳥の合間からデショーンが突進して来たので、舞はまた紅明を抱えて逃げた。


「紅明ちゃん大丈夫?私が禁忌魔法を使」


「止めなさい、舞。あんなものを使うのは私だけで沢山よ」


禁忌魔法の名を聞いた紅明は色をなした。


「でも、紅明ちゃん、あいつ強すぎるよ。このままだと施恩ちゃんの試合見られないし、早くやっつけないと」


デショーンがドタドタと走りながら追いかけてくるので、舞もドタドタと紅明を抱えたまま河川敷を逃げ回った。


『ニゲルノ、ズルイデショーン!』


舞は、抱えている紅明がブルブルと震えはじめたのを感じた。


「紅明ちゃん?」


「ふふふふふふ……あなたって子は……そうだったわ、私たち、施恩の応援に来たんだった。こんなデショーンに構っている暇はなかったわね。私が残りの魔力を全部使ってあいつを足止めするから、あなたは禁忌魔法を準備しなさい。必ず一撃で決めるのよ」


紅明はそう言うと、舞の腕をすり抜けた。


「フォトニック・ストーム!」


『ジャマデショーン!』


気合十分に放たれた光線の乱舞がデショーンの突進を止める。


《紅明君の足止めは長くは続かないだろう。舞君、禁忌の扉を開きたまえ》


舞は、自分がどうしたらよいか、不思議と理解した。ワンドを胸の前で祈るように両手で持ち、静かに目を閉じる。


「クイック・リアクション……カロリック」


そう唱えると、足元に複雑な文様の魔法陣が拡がった。背中の放熱翼が折りたたまれ、ワンドのクリスタルが光り輝く。


《アンロッキング・フォビドゥン・マジック……コンプリート。パーミッション・パーシャル》


ドクドクドクドクドクドク……


クイック・リアクションによって循環が活性化し、心拍数が跳ね上がる。クリスタルの上に2つの魔法陣が平行に現れ、その間にバチバチと放電が始まった。


(不思議……こんなに心臓が早く鳴っているのに、全然体が熱くない……)


カロリック――それは、ワーヌことアントワーヌ=ローラン・ド・ラヴォアジエが「化学原論」に記した「誤った」元素の1つ、熱のことだ。舞の禁忌魔法カロリックは、その架空の元素を顕現させる魔法である。


ワンドの上で放電を続ける魔法陣、その間に真っ黒な物質――カロリック――が1滴生じた。


舞は、ワンドを振りかざし、カッと目を見開く。


「施恩ちゃんは、ズルくなんかないぞーっ!」


ワンドをその場で思い切り振り下ろすと、1滴のカロリックはデショーンに向かって飛んで行った。


そして


シャキィイイン!


デショーンは声も上げられずに一瞬で凍り付き、周囲に白い靄が拡がる。


「……限界だわ……」


紅明はその場に膝をつき、変身が解けた。


パキッ、パキッ


凍り付いたデショーンの表面に、大きなヒビがいくつか入り、そこからどっと黒い靄が溢れ出る……気付けばその中心には喫茶店にいた中年女性が横たわっていた。


エルンスト・リューディンの姿は、いつの間にか消えていた。

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