二代目死屍柴ヒルイの戦い6
零の中の情報では、彼岸花の長ジョン・ドゥは十一年前に代表が替わってからは、ずっと同じ人物がジョン・ドゥの名を継いできたはずだった。
そう十一年前から。
けれど、二ノ宮の年齢は十七歳と聞いていた。十七歳が十一年前に彼岸花の先代を殺し代表になるなんて有り得ない事だった。
それならば、ジョン・ドゥを名乗るこのものは何者なのか?
自分の主の敵なのか、味方なのか?
もし敵ならば……命をとしても主を守らねばならない。その思いから、零はナイフを握る手に力を込めた。
「僕はジョン・ドゥであり、阿乱須美子であり、偽名でニノちゃんを名乗っていた可憐な少女だよー」ジョンはナイフを警戒する事無く、武器である鎌を下ろし、零に答えた。
「失礼ですが、二ノ宮は十七歳のはずです。そしてジョン・ドゥ様は十一年前から替わっていないはずです。まさか六歳で彼岸花の代表になったなどと言うことは有り得ませんよね?」
「それはないねー」
ジョンの答えに零は警戒心を強め、いつでもダガーを投げられるように、重心を前足に掛けた。
「けれど、僕は間違いなくジョン・ドゥだよー。零ちゃんは意外と頭が固いのかな? 疑うのは……ニノちゃんのほうの年齢じゃないのかなー?」
その言葉で零はハッとし、目を開き、ジョンの顔を凝視した。
「あなたは……何歳なんですか?」
「女の子に年齢を聞くもんじゃないよーって言いたいけど、特別ヒントを出そうかな」
ジョンはそう言うと、鎌をゆっくりと上げ、姫宮を指し示した。
不意のことに姫宮はビクッと体を震わせた。距離は離れているとは言え、ジョンに大鎌で指されると、死神に睨まれたかのように恐怖を感じた。
「なんでしょうか?」
「確かねー、僕は姫宮ちゃんと同い年のはずだよー」
嘘だろと思いながらの、零は姫宮とジョンに交互に視線を送る。姫宮は銀髪銀眼に引けを取らぬほど派手な赤いドレスを身に纏ってはいるが、二十代後半と言う年に見合った落ち着いた雰囲気をかもし出していた。
かたやジョン・ドゥは切り刻まれてはいるが落ち着いたタキシード姿だというのに、金髪と無邪気そうな笑みのせいで、未成年者にしか見えなかった。
「同い年って、ニノちゃん三十歳――」
「二十八よ!」
姫宮は落ち着いた雰囲気を崩し、耳を劈くような絶叫を発した。
「うー。怒られた」
「アハハ。二十八も三十歳も変わらないように思えるけど、せっかく姫宮ちゃんが答えてくれたから、僕も明かそうかな。そう、僕は二十八歳! ぴちぴちのアラサーだよー」
アラサーにぴちぴちを付けるのは可笑しいと思いつつも、零は言葉を発せずにジョンを凝視し続けた。
二十八といわれれば、幼い容姿をした二十八歳に見えないこともないが、脳裏に焼きついた制服姿のジョンの映像のせいで、なかなか信じることが出来なかった。
本当に二十八歳なのかと疑問に持つ。零の中の疑問は池に投げた小石が作り出す波紋のようにどんどんと現れてきた。
なぜ十七歳と偽ったんだろうか? 年齢制限として二十五歳が設けられてはいたので、歳を誤魔化したのか? それなら十歳以上誤魔化すことなどせずに、二十四か五歳と偽れば良いんじゃないのか? と。
凝視する目に疑問を浮かべ始めると、ジェイコブが口を開き、男か女かも分からぬ機械の声を発した。
「ジョンはアラサーでも制服が似合うよね! エロエロだったね! さすがは十七歳!」
「ふふふ、十七歳は最もエロエロな年だからねー。辞書の写生に蛍光ペンでマーカーしちゃう年だからねー」
『それは小六くらいだろうが!』と叫びたい気持ちを零はグッと堪えた。
「初代ヒルイちゃんが服装は制服にするって言ったから、こりゃ十七歳にするっきゃないってなったんだよねー」
何か十七歳を名乗る理由があるのではと考えていた、ジョンと付き合いの浅い零と虎弥に姫宮は唖然としたが、付き合いも長く、性格も良く知っていた佐藤は「ぶはっ」と堪えきれずに噴出し、土門は笑いを誤魔化すために、「ごほん」っと咳払いをした。
けれど、佐藤も土門も長として長くジョンと接しては来たが、彼女の心の奥底まで知ることは出来ずにいたのだろう。知っていたのはジェイコブだけだった。
今から十一年前であり、黒百合が赤きガーベラに攻め込む一年前の頃、ジョン・ドゥは先代を殺し名前を継いだのが十七歳の時だった。
そしてそれよりもほんの少しだけ前、ジョンが姫宮メアリー茜に出会ったのも同じ十七歳の時だった。
快楽殺人鬼の快楽とはなんなのか?
ジョンの口からは幾多の戦場を共に戦ってきた死屍柴ヒルイにも語られた事のない事であり、語られた唯一の存在ジェイコブは同じ快楽殺人鬼であるにもかかわらずに理解できぬ事であった。
唯一つだけジェイコブに理解できたのは、それが姫宮メアリー茜に出会い形付けられたものであるという事だけだった。
「僕の制服姿もエロエロで似合ってたけど、ヒルイちゃんの制服姿も……可愛い女子高生みたいで似合っているよねー」
視線を制服と言っていいかどうか迷うような、引き裂かれたぼろきれのように変わり果てた制服を身に纏う、幼い容姿の瑠衣に送る。
「ねえ、姫宮ちゃん、茜ちゃんの幼い頃もあんな感じだったのー?」
「……ッ! 姉さんの幼い頃に瑠衣はそっくりです……」
少し引っかかるように姫宮は答えた。
それに気づいたのか瑠衣は姫宮に疑問を持った目を送る。
「似てないの?」
「瑠衣……」
なんと答えれば良いのか姫宮は考え出す。その時間が延びるにつれ、瑠衣の目には不安が宿っていく。




