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Drused Race  作者: 鈴生
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 私の父親は、ドルーズド・レースの主運転手(メイナー)で、重度のギャンブル中毒者だった。自分に賭けられるとてつもない額の賞金を、違法スレスレの手段で優勝しては掻っ攫っていく。そして受け取った莫大な金を使っては、他のレーサーに賭ける。それを繰り返していた。

 レーサーとしての腕は確かだったのだろうが、いかんせんギャンブルは向いていなかったようで、借金に塗れていたのだと、幼い頃から母に聞かされていた。


 母は若気の至りで父と関係を持ち、駆け落ち同然に結婚して私を身籠ったそうだ。今の私を見ればわかる通り、その後はずいぶん苦労したようだった。それもそうだろう。父が家にいることなんてほぼなかった。借金取りはたびたび家に押しかけてきたうえ、夜逃げするように引っ越しを続けてきた。私たちにとって、父に対して良い印象なんてありはしなかった。

 しかし、一つだけどうしても忘れられない記憶がある。父が一度、母の目を盗んで私をドルーズド・レースの会場に連れて行ったことがあるのだ。その際、主運転手のコックピットに特別に乗せてもらえたのだ。父が賭けていたレーサーが顔見知りだったようで、完全な厚意だったらしい。それも、そのとき乗せてもらったレーサー本人から聞いた話だ。


 そのときに感じた身体を震わせるエンジンの振動も、喉がいがらっぽくなるような排気の匂いも、目の前でふわりと浮いて見せる重たそうな機体(マシン)も、耳がわんわんするような重低音の駆動音も、何もかも忘れられない。


 しかし、そのろくでなしの父も、私が10代後半になる頃に、借金取りによって命を落とした。その前に、母は離婚して新しい父と結婚していたので、私たちに特に被害は出なかった。新しい父親は朗らかな老人で、母が後妻としてこの老人に取り入ったのは明白だった。

 その老人は快く私に学費や生活費を援助してくれた。それまで碌に学校に行くことすら叶わなかった私に、家庭教師を付けてきちんと教育を施してくれたのも彼のおかげだ。

 ある程度の学力を付けて、老人の望む高等学校に入学した後も、私はあのドルーズド・レースの機体が、あのコックピットでの思い出が、何一つとして忘れられなかった。しかしレース関連のことを聞こうとすれば母が激昂したために、何か資料を読んだりすることは不可能だった。それに、オフィシャル・レーサーになろうと思っても、実際には専門学校に小さなうちから入学している必要がある。


 機体とレースに強烈な憧れを抱いていた私に残された道は唯一、父と同じドルーズド・レースの主運転手になることだけだった。


 それに気づいてからは、学校での授業も顧みず、よからぬ輩とつるんではドルーズド・レースを見に行くことに興じた。客席から、エンジンを蒸かす音を注意深く聞き分ければ、機体のそれぞれの調子は手に取るように分かった。私はどうやらメカニックの才能があったらしい。ギャンブルで負けたことはほとんどなかった。

 そうこうしているうちに、私は学校を辞めた。私の意志ではない。学校側の意志だ。風紀を乱す生徒はいらないのだそうだ。老人と母が学校に呼び出され、私の素行不良と、退学を告げられると、母は狂乱していた。曲がりなりにもろくでなしの子である私を、ここまで愛してくれた人間が狂う様は見ていられなかった。老人は特に反応していなかったが、家に着いてから初めて、いやに真っ直ぐに私の両目を見て、一言だけ告げた。

「出ていきなさい。」

 最初からそうするつもりだったので、私に異論はなかった。最低限の荷物と、ギャンブルで稼いだ金を持って、その言葉を聞いた数時間後に私は家を出た。誰も見送りには来ていなかった。当然のことだ。


 家を出ると同時に、私はそれまで共に生きてきた名前を捨てることにした。私はただの一介のレーサーとして、ここから生きていくのだ。親に付けられた名前なんて、もう要らなかった。

 そのまま私はドルーズド・レースに身を投じた。昔、コックピットに乗せてくれた主運転手のレーサーに会ったときに、あの時のことを感謝していると伝えると、父親と同じ目をしている、とだけ言われた。どうやら私はあのろくでなしの血を濃く引いたらしかった。

 彼に、自分もレーサーになりたいのだと告げると、お前一人では無理だと返された。レースには二人一組で出なければいけないこと、バディで一つの機体を持つことが絶対条件だからだ。

 そんなことはとうに知っていたので、その場の会話は切り上げた。ギャンブルで金を稼いで、中古の機体を買えばいい。副運転手(ツイン)となる人間は前につるんでいた輩の中に一人だけ心当たりがあった。なんとかなる、そうやって高を括っていた。

 結局に手に入れた機体はとんでもなく型落ちで、廃棄品(スクラップ)にした方が金になりそうなほどボロボロだった。当時選んだ副運転手は、素養もへったくれもないような、一緒にギャンブルに興じていただけの男だったため、運転はろくにできなかった。


 ギャンブルさえすれば金は面白い様に手に入ったので、レースに出場する権利を買い取ることは何ら大変ではなかった。ただし、出場しても最下位やそこらをうろうろしているだけだった。クラッシュしかけたこともたびたびある。副運転手は、最初の一人からどんどん変わっていって、とうとう両手では数えきれないほどになった。誰も彼も、主運転手である私の意志を、レース中に汲み取ってくれないのが問題だった。

 言葉が無くても、機体を運転していれば分かるであろう私の意志を、誰も読み取れはしなかった。私にとって、それがどうにも不可思議でならなかった。言葉での指示は理解するのにコンマ数秒かかる。それが命取りになるのだ。だったら喋らずにいた方が効率的なのに。


 そうして副運転手をとっかえひっかえしているときに出会ったのが、今の主運転手のリュカだった。

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