第57話:鉄の絆、そして漆黒の(黒歴史)顕現
降り注ぐグランド・レックスのマグマ・ブレスを、バッシュは盾を構えて真っ向から受け止めていた。
「……くらえッ!!」
バッシュは叫び、必殺の『フルカウンター』でその熱波を跳ね返そうとする。
だが、その刹那。彼の脳裏を最悪の想像がよぎった。
(もし、これを返しても奴が立っていたら? これ以上の威力のブレスが来たら……俺は……!)
無敵を誇ったはずの自負に生じた、わずかな亀裂。
その迷いは致命的だった。
発動したのは完全反射の『フルカウンター』ではなく、中途半端な『スキルカウンター』。
直撃こそ免れたものの、バッシュはブレスの奔流を制御しきれなかった。
跳ね返った熱波はあらぬ方向へと弾け、数キロ先の連峰を直撃した。
轟音。そして、地図に刻まれていたはずの山影が、文字通り消滅する。
その余波の爆風だけで、バッシュは膝をついた。
「はぁ、はぁ……どうすればいい……セレスティア様、俺は、どうすれば……」
祈る彼を無視し、巨獣は無慈悲に巨大な足を振り下ろした。
「バッシュッ!!」
直後、横合いからのタックルがバッシュを突き飛ばす。
ズシンと大地が震えた。
バッシュがいた場所は、今や巨大な足跡に変わっている。
だがグランド・レックスは彼らになど興味がないと言わんばかりに、そのままガザの街へと歩を進めていく。
「二人とも、大丈夫!?」
砂埃の中からエルザが現れ、タックルしたガザルが「ああ、危機一髪だったぜ」と息を吐く。
「バッシュも無事のようだね」
手を差し伸べるロルフを見て、バッシュは呆然と呟いた。
「お前ら……なんで……」
「仲間だからに決まってるでしょ、バカ!!」
エルザが涙を浮かべながら、バッシュの胸を叩く。
「おい、話は後だぜ」
「ほらバッシュ、魔力回復薬だ」
ロルフから渡された薬を煽り、バッシュは自嘲気味に笑った。
「……もう無理だ。俺のスキルじゃ、時間稼ぎしかできない」
「それでもいいじゃない」
とエルザが頷き、ガザルが笑う。
「ああ。それにアレインの野郎が何かやらかしそうな気もするしな」
「そうだね。あの男が黙って終わるようには思えないよ」
バッシュの脳裏に、あの夜の食堂で出会った、掴みどころのない男の顔が浮かぶ。
「つーわけでバッシュ、奴を押し返すぞ!」
「アレイン君が来るまで、耐えるわよ」
「ほら、立って」
仲間に手を貸され、バッシュは「ああ」と立ち上がる。
「『鉄の絆』の復活だぜッ!!」と叫ぶガザルにエルザが「うるさいわよ」と突っ込み、ロルフが笑う。
そんなやり取りに、バッシュの心は決して悪い気分ではなかった。
一方、ガザの街。
アレインは重い溜め息をついていた。
「はぁ……結局、アレに頼ることになるのか……」
(背に腹は代えられねえさ、もう一人の俺)
(……だよな)
その瞬間、鑑定スキルのウィンドウが勝手に開き、狂ったように文字を躍らせた。
『待ってました!!』
『変身ですね? 変身ですよね!?』
『気合を入れてどうぞ!!』
表示される【ブレイクバースト】の文字。
「……お前、絶対に楽しんでるだろ」
アレインの呆れ顔を余所に、漆黒の愛馬・ヴェルナがその毛並みを震わせ、一歩前に出る。
『今日は私に主役を譲ってもらうわよ?』
ヴェルナの言葉に、頭の上のブルーナが噛みついた。
「嫌じゃ! 妾も変身やりたいのじゃ!」
「ブルーナには別の用件を頼みたいから、今日は我慢してくれ」
アレインが宥めると、ブルーナはジロリと彼を見た。
「派手で目立つんじゃろうな? 地味なのは嫌じゃぞ?」
「ああ、ど派手に目立つ。期待してろよ」
「ならばよし!! 今回はお主に譲ってやろう」
ブルーナが頭から降りると、ヴェルナは「ふん」と鼻を鳴らしてアレインの背後に立つ。
ウィンドウは『変身はよ』と急かしてきた。
「わーったよ……」
アレインが操作しようとすると、周囲を光の粒子が包み込む。
「今日はこれ必要ねえと思うんだが?」
「精霊どもが、観客は少なくても推しを盛り上げるのが義務だと言っておるぞ?」
ブルーナの言葉に、アレインは「お節介ありがとよ……」と諦め、【供血】を選んだ。
血管に針が突き刺さるような最悪の感覚と共に血を抜かれる。
「クッソ、この感覚最悪だぜ」と悪態をつきながら、アレインは仮想の変身ベルトを構えるように低く身構えた。
「漆黒の女王よ……俺の闇を、最強の刃に変えろ。今、ここに――絶対の力が顕現する!!」
漆黒の粒子が渦を巻き、ヴェルナが激しく嘶く。
『Standing by……』
「変身!!」
『Break Burst!!』
光の粒子を飲み込み、再構築されたその姿。
全身を覆うのは、漆黒の鱗鎧。
兜にはユニコーンの角を模した一本角がそびえ、馬の顔を象った仮面の目元が赤く妖しく発光する。
肩からはヴェルナの尻尾を思わせる超長大なマントが翻り、手には山をも貫かんばかりの巨大槍『ヴェルナス・ランサー』が握られていた。
アレインは鑑定スキルが喜ぶ超かっこいいキメポーズを叩き込む。
目を細め、瞳に漆黒の光を宿す。
鎧の腕をクロスさせて腰に構え、鋭い眼光で前を見据える。
そのまま高く跳躍し、空中で体を捻りながら漆黒のマントを広げて急降下!
着地と同時に巨大槍を地面に突き立て、黒い炎を爆発させる! 最後には槍を引き抜き、悠然と肩に担いで、一本角を閃光させた。
「漆黒の女王の闇を纏いし者……ダーク・ドラグーン・ヴェルナス、顕現!!」
「この闇の槍が、すべてを貫き、砕き尽くす!!」
――沈黙。
街の中に、アレインの決め台詞だけが虚しく響いた。
(……戦う前に心が死んだわ)
絶望するアレイン。
だが、鑑定ウィンドウには『Excellent!! 100点満点!! 推せる!!』と文字が躍る。
しかし、その沈黙を破ったのは、ウィンドウの文字ではなかった。
「か……かっこいい……ッ!!」
「げっ!?」
誰もいないはずの物陰から、メモを失くして追いかけてきたカイトが、目を輝かせて飛び出してきた。
「観客ってカイトのことだったのかよ・・・」
「アレイン! その姿、なに!? 凄すぎるよ!!」
アレインの暗黒騎士の仮面の下で、顔がこれ以上ないほど赤く染まった




