11 この世界で蠢く者たち
日本国東京都。霞が関ビル。
白洲が長廊下を歩いていると、面識のある人物が通路の向こう側に見えた。
白洲は立ち止まり、その人物に声を掛ける。
「間宮さんっ、こんなところで会うのは珍しい。風の噂でルイファラリス帝国行きが決まったと聞きましたが本当ですか?」
「公国同様、北は北で情勢が変化しいているようだからねぇ。自分自身の目で物事を確かめる。外交官の基本さ。そんなことより、白洲君はどうしてここに? 霞が関で会うなんて初めてじゃないかな?」
外務省嫌いの外務省職員がなぜ外務省にいるのか?
そんなニュアンスを含んだ“間宮”の問い掛けに、さすがの白洲も苦笑する。久しぶりに会ったが、彼の独特の雰囲気は少しも変わっていない。
「お察しの通りですよ。公国で色々ありましたからね。こうして省内で根回しをすることも多い」
「相変わらず好き勝手しているようで安心したよ」
間宮はケラケラと笑う。
対して白洲は大袈裟に肩を竦めた。
「今回の一件ですが、間宮さんはどう見ます?」
「どうとは?」
「歴史を紐解けば内乱などいくらでもある話ですが、今回はどうにも不可解な点が多い。間宮さんはどう捉えているのかと思いまして……」
白洲は率直な意見を求める。
対して間宮は「君の報告書には概ね目を通させてもらった」と前置きすると
「……君と似たり寄ったりの意見だなぁ」
と言い切った。
「カルマ・クレステルの反乱はあまりにも事がうまく運び過ぎている。クレステル侯爵家は有力貴族だったとは言え、一貴族に過ぎなかったのも事実さ。それが突然掌を返して大公家に宣戦布告、アルミナ正規軍を打ち破り、あともう一歩で公国の実権を手中に治めるに至った。カルマ・クレステルにはカリスマ性があったと言われているけれど、果たして本当に若者一人の力でここまでのことができたかどうか……」
「パルドウィッチ王国が侯爵家支援に動いていたことは内々の調査により判明しています」
「そのようだね。けど、もっと他に今回の計画を中心的に推し進めた人物がいるんじゃないかな? そう思ったまでさ」
「……裏で糸を引く人物ですか」
「カルマ・クレステルはその者の意を汲み動いただけの実動部隊に過ぎなかったのかもしれない。まぁ、彼本人にその自覚があったかはわからないけれど……」
間宮は目を細めて窓の外を眺めた。
近く赴任する帝国のことを考えているのかもしれない。
「この世界を取り巻く覇権思想はより一層の混迷を極めています。帝国もきな臭い。近く大規模な軍事行動の兆候があります。このタイミングでとなると――」
「はぁ……間違いなくアルミナ討伐だろうね。絶対王者として東大陸に君臨した公国が嘗てないほどに疲弊している。諸外国からすればこの機を逃す手はないだろう。物騒な話だねぇ」
「しかし、そんな物騒な国に大使館設立を強く要望したのは間宮さんだと聞いていますが?」
「少し思うところがあってね。現地に赴かなければ知り得ない情報もある。これはぼくの信念だ。君が公国でそうしたように、ぼくも好き勝手させてもらうよ」
間宮は屈託なく笑う。
外務省内ではユニークな人物との評だが、その能力に疑いはない。政府が帝国行きを任せたのが何よりの証拠だった。
「おやおや、これは珍しい組み合わせで?」
と、そこに珍しい人物が現れる。
通路の奥から欠伸をしながらやってきたのは、外務省のお調子者“伊草”である。通路で話し込む二人を見るや、物珍しそうに目をパチクリとさせる。
「そういう君も仕事をしているようには見えないねぇ」
「いや~やる気のない人間にとってこの世界はハード過ぎる。早速海外出張が決まっちゃいました」
伊草はやれやれと首を振る。
白洲はそんな彼に「おまえは仮にも外務省職員だろ」と呆れ顔を浮かべた。
「海外出張か。君みたいな出来る男をいったいどこに飛ばそうって言うんだい?」
「あー、すみません、上に他言無用と念を押されてまして……だけど、そうですねぇ」
伊草は少し言い淀んだ後、「西へ」とだけ発言した。
「先輩方にはこの言葉だけで十分でしょう」
そう言って、伊草はペコリと頭を下げてその場を去る。その背中を二人が見送る。
「前世界同様、この世界も血塗られた歴史を辿っています。その陰には得体のしれない“何か”があるのかもしれません」
「陰で蠢く者がなんであろうと、我々はいつもの仕事をするだけさ」
「北は寒い。体調にはくれぐれもご注意を。赴任先での無事と良い出会いに恵まれることを願っています」
「そうだね。折角の機会だ。一期一会を大事にするとしよう――」
間宮の力強い言葉に、白洲はこくりと頷いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
以上「東の公国編」でした!
そして次回から「北の帝国編(後)」の予定です。
更新日は未定ですが、あまり間を開けずに投稿したいと思います。
次回「帝国激震①」




