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第98話:涙の別れと、のじゃロリ竜の沈黙の真相

聖女候補強制連行未遂事件から一夜明け。

孤児院ではささやかな送別会が行われ、そして今日、いよいよセイラとミリーの旅立ちの時が来た。


「セイラ……!! 絶対、絶対会いに行くからね! 毎日手紙書くから! 伝書鳩が過労で倒れるくらい書くから!!」


孤児院の庭先。

カイトがセイラの小さな両手をギュッと握りしめ、悲壮な決意を叫んでいた。


「うん……! 私も、カイト君が来てくれるの、ずっと待ってる。……待ってるからね」


セイラが頬をポッと赤らめ、はにかむように微笑む。


背景にピンクのトーンと花の幻覚が見えるような、ベタ甘なラブコメ空間。

それを少し離れた場所から、アレインは完全に死んだ魚の目で眺めていた。


「……おい。……あいつら、自分らが今から『今生の別れ』でもする悲劇の主人公だと思ってんのか? ジジイの孤児院、ここから馬車で二、三日の距離だぞ」


「まぁまぁいいじゃん? こういう『初々しい初恋感』、温かく見守ってあげなよ、お兄さん」


ミナがニヤニヤしながらアレインの肩を小突く。


「そうですよ。見てください、カイト君のあの必死な顔。可愛らしいじゃないですか」


微笑ましく頷くエリナ。だが、アレインは彼女たちの姿を見て、さらに目を細めた。

見れば、ミナとエリナの足元には、バッチリと旅支度を整えた大きな荷物が置かれていたからだ。


「……おい。……なんでお前らまで荷物まとめてんだ? まだ休暇は残ってるだろ」


「え〜? セント・ガルドの孤児院に送るんでしょ? せっかくの機会だし、アレインとブレイブが育ったルーツを見学しに行こうと思ってさ!」


「アレインたちの子供の頃の話、まだ詳しく聞いてませんしね。徹底的にリサーチさせてもらいます」


「……おい。野次馬根性が服着て歩いてんのかよ。ジジイの孤児院なんて、ただの街中にある普通の施設だぞ? メダカの学校の方がまだ刺激があるわ」


ウンザリした顔で吐き捨てるアレインに、エリナは優雅に微笑んだ。


「それでもいいんですよ。貴方の『ルーツ』に触れることに意味があるんです」


「……はぁ。……勝手にしろよ」


そこへ、筋肉の膨張で弾け飛んだ神父服を新調したドルヴァンが、馬車を引いて現れた。


「ガッハッハ!! 準備はできたかのう!? 筋肉の……いや、修行の旅への出発じゃ!!」


「ハイ、先生!!」


「できたよー!!」


元気よく返事をして馬車に乗り込むセイラ姉妹と、ちゃっかり同乗するエリナ、ミナ。


「……ジジイ。……セイラのこと、頼んだぜ。……あんまり無茶させんじゃねーぞ」


「おう! 任せとけ!! 儂の修行で、三年後には教皇の首を片手でへし折れる最強の聖女にしてやるわい!!」


「だからそれ、セイラが『セイラさん(物理)』になっちゃうってことだろぉぉぉ!! 誰もそんな成長望んでないんだよ!!」


馬車の外からカイトが悲鳴のようなツッコミを入れる。


「エリナ、ミナ。……まぁ、気が向いたらまた来いよ」


「はい、必ず。次はブレイブも連れてきますね」


「あはは、ブレイブにも『アレインが寂しがってた』って特盛にして伝えておくよ!」


「……盛るなよ。……あとセイラ。……まぁ、なんだ。修行は、ほどほどにな?」


アレインが頭を掻きながら不器用に声をかけると、セイラはコテッと首を傾げた。


「お兄様? ……よくわかりませんが、私、頑張ります!!」


一片の曇りもない、キラキラとした笑顔。


「頑張らないでぇぇ!! 限界までサボって!! せめて、せめて細マッチョ止まりでいてぇぇ!!」


カイトの悲痛な叫びを置き去りにして、ドルヴァンが手綱を握った。


「では、行くかのぉ!! 出発じゃい!!」


ガタゴトと、馬車がゆっくりと走り出す。


「アレ兄!! カイト兄!! バイバーイ!!」


窓から身を乗り出して大きく手を振るミリーと、笑顔のセイラたち。

アレインは遠ざかる馬車を静かに見送って、ポツリとこぼした。


「……ったく。……嵐が去ったのか、それとも嵐を別の場所に送り出しただけなのか、わかったもんじゃねーな」


「……寂しくなっちゃったね。あんなに賑やかだったのに、急に空気が薄くなったみたいだよ」


「そうかぁ? やっとあの騒がしい奴らがいなくなって、俺は清々したぜ」


「またまた。……そうやってすぐ強がるんだから。アレインのその態度は、もはや『ツンデレ』の教科書に載るレベルだよ?」


「強がってねーわ!!」


アレインがカイトに吠えた、その時だった。

アレインの頭の上で、この数日間ずっと置物のように沈黙していたブルーナが、面倒くさそうに口を開いた。


「……ふむ。やっと行ったのじゃ。……まったく、騒がしい奴らだったのじゃ」


「あれ!? ブルーナ、喋るの久しぶりじゃない!? 生存確認が必要なレベルで黙ってたよね!?」


カイトが目を丸くする。

すると、アレインの傍らのヴェルナが、面白そうに鼻を鳴らした。


『……無理もないわ。このトカゲ、あの筋肉ダルマと「話し方」が被るからって、意地張って黙ってたんですもの。フフフ』


漆黒の毛並みを風に揺らしながら、ヴェルナが念話で容赦のないツッコミを入れる。


「はぁ!? お前、そんなメタい理由で黙ってたのかよ!! キャラ被りを気にするほどのプロ意識があったのかよ!!」


アレインが驚愕して頭上を仰ぎ見る。


「うるさいのじゃ!! 妾よりキャラの濃いジジイが隣でデカい声で吠えてたら、妾の『のじゃロリ』属性が完全に霞むじゃろうが!! 一緒に喋って『あ、語尾が同じですね』とかツッコまれるの、妾のプライドとして死んでも嫌だったのじゃ!!」


「めちゃくちゃ気にしてんじゃねーか!! 誰もお前のことなんてあの筋肉ジジイと同一視しねーよ!!」


『おかしいでしょう? 誇り高き竜が、筋肉の老人にキャラ負けを認めるなんて。……久しぶりに笑わせてもらったわ。フフフ』


「笑うな! ヴェルナ!! 妾にはまだ、人化すれば『のじゃロリ』という唯一無二のアイデンティティが残っておるのじゃ!! 筋肉には負けん!!」


頭の上でキャンキャンと吠えるブルーナに、カイトが堪えきれずに吹き出した。


「……あはは。……やっぱり、全然静かになりそうにないね」


「小僧!! 笑うなと言っておるのじゃ!! 焼き尽くすぞ!!」


「……はぁ。……あいつらがいなくなっても、騒がしいのは変わらねーな……」


やれやれと首を振りながらも、アレインの口元は微かに緩んでいた。


『……いいじゃねーか。寂しくなくてよ。……退屈な休暇よりは、マシだろ?』


内なる己の声に、アレインは少しだけ口角を上げ、高く澄み渡った空を見上げた。


「……そうだな。……せいぜい、次の嵐が来るまで楽しませてもらうわ」


騒がしく喧嘩を続ける二匹の仲魔と、それを慌ててなだめるカイト。

彼らの日常は、いつだって騒がしく、そして決して退屈することはないのだった。

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