死屍柴ヒルイの闘い 四人の幹部
「殺れ」
静かな号令が発せられると四人の殺し屋が動いた。
アンラッキーにはシスターミナミが飛び掛り、竜胆組長には日本刀を抜刀しながら木瑞が。そして赤き刃を握り締めた死屍柴ヒルイには、夜野と滝口が各々の獲物を向け襲い掛かった。
「こいつは俺の獲物っすよ! 蠍の餓鬼は指咥えて見ていて貰えないっすかね!」
「手柄が転がっているって言うのに、黙って見ているなんて……出来ないね」
死屍柴ヒルイに左右から三段ロッドと大振りのファイティングナイフが迫る。
どちらの攻撃も速度、威力ともに十大組織の幹部として恥じない攻撃だった。
だった。
その攻撃は死屍柴ヒルイに届くことはなかった。
ヒルイは前に軽く飛びだし、二人の間を通過すると、夜野と滝口の首から鮮血が吹き荒れた。
二人は武器を振り上げた体勢のまま、マシュマロのように柔らかい絨毯の上に倒れこんだ。
瞳孔は開き、瞬時に顔から血の気が引いていき、白磁器のような白に塗り替えられていった。
即死だった。
「腐っても化け物ってことかい」
橘はぎりっと歯噛みしながら呟いた。
ヒルイは通り抜けざまにナイフを振るっていた。
頚動脈を斬るのではなく、首の骨ごと叩き斬る一撃を夜野と滝口に同時に与えていた。
熟練の技とは決して言えないような、力と速度まかせの一撃を。
力任せの攻撃など十大組織の腕利きにとってはかわす事など造作もない筈だった。
しかし二人はかわせなかった。
それどころか、自分が斬られた事すら気づくことが出来ずに死んでいった。
なぜならそれが、死屍柴ヒルイの攻撃だったからだ。
速度、威力共に常軌を逸したもの。人間の境地と言っても過言ではないものだったからだ。
最強。
その言葉に相応しい強さを死屍柴ヒルイは見せた。
夜野と滝口が絨毯に倒れるのと同時に、音もなくシスターミナミと木瑞が豪華な絨毯に崩れ落ちた。
アンラッキーに近づくと、シスターミナミは流麗な足捌きで、義手である左手側に回り込んだ。義足のアンラッキーはその動きについていけず、視線だけでミナミを追った。
「神のご加護がありますように……アーメ―――」
動かぬ義手側から心臓を一突きするように、スティレットを振るうミナミの祈りは途切れた。
迫り来るスティレットの切っ先に、ナイフの切っ先を当て滑らせるようにいなすと、ナイフをゆっくりとシスターミナミの額に突き立てた。
「安らかに眠ってください。アーメン」
そっとナイフを引き抜き、アンラッキーが胸の前で十字を切ると、シスターミナミは崩れ落ちた。
流麗な足捌きを見せたミナミの動きをもってしても、最境――技量の境地――と呼ばれたアンラッキーからすれば、淀んだ川の流れのような物でしかなかった。
最強、最境の二人が十大組織の幹部を歯牙にもかけずに屠ると同時に、最恐と呼ばれた男も戒杖刀を振るい、木瑞の命を奪った。
漆黒の鞘を投げ捨てると、両手で柄を強く握り締め、木瑞は竜胆組長に斬りかかった――が、突如ピタリと動きを止めた。
止まった理由。
それは仕込み刀で牽制されたのでも、間合いを計るために止まったのでもない。
ただ単に、恐怖を感じたからだ。
斬りかかる最中、木瑞は竜胆の目を見てしまった。獣のように爛々と輝く、死を連想させる瞳を。
裏の世界を腕っ節の強さのみで駆け上がってきた、水仙連合会の若頭である木瑞は十数年ぶりに死の恐怖を感じ、ピタリと動きを止めた。
冷や汗が全身から湧き出し、凍えるような寒気を感じると、途端、肩からわき腹に掛けて燃えるような熱を感じた。
竜胆は好々爺の表情を修羅のように変えると、逆手に握りこんだ戒杖刀を振るい、肩からわき腹にかけ切り裂いた。
血が吹きすさぶと、続いて重力に引きずられ内蔵が床に零れ落ちていき、木瑞は絨毯の上に倒れ落ちた。
「どうした? 化け物でも見たような顔をして?」
木瑞は返事をする事はなかった。勿論シスターミナミも、夜野も滝口もだ。死人言葉を発することはないのだから。
化け物たちの前に、十大組織の幹部四人は屍へと変えられた。




