結
戦いは拮抗し、終わらない。
「ふっ、ジルベール殿……やるな」
「ジャンヌ殿こそ……」
互いに満身創痍である。
そしていつしかふたりの間には、熱い友情が生まれていた。
拳で語り合うふたりの根底にあるのは、国を想う気持ち……かたちは違えど、ふたりの気持ちは一致していたのである。
分かり合えない筈があろうか。いや、ない。(※反語)
──その一方で、城は砕けていた。
王城にいる者達は、皆避難している。幸い宰相が早々に(※ワイバーン登場あたりで)機転を利かせていたのである。
城周辺には結界が張られており、民や街に被害はない。
彼らも国の民であるが、脳筋ふたりにはお構い無しだった。
本来城は大砲でも砕けるようなものではない。強固な防御魔法が付与されているのだ。
しかし、それを付与したのは他ならぬ『聖女』であるジャンヌである。
ジャンヌが本気で戦った為、自身の攻撃魔法とで相殺されてしまったのである。
これも予測した宰相が避難がてら魔導師を集め、崩れた城に付与された防御魔法を二次使用し、城周辺には強固な結界が張られている。二次使用の為その質は変化しており、相殺はされず……おかげで王都の民に損害は全くない。城が粉々なだけだ。
もう宰相が王でいいんじゃないかな?と、誰もが思った──その時であった。
王家の盟約の証が、復活したのだ。
「なんだこれはァァァッ!?!?」
マティアス殿下の腕に。
改めて説明すると、『盟約の証』は神からの加護。神と王家の盟約により、この国に尽くすことでその恩恵を受け、国への加護が発動する。
盟約の証は『聖女=神の遣い』でありこの国に縛られし者である証明だ。
平たく言うと、『盟約の証』は加護の代わりの呪いみたいなもの。聖女はその依代。
余談だが別に神殿が『聖女』として募る魔力量の高い女性はいる。それはまた別物である。
彼女らは魔導師に近く、その魔力を神殿で祈りを捧げることにより、国内のエネルギー源として供給しているに過ぎない。
元々魔力量の半端ない彼女が、この国の娘として生を受けたことで『盟約の証』が発動され、故に王太子の婚約者となったのである。
神との約束を違えたマティアスに、『盟約の証』は移った。
元々『盟約の証』はより王家の血が濃く、より魔力の高い者が選ばれる。公女であるジャンヌが選ばれたのは魔力的にも血筋的にも当然。
そして次に選ばれたのが、マティアスだった。
『盟約の証』の依代として選ばれたマティアスは、その姿を変化させた。
「おや、マティアス様。 これは随分可愛らしいお姿で」
いつの間にやらマティアスは女になっていた。
「俺は男だァァァ!!!!」
そう叫べど、高い声。
元々中性的な見た目はそこまで変わっていないのは幸いだろうか。
「ふむ、ジルベール殿……どうかな? 彼女は」
「ジャンヌ殿、笑えん冗談だ……私は貴女の婿候補だったのでは? 随分つれないことだ」
「これは異なことを。 貴殿こそ、クーデターを防げるなら問題ないだろう。 それに彼女はほら……美人だし」
ふたりは満身創痍であることと、この戦いに満足してしまっていた。
正直もうどうでもよくなっていたのである。
「おもらし娘の躾など、私には向きませんな……国を治めるなど論外です。 どちらも、もっと向いている男がいるではないですか。 そこに」
ジルベールの視線の先には……宰相。
まだ若い宰相のブランドは、なにかとだらしないマティアスや温厚すぎる陛下の尻を、常日頃から叩く役目もしている。
マティアスは比喩表現だけでなく、物理的にも叩かれていた。
「ブランド殿、躾はお得意でしょう。 ここはひとつ」
「ふむ……まあ仕方ありませんな」
「ブランドォォッ!?」
ブランドはマティアスを拘束しつつ抱き上げると、「城を直しておいてください」と言い残して自らのタウンハウスへと帰っていった。
「おお……これは……!」
「まあ……なんということでしょう!」
陛下と王妃がバカンスを終えて国に戻ると、城は素敵にリフォームされていた。
魔導師と騎士、そして王城で働く皆は毎日その場で野営をしつつ、ジャンヌとジルベールの指示の元、力を合わせて王城を完成させていた。
連日連夜の作業と宴により、仲が良くなかった魔導師と騎士の仲は深まり、王城で働く皆にも恋愛や友情が生まれたり……と、色々あった模様。
マティアスが城に戻る頃にはすっかり女性らしくなり、皆に『ブランドに逆らったらヤベェ』という意識を根付かせた。
すっかり大人しくなったエミリーは、『都会怖い』と領地に引きこもり、修道院に入った。彼女は彼女で名実ともに『聖女』となったのである。
そして──
「いくぞ! ジルベール殿!!」
「今日こそ決着の時!!」
ジャンヌとジルベールはワイバーンに乗り、誰にも迷惑のかからない所で戦うのが日課となっていた。
大体いつも途中で、なにかしら邪魔が入るので決着はついていない。
ジャンヌは勝ったら、ジルベールを婿にとる気でいる。
ジルベールは勝ったら、ジャンヌを娶る気でいる。
さっさとくっつけばいいのだが、そういうことではないのだ。
常人にはわからないが、脳筋ふたりはこの過程で仲を深めているのだ。
ふたりがどんな夫婦になるのか──それは誰もわからない。
だがいつも丁度いいあたりで横槍を入れているのがブランドであることから、国の平和はまだまだ続きそうである。
めでたしめでたし。




