第14話 帝国が彼女を選ぶ日
帝国大広間。
高い天井に掲げられた紋章が、静かに光を受けている。
今日は臨時の上級貴族会議。
王国の混乱は、もはや隠しようがなかった。
交易は帝国主導に移り、
市場は完全にこちらの管理下にある。
ざわめく貴族たち。
その中央に、セラフィーナは立っている。
視線は集まるが、もう疑いはない。
評価。
確信。
そして——期待。
玉座に座るカイゼルが、ゆっくりと立ち上がる。
その動作だけで、広間は静まる。
「王国の情勢は不安定だ」
低く、よく通る声。
「我が帝国は干渉しない。だが、影響は受ける」
一拍。
「ゆえに、本日ここに宣言する」
空気が張り詰める。
カイゼルは階段を下りる。
まっすぐに、セラフィーナの前へ。
公の場で。
隠さず。
「セラフィーナ・アルディア」
名を呼ぶ。
響きは、かつてないほど明確。
「貴女を帝国の正式な財政統括官とする」
ざわめき。
それは顧問ではない。
統括。
国家の中枢。
「さらに」
銀の瞳が、柔らかくなる。
だが声は揺らがない。
「私の隣に立つ者として、未来を共にすることを望む」
空気が止まる。
貴族たちの息が揃う。
それは、求婚。
だが甘さはない。
宣誓のような言葉。
「貴女は選ばれる存在ではない」
一歩、近づく。
「私が選ぶ」
静かな断言。
「そして、帝国が選ぶ」
広間に視線を巡らせる。
誰も異を唱えない。
むしろ。
深く頷く者すらいる。
評価は、すでに積み上げられていた。
セラフィーナの胸が、強く打つ。
王国では、後ろに立っていた。
帝国では、隣に立つ。
それを、公然と告げられる。
「カイゼル」
名を呼ぶ。
迷いはない。
「わたくしは、理で動く女でございます」
小さな微笑み。
「それでよい」
「……ですが」
一歩、前へ。
「今は、理だけではございません」
静寂。
彼の瞳が、確かに揺れる。
「帝国と、そして——」
言葉が柔らぐ。
「あなたを、選びます」
ざわめきが広がる。
だが、それは祝福に近い。
カイゼルの手が差し出される。
今度は、迷いなく取る。
その瞬間。
帝国の紋章が背後で光を受ける。
選ばれたのではない。
選び合った。
王国では崩壊の兆しが広がり、
王子は失った重みを抱えたまま立ち尽くしている。
だが。
帝国では、新たな統治が始まる。
断罪は、終わった。
選択が、未来を決めた。




