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第18話:泥を啜り、牙を研げ。そして最悪の「新機能」

俺はメルキアの裏山に向かった。


ここは普段、薪拾いの村人すら寄り付かない、

切り立った岩場と深い緑に囲まれた場所だ。  


人目を避けてここに来たのには理由がある。


今の俺に必要なのは、数値化されたステータスではなく、

それを使いこなすための「泥臭い技術」だと確信したからだ。


俺は少し前までは、ただの一介の高校生だった。  


この世界に転生してからは、『絆の共鳴シンクロ・ブースト

のおかげでブルーナやヴェルナの膨大な力を借りることができた。


その圧倒的な出力に任せて、ただ力任せに剣を振るうだけでも、

これまではどうにかなってしまっていた。


だが、これからの戦いは違う。


奴が送り込んでくるのは、理不尽なチートを持つ「主人公」たちだ。


(相棒の今後のことを考えれば、きちんとした剣の振り方も覚えたほうがいい)


それは、意識の奥底で重なる相棒――元のアレインの言葉だった。


(俺がこの世界で生き抜いてきた泥臭い剣筋を教えてやるよ。

 いいか、もう一人の俺。剣ってのは、魔力の量で叩き切るもんじゃねえ。

 相手の骨を断ち、命を刈り取るための道具だ)


「……ああ、わかってるさ」


俺は腰の剣を抜き、目の前の巨岩に向き合った。  


まずは意識を集中し、魔力を練る。


腕の血管の一つひとつに魔力を流し込む感覚。


鑑定スキルを発動すれば、視界の端に俺の

『STR(筋力)』や『ATK(攻撃力)』といった数値が浮かび上がる。


だが、今の俺にはそんな数字はどうでもよかった。


そんな記号に何の意味がある?


数値が高ければ勝てるなら、この世界の誰も苦労はしない。


一撃。  


ガツン、と硬い感触が手に響く。


岩の表面がわずかに削れるだけだ。  


二撃、三撃。


俺は地球での知識を総動員した。


物理学的な力の入れ方、足の裏から腰、肩、

そして剣先へと繋がる重心の移動。

効率的な筋肉の連動。


そして何より、相棒が実戦で培ってきた


「死線を潜り抜けるための殺気」を自分のものにしようと足掻いた。


(もっと下だ。重心を落とせ。

 数字上の攻撃力なんて、

 当てなきゃゼロなんだよ。

 お前の振りは、まだ綺麗すぎるんだ)


「……くそっ、これか!」


数値上では決して現れない「練度」というやつを、無理やり体に叩き込む。


数時間も振り続ければ、掌の皮は剥け、腕は鉛のように重くなる。


「……はぁ、はぁ……。俺は、全然ダメだな……」  


地面に膝をつき、肩で息をする俺に、相棒が淡々と言った。


(まだ始めたばかりだ。

 一朝一夕にはうまく行かねえよ)


「そりゃそうだ……俺はもう、主人公じゃねえしな」


(……なんだ。お前、

 まだ主人公に未練でもあるのかよ)


「そんなもんはねえよ」  


俺は吐き捨てるように言い返し、震える手で再び剣を握った。


修行は後半、さらに過酷さを増した。  


【リミットブレイク(全能力借用)】の使用練習も兼ねて、


ブルーナとヴェルナにも全力で修行に付き合ってもらうことにしたのだ。  


このスキルの発動には、過酷な代償が伴う。


・秘液の提供:恥ずかしい分泌液を一発分


・供血:血液1000cc(※致死量一歩手前の献身)


・羞恥の誓約:ランダムに指定される「恥ずかしい行為」の完遂


俺が迷わず選んだのは「供血」だ。


「やるぞ。来い」  


腕に魔法の針が突き刺さるような感覚があり、一気に血を抜かれる。


視界がグラリと揺れ、周囲の景色がセピア色に染まるほどの貧血が襲う。


だが、それと引き換えに爆発的な力が全身を駆け巡った。


アドレナリンが限界まで分泌されているのか、


リミットブレイク中だけは死の恐怖も体の重さも気にならない。


目の前には、伝説の碧燐のドラゴンと、漆黒の女王と呼ばれた名馬。  


さらに俺の血を定期的に与え続けてきたことで、

二人の魔力密度は以前とは比較にならないほど高まっている。


「行くぞ、アレインよ!」


『本気で行くわよ。死なないでね!』


森の奥、静寂に包まれた広場で、仲魔二体を相手に立ち回る。  


その連携は、まさに絶望的だった。ブルーナが空を割り、

ヴェルナが大気を震わせる。


俺は死に物狂いで攻撃を耐え凌ぎ、反撃の一瞬を伺う。  


ドラゴンの姿をしたブルーナが、巨大な爪を振り下ろす。


それを紙一重でかわし、懐に踏み込んで剣を突き出そうとした瞬間――


ボンッ!


