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第105話:骨キング捜索と、測定不能(エラー)の災厄

重厚な静寂に包まれた玉座の間。

隠蔽工作を無事に終え、(明日も早いし寝よう)とようやく一息つこうとした骸骨騎士ゼロスの耳に、守護者筆頭・セレンの緊迫した声が響いた。


「――ゼロス様! 報告いたします。何者かが、この未踏破領域たるアジトの最深部を目指し、侵入を開始した模様です」


「……なんだと?」


(えぇぇぇ〜!? ちょっと待ってよ!! お前ら、ここ『絶対不可侵の超高難易度ダンジョン』って言ってたじゃん!! なんで数日で踏破されてんの!?)


内心の絶叫を完璧なポーカーフェイス(骨だが)で隠し、ゼロスは低く響く声で問う。


「……いかがいたしましょう? 即座に我ら四幹部が赴き、骸すら残さず蹂躙いたしますか?」


「……いや。まずは様子を見る。羽虫とはいえ、その者たちの力量を見極める必要があるからな」


(いきなり『殺す』とか物騒な選択肢選ばないで! 怖いから!!)


ゼロスが空中に魔力でモニターを浮かび上がらせると、そこには重厚なダンジョンの雰囲気をぶち壊す、場違いなほど「軽い」空気感を纏った一行が映し出されていた。


『アレーイン! ここが最奥みたいだよ!』


『なんだよ! またハズレかよ!!』


気怠げな男が、盛大に悪態をつく。


『そんなことないよ! ほら、さっきの宝箱から出た、この先っぽが曲がった錆びたスプーンとか……』


『……おいおいカイト君よォ。君のそのスカスカな頭蓋骨の中には、脳みそって名前の精密機械は標準装備されてねェのか? もしもしー? お留守ですかー?』


アレインがカイトの頭をコンコンとノックする。


『痛い痛いってェェ! やめてよアレイン! 僕のデリケートな前頭葉が陥没しちゃうでしょォォ!!』


『たくよォ……俺達の目的は小銭稼ぎじゃなくて「骨キング」の野郎なんだよ。それを忘れんじゃねェよ』


『わかってるよォ! もう!』


玉座の上で、ゼロスはカクンと顎の骨を鳴らした。


(……骨キング。やっぱり僕のことだよな……)


モニターの中では、さらにカオスな光景が展開されていた。

アレインの頭に乗った小さなドラゴンが、鼻で笑う。


『カカッ! 小僧の勘はまたポンコツだったようじゃのォ! 妾の高尚な嗅覚に、骨の腐ったような臭いは一切届いとらんぞ!』


そこへ、空気が震えるほどの魔力と共に、一体のグラマーな美女――ヴェルナが「人化」して姿を現した。

艶やかな黒髪、滑らかな灰色の肌、漆黒の瞳。そして額には毅然とした一本角。彼女は自慢げに、その豊満な胸を揺らしてため息をついた。


『ふぅ……。ダンジョンって無駄に狭いから、わざわざ人化しなきゃいけないの、本当に不便だわ。……ねぇアレイン、私のこの姿歩きづらいのだけれど?』


『……おい! お主、今わざとデカい乳を揺らして妾の「機能美あふれるパーフェクト・ロリ体型」をディスりおったな!? 喧嘩売っとるのか!!』


『そんなつもりはないのだけれど? 貧乳の僻みかしら。可哀想に』


『その態度が気に入らんのじゃァァ!! お主のそれはもはや暴力じゃ! 物理法則への反逆じゃ!!』


いつもの低俗な口喧嘩を始めるブルーナとヴェルナ。

その光景を見て、ゼロスは震えた。


(喋るドラゴンに、魔族の美女? なんだあいつら……どう見てもヤバい奴らじゃん!)


ふと隣を見ると、セレンが顔を蒼白にして震えていた。


「……セレン、どうした?」


「……い、いえ。失礼いたしました。……さすがはゼロス様。あのような『理外の化け物』たちを目の当たりにしても、微塵も動じぬその覇気……。改めて、我が主の底知れなさに感服いたしました」


(えっ?)


「左様!! さすが我が主!!」


バルトスが目を輝かせて平伏する。


「あのような『歩く災厄』、ゼロス様の前では塵芥に等しいということですね!! このバルトス、主の深慮遠謀に只々平伏するのみ!!」


「……う、うむ」


(いや、ちょっと待って。そんなヤバいの!?)


「流石ゼロス様やわぁ。うち、惚れ直しそうやわぁ」


冷や汗(出ないが)をかきながら、ゼロスは不安を押し殺して尋ねる。


「……セレン。あの者たちをどう見る?」


「……はい。人間の二人も中々の強者の雰囲気を感じますが……驚愕すべきは、従えている二体です」


「ドラゴンの魔力偽装は完璧に近いですが、漏れ出る『原初の力』が空間を歪めています。……思わず冷や汗が出てしまいましたよ」


「あの角の女……。我々と同じ魔族……いえ、さらに上位の『魔人』に近い存在かと思われます」


「あんな化け物と仲良ぉしとるあの人間たち、ホンマ底が知れへんわぁ……。どうやってお友達になりはったんやろ?」


(えぇ〜……。人間よりあっちのほうがヤバいの……!?)


「ふむ……。ここからでは〈アナライズ〉も届かんな」


「魔力計測器なら、対象の残滓から測定可能ですが?」


「……頼む」


セレンが懐から取り出した魔力計測器の針が、狂ったように回転し、いつまでも止まらない。


「セレン、まだか!? 奴の魔力値はどうなっている!!」


「……8000以上よ……」


セレンは唇を強く噛み締め、震える声で絞り出した。


「……馬鹿なッ!? 測定限界を突破しているだとッ!?」


「恐ろしい……。この世界に、これほどの『暴力の化身』が存在していたとは……!!」


(8,000!? 何それ!? ゲーム時代でもそんな数値、イベントのレイドボスくらいしかなかったよ!!)


ゼロスが内心でパニックを起こしていると、モニターの中のアレインが頭を掻きむしった。


『あ〜……。またいつもの「乳合戦」が始まっちまった。これ始まると長いんだよ。……おい、骨もいねーし、不毛な口喧嘩を聞くのも疲れるから、さっさと帰るぞ!』


『あ、待ってよアレイン! 鑑定スキルさんに「この奥にエロい罠はありませんか」って聞いてからにしようよ!』


『ねーよ!! 行くぞ!!』


『あっ、待ってよォ!』


アレインを追いかけるカイト。

『おい小僧!! 妾を置いていくなァァ!!』と怒るブルーナとヴェルナ。

嵐のような一行が、バカみたいな会話を残して去っていく。


「……帰った……? 助かった……のか……?」


モニターが消え、玉座の間に静寂が戻る。


「……あの人間たちは危険です。即座に追撃し、始末しますか?」


殺意を滲ませるセレンに対し、ゼロスは威厳たっぷりに(内心は泣きそうになりながら)手を上げた。


「……よい。あの者たちの監視を強化せよ。そして、アジトの隠蔽も万全にせよ」


(いや、追撃なんてしなくていいから!! こっちがヤバいってわかってるでしょ!!)


「お望みのままに」


「アレインはんの監視、うちがやらしてもらいますわぁ。なんや、面白そうやし」


お巳代が艶然と微笑みながら立候補する。


「……うむ。頼むぞ」


「まかしといてぇ」


かくして、骸骨の王は、その日「引きこもり用セキュリティ」を最大出力で稼働させることを固く決意したのだった。

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