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第58話:漆黒の竜騎士、ガザに降臨す

「アレイン! その姿、なに!? 凄すぎるよ!!」


仮面の奥で、 アレインは内心で必死に言い訳をこねくり回すが、脳内に直接響くヴェルナの声には、同情の欠片もなかった。


『あまりカイトに構ってる暇はないわよ? 』


その冷徹な指摘と同時に、視界の端に非情な赤い数字が浮かび上がり、無慈悲なカウントダウンを開始した。


【10:00】


「カイト、今は時間がねえ! 俺が暗黒騎士として冒険者たちに協力を仰ぐから、お前は……俺が呼びかけたら、すかさず『協力する』って言ってくれ!」


「ア、アレイン、ちょっとどういうこと……? 」


混乱するカイトに背を向け、アレインは足元のブルーナへと鋭く呼びかける。


「ブルーナ! 俺を乗っけてど派手に登場するぞ!」


任せるのじゃ、応じたブルーナが、次の瞬間、碧い燐光を撒き散らしながら巨大なドラゴンの姿へと戻った。

アレインはその広大な背へと、翻る漆黒のマントをなびかせて跳躍した。


「カイト! 俺の本名だけは、絶対に、絶対に口に出すなよ!!」


魂を削るような最後の念押しを残し、アレインを乗せたブルーナは、ガザの空へと力強く舞い上がった。


ガザの城門では、文字通りの絶望に包まれていた。

市民を避難所からさらに安全な場所へと誘導する作業が進められていたが、後方から迫る巨大な怪物、グランド・レックスの足音と地鳴りのような咆哮が響くたび、逃げる人々の背中に死の恐怖が張り付く。


「おい、見ろ……ドラゴンだ!」


誰かの叫び声に、人々が空を見上げた。


「怪物の上に、今度はドラゴンまで……ガザは呪われてるのか……」


人々が恐れおののき、広場に絶望の悲鳴が上がりかけたその瞬間、空を切り裂いて碧い燐光が降り注いだ。

巨大な翼が風を孕み、逃げ惑う群衆の頭上を覆う。


「いや待て、誰か乗っているぞ!」


「誰が操っているんだ? こっちに来るぞ!」


騒ぐ民衆と冒険者たちの真っ只中へ、ブルーナが豪風を伴って降り立った。

石畳が悲鳴を上げ、砂塵が舞い上がる。

ブルーナは首を高く掲げ、威厳に満ちた声と魔力を周囲に放射し、その場の空気を完全に支配した。


『――黙れ人間。我が主から命令がある。心して聞くがよい』


竜の言葉。その圧倒的な重圧に、人々は息をすることさえ忘れ、広場は水を打ったように静まり返った。

ドラゴンの背から悠然と降り立ったのは、全身を漆黒の鱗鎧で包んだ男。

アレインは喉の奥を震わせ、低くかつ威圧的な声で吼えた。


「我が騎竜が失礼した。……我が名は、竜騎士ヴェルナス。異変を感じ、この災厄を穿つべく助太刀に参った!」


圧倒的な魔力を放つドラゴンと、それを従える謎の暗黒騎士。

絶望に沈んでいた冒険者たちや市民から、「おーっ……!」と地鳴りのようなどよめきが沸き起こる。


「冒険者たちよ、聞け!」


竜騎士ヴェルナスを演じるアレインは、手にした巨大槍を石畳に力強く突き立て、断言した。


「グランド・レックスの弱点はブレスを放つ直前、防御の薄くなる口元だ。我の『ダーク・ジャベリン・ストーム』に騎竜のブレスを纏わせ、そこにバッシュ殿の『フルカウンター』を上乗せして一点突破を仕掛ける!」


勝利への渇望を刺激する鮮烈な作戦の提示。

人々がその言葉に釘付けになる中、アレインはさらに熱を込め、声を枯らさんばかりに言葉を重ねた。


「そのためには、奴の攻撃が強ければ強いほどいい! 遠距離魔法、スキルを持つ者は撃ちまくってヘイトを稼げ! 撃ったら即座に逃げて構わん。我に協力し、勝利を掴み取る勇者はいないのか!」


冒険者たちが困惑し、互いの顔を見合わせる。

死地へ踏み出す恐怖と、正体不明の騎士への不信。

誰もが最初の一歩を躊躇したその時、人混みを分けてカイトが勢いよく飛び出してきた。


「はい!! はい!! 僕が協力するよ、ヴェルナス!」


カイトの真っ直ぐな叫びを受け、アレインは冷徹な「ヴェルナス」としての演技を貫き、眼下の少年を見据えた。


「……協力感謝する、少年。だが、この勇気ある少年以外にも、戦える者はいないのか?」


この煽りが、冒険者たちの心に決定的な火をつけた。


「……本当に、撃つだけで逃げていいのか?」


「本当に勝てるのか!?」


「協力してくれれば、我が『勝利』をプレゼントしよう!」


その不敵な宣言が、沈んでいた彼らの心に爆発的な熱を灯した。


「……私、やるわ! あんな子供が勇気を出してるのに、逃げるなんて嫌よ!」


「俺もやるぞ! あんなガキが漢見せてるんだ、ここで逃げてられるか!!」


「俺もやる!」


「あたしもよ!」


一人、また一人と武器を構える者たちが現れ、広場は激しい闘志に包まれていく。


「皆の勇気に感謝する。――勇気ある少年よ」


「は、はい!!」


「我が合図を送る。それと同時に攻撃を開始してくれたまえ。――ではな!」


再びブルーナに飛び乗り、アレインは再び上空へと舞い上がった。

向かう先は、ガザを蹂躙せんとする巨大な災厄、グランド・レックスの元だ。


広場に残されたのは、遠距離スキルのない前衛職の冒険者たちだった。

彼らは置いて行かれた悔しさと、熱にあてられた高揚感の間で顔を見合わせる。


「……俺たちはどうするんだ? 遠距離なんて持ってねえぞ」


「あたしも前衛職よ……指をくわえて見てるしかないの?」


そこへ、一人の男が声を張り上げた。


「俺達には、全力ぶっ放してぶっ倒れた冒険者の『回収』って仕事があるだろ!」


その叫びに、広場の空気が完全に一変した。

自分たちにしかできない、勝利に欠かせない役割。

それを理解した瞬間、前衛たちの目に鋭い光が宿る。


「……! そうか、それくらいなら俺でもできるな!」


「おい、魔術師ども、思いっきり攻撃してこいよ!」


「俺の体は頼んだぜ?」


「セクハラしないでよね?」


「するかバカ、さっさと構えろ!」


絶望に支配されていたガザに、今、確かな反撃の熱が灯った。


一方、猛スピードで戦場へ向かうブルーナの背。

アレインは激しい風圧に晒されながらも、次なる一撃のために意識を研ぎ澄ませていた。


「アレイン、先ほどの奇天烈な話し方はなんだったのじゃ?」


不意に投げかけられたブルーナの問いに、アレインは仮面の中で顔を引き攣らせた。

あまりにも図星だったからだ。


「……ああすりゃ謎の暗黒騎士で、俺ってばれないかもしれねえだろ?」


必死の言い訳に、脳内のヴェルナが冷酷な追い打ちをかける。


『浅はかね……。残り時間数分という瀬戸際で、そんな虚勢に魔力を割くなんて。救いようがないわね・・・』


「うるせえ!! 急ぐぞ!!」


羞恥を振り切るように、アレインは巨大槍をより一層強く握りしめた。

眼下には、死を撒き散らす怪物の巨体が迫っている。

残された時間はあとわずか。しかし、ガザの灯火はまだ消えてはいなかった。

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