「なっ……!?」  


目の前の巨大な質量が、白い煙と共に一瞬で消えた。


代わりに現れたのは、少女の姿になったブルーナだ。  


あまりの落差に俺の間合いが狂う。


俺の剣が空を切った隙を見逃さず、

ブルーナの小さな拳が俺の腹部にめり込んだ。


「隙ありじゃ!」


悶絶して倒れ込む俺の背後から、今度は巨大な馬の姿をしたヴェルナが、

大地を砕く勢いで圧し掛かってくる。


「待て、死ぬ……!」  


必死に転がって躱そうとしたが、次の瞬間にはヴェルナもまた人化していた。


長い手足が俺の体を蛇のように締め上げ、一瞬で関節を決められる。


完全に地面に固定され、指一本動かせない。


「……まいった。俺の負けだ」  


俺が地面をタップすると、二人はようやく楽しそうに拘束を解いた。  


その戦いを見ていた森の魔物や動物たちが、

木々の隙間から心配そうにこちらを覗いている。


俺はよろよろと立ち上がり、


「ほら、大丈夫だぞ」と腕を振って見せた。


彼らはそれを見て、安心したように森の奥へ去っていった。


「お主の血のおかげで、人化してからの瞬発力がすこぶる調子良いのじゃ!」


『ええ。

 どんどん魔力が強くなっているのを感じるわ。

 どんな姿勢からでも力を引き出せるように

 なったわね』


「……そうだなぁ。でも、人化は卑怯だろ!

 剣の間合いが台無しだぞ!」


『あら。どんな時でも、

 どんな姿の敵でも対処できるようにするための

 「愛の鞭」よ』


「そうじゃそうじゃ。

 奴の手先に泡を吹かせるための 修行じゃろ?

 甘えておる暇はないぞ」


ぐうの音も出ない。


しかも、リミットブレイクが解けると失われた血液のツケがドッと押し寄せ、

膝から崩れ落ちそうになる。  


俺はそれからの数日間、血液量を少しでも増やすために、とにかく食いまくった。


肉に野菜、そして前世から大嫌いだったレバーも、毎日無理やり胃袋に詰め込んだ。


「こんなことで血が増えるとは思えねえが、やらねえよりはマシだ……!」  


鉄臭い味に涙を流しながらも、俺は食い、走り、

そしてまた血を抜いて戦い続けた。


そんなある日のことだ。  


ふと鑑定画面を開いた俺は、そこに「追加」された

見慣れない表示を見て凍りついた。


【ブレイクバースト追加】


代償:秘液提供 or 供血1000cc 効果:仲魔との「絆の共鳴」を最大化します。


【ヒーローの羞恥の誓約II】


発動条件:「カッコいい口上」と「カッコいい変身ポーズ」を完璧に決めながら、


『変身!!』 と絶叫することで、仲魔との「合体変身」が可能になります。


※変身後、さらにカッコいいキメポーズを決めると、

 リミットブレイク以上の力が発揮されます。


※変身時間は10分。延長は1分ごとに秘液or100ccの血液が必要です。


※キメポーズまでがワンセット。

 決まらなければ十分に力が発揮できません(笑)。


「……なんだ、こりゃあああああああ!!」


俺の絶叫が夕暮れの森に響き渡った。


「どうしたのじゃ?」


「また変な虫でもいたかしら?」  


ブルーナとヴェルナが不思議そうに画面(彼女たちには見えないが)

を覗き込んでくる。


俺が顔を青くして内容を説明すると、二人は目を輝かせた。


「合体変身……!」


「カッコいいキメポーズ……! 素敵じゃない!」


「笑い事じゃねえ! 現在の能力を弄ることは禁止じゃなかったのかよ!」  


俺は憤慨しながら画面を下にスクロールした。

すると、そこにはさらに「追伸」のような文言が隠されていた。


『やあ。この能力は元々、

 君が地道に能力を鍛えていけば将来的に

 発動するはずだった潜在能力だよ

 勝手に付け加えたわけじゃないから

 ルール違反じゃないよ。

 ただ、発動条件に少しだけ僕の

 「遊び心」を加えただけさ。

 君の最高にカッコいい、

 ヒーロー顔負けの変身を楽しみにしてるよ(笑)。

 by 君の愛する管理者より』


「あの野郎……!!

 いつまでも主人公を送り込んでこねえと思ったら、

 これのためだったのか!!」


俺をこの羞恥の罠にかけるために、あえて泳がせて修行をさせていたのだ。

俺が力を手に入れ、その力を使おうとするたびに、

俺の尊厳を削り取って笑うために。


「くそが!! 放置してやがったのは、

 この嫌がらせのパッチを当てるため

 だったのかよ!!」


俺の呪詛が、夜の帳が降り始めた

メルキアの山々に空しく、

そして激しくこだました。  


牙は確かに研がれた。だが、その牙を抜くには、

俺は「ヒーロー」として

叫ばなければならないらしい。

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