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第51話 その頃のレンくん 指導講習?


 ギルドに行けば会えないかなぁ……

 なんて思ってたんだけど、本当に合えちゃった。

 依頼が張り出されている掲示板、その前にやたらニヤニヤしながら依頼票を見つめているユリィが居る。


「ほら、会えた」


「はぁ……明らかに偶然じゃないの。得意げにしてんじゃないわよ」


「あはは、まぁそうだけど」


 それにしても何してるんだろ、ユリィは?

 運がいいのは良かったんだけど……ふむ、正直なんだか怪しい人に見えるよね。

 近寄って声を掛ける

 すると待っていたと言わんばかりにユリィが嬉しそうにこっちを振り向いた。


「あっ、レンくんとらんちゃん!おはよぅ~!依頼?依頼だよね!依頼!」


「おはよう、ユリィ。うん、まぁ、依頼なんだけど……」


「だよねだよね!薬草採取?薬草採取だよね!」


 凄い気負いにちょっと腰が引き気味になってしまう。

 確かにそうなんだけど、ね。

 なんでこんなに必死かな?

 そこまでして言わなくてもいいと思うんだけど。


「……ま、そんなとこよ。こっちもあんたを探してたのよ、ねぇ?レン」


「うん、そう。行こうって誘われもしたもんね」


「やっぱり!よしよ~し!じゃあ、行こう行こう!薬草採取!あたしが、バッチリと教えてあげるから!」


「……何だか、凄い元気だね」


「ええ~、そんなことないよぅ~」


 そうかな?

 そんなことないと思うんだけど……

 やたらと嬉しそうなユリィが依頼票を片手に手をブンブンと握ってくる。

 ランはそれを興味なさげに見て、あっそ、なんて言ってた。

 物凄い他人事目線だ。

 面倒くさいからって応対を僕に任せる気なのがバレバレだ……

 ランも友達なんだから、そういうのはよくないよ?

 ユリィに手を握られたままランの方へじりじりと近づいていく。

 それでユリィがランの方も補足したのを認めて、ランが露骨に眉を潜めた。


「ふふ~ん!ランちゃんも!三人でがんばろ~ね!」


「うっさいわね、手ぇ握ってくんじゃないわよ」


「あんっ、もう!恥ずかしがり屋さんなんだから」


 掴んでくるユリィの手をサッと避けて、ランがフンと顔を背ける。

 酷い態度だねぇ……

 客観的に見るとそう見えるし、周りの人にもそう見えてるだろうことは分かってるけど……僕にはランがユリィに割と気を許してるのは見て分かった。

 だって、本当に興味ない人だったらまるきり喋らないもんね。

 手を握られないように一歩距離を開ける。

 それからランは呆れ気味にユリィの手に持つ依頼票を見て言った。


「……で?あんた、何をニヤニヤしてたのよ?その依頼、なんかあるわけ?」


「ふっふっふ~ん、よくぞ聞いてくれました~っ!さぁ、これを見るのですっ!」


「……それが何なのよ?」


「ええっと、普通の薬草採取だね……」


 何がそんなに嬉しいのか見当が付かない。

 僕たちには普通の採取以外の何ものにも見えないんだけど。

 ユリィが嬉しそうににんまりと笑う。

 それから、その依頼票の採取場所の部分を指差した。


「これっ!ここ見て!この場所はねぇ……くくく、あたしがいつもやってる薬草採取の場所なんだよっ!」


「あぁ、そうなんだ。そういえばユリィってけっこう薬草採取やってるって言ってたもんね」


「そう……いつもやってる場所ね。で?だから何なのよ?」


「ふふ~ん、つ・ま・り」


「……もったいぶってないで早く言いなさいよ」


 ランの急かす声にもめげずにユリィが軽く笑う。

 鼻で笑うように、自身の存在を誇示するかのように、溜めて……それからカッと目を見開いて言った。


「ここにおいてあたしに勝てる者が居ないということだよっ!あたしがここを一番よく知ってるんだからっ!今日はあたしがレンくんとランちゃんの先生だぁっ! 跪いて教えを請うが良いよっ!」


