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第5話 疾駆

 山道を駆け抜けていく。

 先程の、明らかに山賊である男‐タルムさんが示した方向は非常に曖昧なものでした。

 大雑把に位置を示しただけ。

 なので、洞窟探しはそれなりに苦労するのではと思っていたのですが……それは杞憂でした。


 グギャ?グギャギャギャギャギャギャギャ!


「増えてきた、こっちだっ」


「そうね、分かりやすくていいわっ!」


 ゴブリンが溢れている。

 それも一方向に向かって分かりやすく。

 これなら迷う心配はないものですが……ふむ、スタンピードにしては数が少ないですね。

 さて、どういったことなのでしょうか?

 レンくんとランちゃんがゴブリンの群れへと突っ込んでいき、その中を突っ切っていく。

 ううん、確かに……最初に戦うのはゴブリンかスライムがよいと思ってはいましたが、ね。


 グギャアアアアアッ!


「邪魔よっ」


「通してくれっ!」


 風の防壁で弾かれるゴブリン。

 それはランちゃんによるもの。

 稀に弾かれずに進んでくる個体も居るには居るのですが……それらはレンくんの剣により斬り伏せられていく。

 二人が駆け抜けるスピードが緩まることはありませんでした。

 まるで無人の野を行くがごとく。

 ただ……ふむ、流石に数が多いですね。

 これくらいなら二人で対処できるはずなので私は手出しはしませんが。

 前に進めば進むほどに、加速度的に視界に映るゴブリンが増えていく。

 圧倒的な物量。

 数えきれないほどの群れ。


 うぅむ、これほどの数を相手に初戦を飾らせるつもりはなかったのですけど、ね。


 ままならないものです。

 そのことにそっと息を吐きながら二人の後ろを付いて行く。

 もっと旅立ちに相応しい初戦を経験して欲しかったものです。

 旅立ってすぐからきつい状況を経験しすぎではないでしょうかね?

 まぁ、二人が選んだ道なのですから、私としては何も言いませんけれど。

 頑張りなさい、レンくん、ランちゃん。

 心の中でエールを送り、この経験が実りあるものになることを願う。

 二人の対応は安定したものでした。

 その圧倒的な数に押されることもなく、風の防壁で弾き、中に入ってきたものをレンくんが処理するのを基本戦術にと、時には吹き飛ばし、時にはランちゃんが魔法を繰り出してゴブリンを蹴散らしていく。

 そして洞窟前……そこにはこれまでとは比較にならないほどの数のゴブリンが居ました。


「レンっ」


「分かってるっ!でかいのぶちかますんだろっ?」


 グギャグギャグギャっ!


 うん、基本をしっかりと覚えていますね。

 ゴブリンの弱点を突いた対処を用いています。

 ゴブリンの致命的な弱点、それは知能が低いということ。

 レンくんがしたことは単純明快でした。

 荷物から、食べ物をまき散らす。

 それだけで、ゴブリンたちの視線が一気にそこへと向かった。

 基本的にゴブリンというものは餌を求めて外へ出ていくものですからね。

 外で狩りをするゴブリンは基本的に飢えていると言っても問題ない。

 空腹、そして知能の低いゴブリンは本能の赴くままにばら撒かれて地に落ちた食料へと殺到していく。

 ゴブリンの性質を利用した見事な作戦です。

 そして、レンくんがその状況を確認して大きく後方へと飛び退いた。

 飛び退いた先は魔力を収束させるランちゃんの後方。


「いいよっ、ラン!」


「んっ、い、く、わ、よぉっ!」


 かざす左手から風が巻き起こる。

 渦巻く風は、真っすぐに食料を貪るゴブリンたちへと向けられ……魔力の高まりと同時に放たれる。

 

「細切れて、消え去りなさいっ!」


 風の刃が、ゴブリンたちを取り囲むように吹きすさび、空間にゴブリンの血の色が充満した。

 耳を塞ぎたくなるような、肉の切り刻む音。

 血が混じり、色を付けていく風の檻。

 竜巻のように渦巻くそれは、ゴブリンを後かとも残らないほどに分解し、肉片も血液も匂いでさえも全て巻き込んだまま吹き飛ばしていく。

 断末魔の声を上げる暇もないほどにあっさりと、ゴブリンはその場から姿を消した。


「っ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……流石に、この数は堪えるわね」


「大丈夫?ラン。魔力は?」


「結構使ったわ。それも大きなの撃ったから疲れてる……でも、大丈夫よ。戦えないほどじゃないもの。さっさと行って、あの人連れ帰ってくるわよ」


「……ん、そうだね」


 一瞬、心配そうな表情を浮かべたのちにレンくんが覚悟を決めたように顔を上げました。

 ランちゃんが言うんだから信じよう、とそんなことを思ったのでしょうね。

 この先は何があるか分かりません。

 それも入ったこともない洞窟が舞台なのですから、回復を優先すべきだとは私も思うのですけど、ね。

 薄暗く視界が悪い、それでいて狭く、先の道もまるで分からない危険の要素が詰め込まれた完全な道の場所なのですから。

 どんなことがあっても対処が出来るように万全の体勢を作っていくのが一番というもの。

 でもまぁ、この場合は仕方ありませんかね。

 二人は今、タルムさんを助けることを目的としている。

 少しでも遅れれば間に合わないかもしれない、そのような可能性を考えればこのような行動に走るのも無理はないことでしょう。

 それが対象の生死を別つ場面もなくはないですから。


「これが、洞窟かぁ……ここに、タルムさんが?」


「多分、ね。だって、ここ以外に指差した方向は無いはずだもの……人が入ったかどうかは、さっき風で色々と吹き飛ばしちゃったから分からないわね……ま、不可抗力だけれど」


「……探してる時間が惜しいもんね。とりあえず行ってみよう」


「そうね。違ったら引き返せばいいもの」


 そう、軽く頷き合って洞窟の中へと入っていくレンくんとランちゃん。

 その後ろに付いて、当然私もその中へ。

 ふむ、洞窟というだけあってやはり視界は悪いですね。

 薄暗く、狭い。

 しかし、


「急ごう、ラン」


「ええ、じめじめしてて気持ち悪いし。さっさと行きましょ」


 その足取りは軽く、特に問題もなく洞窟を駆け抜けていく。

 この洞窟は……人の手が入っていますね。

 それも、遺跡とかそういった類のものではありません。

 最近、手を加えられたものです。

 何人も出入りしたのでしょう、地面に凹凸が少なく走っていて引っかかる感触がない。

 壁も一部、削られた跡がある。


 グギャギャギャギャギャッ!


「邪魔ぁっ」


「てやっ!」


 襲い来るゴブリンをランちゃんが殴りつけ、レンくんが斬りつけ……地面に伏したゴブリンを見もせずに走り抜けていく。

 ゴブリンは、実際にいるみたいですけど、ね。

 この場所は、ゴブリンの巣穴ではありませんね


 さて、タルムさんに会えば何か分かるはずですが。


 この状況……タルムさんの思惑なのでしょうか?

 ただ魔物を退治するだけに終わらない、面倒な状況の予感がひしひしとする。

 二人の初戦の経験がこれですか……

 正直なところ引き返して欲しいと言いたくもなるような、とんでもない状況でした。

 二人とも傷つかないといいのですけど……


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