「あ、そうなんだ。へぇ……ユリィってここでいっぱい採取したんだね」


「ふぅ、やっぱりもったいぶる価値のないどうでもいいことだったわね……先生、ねぇ。悪いけどわたしとレンの先生は一人だけだし、教えも請わないわ。勝手にやってちょうだい」


「ひどいよぉっ!」


 ユリィの声がギルド内に木霊した。

 随分な大声出したね……そういうの周りの人に迷惑だからどうかなって思うんだけど。

 チラとランの方を見る。

 するとランは仕方ないものを見るような目で溜息を吐いていて……まぁ、僕と変わらない感情を抱いているだろうことが良く分かる。

 だって、しょうがないもんね。

 そんなこと言われても……先生は先生だけだから、さ。

 ユリィには悪いんだけど、そこまで卑屈にはなれないよ。

 跪いて教えを請うって……ユリィも相変わらずだなぁ。

 物言いが物騒で大袈裟なんだよね。

 確かに採取場所に詳しいっていうのは心強いし、色々と聞こうかなって思えるようなことではあるんだけど……

 そもそも先生のところで基本的なことは習ってるからね。

 そんなに聞くこともないっていうか。


「とにかくっ!今日はあたしが手取り足取り教えてあげるからねっ!ぷくくくっ、二人ともあたしに感謝してしっかりと敬うんだよぉ?」


「あぁ、はいはい、それに値することが出来たら素直に褒めてあげるわ。精々頑張りなさい。さすが~、すご~いってそれくらいは適当に言ってあげるわよ」


「……あの、流石にあたしも傷つくことはあるんだよ?もうちょっと手加減をお願いしても、ねぇ?」


「ん?そうかしら? 何だかんだで雑に扱われても喜んでるように見えるし、これで構わないと思うけど」


「うぅ……ランちゃん?あたし、嘘泣きするよ?周りが引くくらいの大声で泣き叫ぶよ?いいの?」


「迷惑だから止めなさいよ」


 うん、やっぱりというか、なんというか……

 こうして見ると仲がいいように見えるよね、やっぱり。

 友達、っていうにはまぁ、流石に応対が酷すぎるような気がしなくもないけど。


「ラン……流石にちょっと可哀そうだよ?やめてあげたら?」


「…………ま、そうね。流石にちょっと良心が咎めてきたわ。悪いわね。あんたが鬱陶しくて苛立ってたのよ……馬鹿にする気はなかったの。許してちょうだい」


「あの……ランちゃん?あんまり謝られていない気がするのはきのせいかなぁ?」


「気のせいよ」


 さっと目を逸らしてた。

 酷い……酷いんだけど。

 これって気心が知れてるからやってる感じがするね。

 じゃれあいっていうか、冗談っていうか……悪ふざけをしてるような、そんな感じ。

 なんだかんだ口数が多いからね。

 きっとユリィのことを心の底では友達と認めてるんだろうね。

 本当に何とも思ってない人には、こんなこと言わないもの。ランは。


 ふぅん、そう


 あっそ



 とか、ね。

 そんな感じ。

 会話を続けようとしないんだよね。

 二人とも、仲いいなぁ。

 女の子同士だからかな?

 正直、僕の方がちょっと疎外感だった。

 僕が友達になろうって行ったはずなのに。


「じゃ、それでいいからさっさと受けましょ。ほら、ラフィ姉様のとこに行くわよ」


「ええ?ラフィリエルのところぉ?あたし別の人がいいなぁ~」


「……呼び捨てにしてんじゃないわよ、怒るわよ」


「ええっ!?何であたしの時より真剣な対応なわけぇっ!?」


「当たり前でしょ、人望の差よ」


「あはは……」


 入っていけないや。

 二人と一人、そんな感じだね。

 僕も仲間に入れて欲しいんだけど……

 前を行く二人、それに付いて受付の方へ。

 ますます付属物になった気分だった。

 僕って別に付き添いで来たわけじゃないんだけど……

 ちょっと苦笑いをしながら受付の方を見る。

 するとそこには、見覚えのあるラフィさんの姿は見当たらなくって……


「あれ? 今日はラフィさん居ないね……休みかな?」


「ん、そうね……わたしとしてはラフィ姉様に受け付けて欲しかったけれど」


「いいよっ!誰でも一緒だよっ!ラフィリエルのことなんか気にしないでさっさと受付を済ませちゃおうよっ! これ、お願~い」


 ユリィが甘ったるい声と共に受付の人に依頼票を渡す。

 受付さんはそれに軽くベルを一つ鳴らした。

 と同時に裏からラフィさんがやってくる。

 その姿は、いつも見るギルドの制服じゃなかった。


「あら、早かったわね?よく来たわね、あなたたち」


「うぇぇ、ラフィリエルぅ……何で?」


「こらこら、さんを付けなさいよ。いつも言ってるでしょ?」


「あの、ラフィ姉様?その恰好は?」


「ああ、これね?今日は私も付いて行くわ。三人とも私がみっちり教えてあげる」


「……え?」

 

 ラフィさんの格好は明らかに戦闘を意識したものだった。

 頑丈そうなブーツ、足に巻いたベルトに幾つもの薬が装着されている。着ているローブは純白ですごく綺麗なんだけど、ただ綺麗ってだけじゃなくて……洗練されている。

 いくつもの素材を厳選して作った最上級の装備だってことが見るだけで分かる。

 実用的な美しさがあった。

 利便性の追求が見られた。

 その意匠は……先生に貰ったランのローブに色合いも形もよく似ていて。

 その姿は、敷いて言うなれば


「ランの上位互換?」

 

「……ラフィ姉様に勝てるとは思わないけど。人を下位互換みたいに言うんじゃないわよ。失礼よ、わたしにもラフィ姉様にも」


「あ、はは、えと、ごめん」


 しまった、思わず。

 口が滑った僕を見てラフィさんも苦笑いをしている。

 そんな中で唯一剣呑な雰囲気を放っているのはユリィだった。

 ラフィさんのことをまるで敵であるかのように睨みつけて

 

「どういうつもりよっ!・今日はあたしの独壇場になるんだよっ?ラフィリエルの出る幕なんてこれっぽっちもないんだよっ!帰ってよっ」


「ええと、実はこの制度ね。指導講習の一環なんだけど……駆け出し冒険者にはギルド職員が一人付いて行って教える慣例があってね。まぁ、希望制なうえに殆ど形骸化した制度なんだけれどね?」


「へぇ、そうなんだぁ……指導講習。どうかな?ラン?」


「わたしはいいと思うわよ?ラフィ姉様に教えてもらえる機会なんて滅多にないもの」


「あら、そう? でも、形骸化してるだけあってよくないことが一つだけあってね?実はこれを頼むと報酬金は無しになってしまうのよ? 教えてもらえることが報酬の扱いになってしまってね」


「あたしを無視して話を続けないでよぉっ!」


 仲間外れにされてたユリィが悲痛な叫びを上げてた。

 でも、うん……張り切ってたユリィには申し訳ないことなんだけど、ね。

 僕もランももう心は決まってた。

 だって、特に対価も支払わずにラフィさんに教えて貰えるんだよ?

 何年も前に先生のところを卒業して、経験も積んだ最高の熟練者に。

 こんなの、答えなんて一つしかないよね?

 ランと顔を見合わせる。

 気持ちは聞かなくても分かってた。

 互いに頷き合って、ラフィさんに向き直る。


「「お願いしますっ!」」


「そう、じゃあ今日は私が一日付いて行ってみっちりと教えてあげるから。何でも聞いてね?」


「うぅ、そんなぁ、酷いよぅ……あたしの計画が……アタシの独壇場がぁ」

 

 ユリィがボソボソと嘆いていたけど。

 こればっかりはしょうがない。

 だって、ラフィさんに教えてもらえる方が遥かに良いもんね?

 返事なんて一つしかなかった。


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