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第3話 見守り(物理)

 さて、朝になりました。

 どうやら二人も動き出したようです。

 陽の光に照らされて目を擦りながら起きる姿の何と愛らしいことか……

 ふふ、こういう喜びがあるからこそ付いて行くのを止められないのですよね。

 この幸せな光景を守ることが出来て良かった……

 寝ずの番をした甲斐があったというものです。

 二人はまだ、寝ぼけまなこのようですが……こういうところで寝るのは初めてですからね。

 よく眠ることが出来てればよいのですが……


「ん、はふぅ……うぅん、ちょっと疲れが残ってるかなぁ……ランは? 疲れ、取れた?」


「うぅん、わたし、も……ぅぅ、……ねむ……旅立ってまだ一日目だけど先生の家が恋しい……」


「あ、はは……僕も同感、だけど……それは、いいっこなしだよ」


「そうね……ま、分かっているけれど、ね」


 中々辛そうですね。

 私の家に帰りたい、ですか。

 私としてはちょっと嬉しいのですけど、ね。

 不安になる立ち上がりですね。

 これから大丈夫でしょうか?

 この先も旅をしていくのですよ?

 まぁ、あんまり近づくわけにもいかないのでここで見ているわけしかないわけですが……私も堂々と二人に旅に付いて行きたいものですね。

 二人が寂しさを感じないように快適な旅を提供してあげられるのですが……うぅ、これは流石に干渉のしすぎ、ですからね。

 時折、無性にもどかしくなる。

 これが二人にくっ付いていくことの負の要素でもありますね。

 二人が辛そうにしていても私は出ていくわけにはいかないのです。

 二人とも、頑張って!


「ええっと……ねぇ?村に行くのってこっちであってたっけ?」


「ん~、どうだったかしら?よく覚えてないけど……そう、ね。多分合ってるんじゃない?先生が連れて行ってくれる時もこんな感じだったわよ。ええ、多分あってるんじゃない?」


「多分って……本当に合ってるの?」


「知らないわよ。あんたが聞いてきたんじゃないの。先生が連れていってくれた時も道とか興味なかったもの。そんな鮮明に覚えてなんてないっての」


「……はぁ、これだもんなぁ」


「なによ、分からなくて聞いてきたあんたが言う台詞?」


 あらら、どうやら方向があっているのか不安な様子ですね。

 確かに、おおまかにはこっちの方向で合っているので二人とも間違いではないのですが……

 レンくんが地図を引っ張り出してにらめっこ。

 それを後ろから覗き込んで、ランちゃんは一瞬で見るのを止める。

 面倒くさいから放棄したみたいですね。


「どう? 何か分かった?」


「さっぱり。先生の家は書いてあるからなんとなく分かるんだけど……僕たちって今何処に居るんだろうね?」


「ま、そうよね。わたしに分からないものがレンに分かるわけないものね。わたしたち、そんなに知識量に差はないもの」


「……そりゃ、そうだけど」


 まぁ、二人とも私が教えたこと以外は知らないわけですからね。

 片方に分からなければ、もう片方にも分からないのは道理といえますでしょうかね?

 まぁ、趣味とか性格とかそこら辺の際による知っていることの差は多少はあるわけですが。

 例えば、ランちゃんは魔法が得意。

 魔法であれば経験談を含めてレンくんでは分からないことも知っていることでしょうね。

 その逆にレンくんは剣が得意。

 こと剣を用いた戦闘ではランちゃんの及ぶところではないでしょう。

 この辺りは実際に自分で行動をして体験が伴う経験則。

 詰め込まれている知識は、同程度。

 そんなところですね。

 だから、体験の伴わない単純な知識として片方が知らないことはもう片方も知らない、と。

 しかし、これは困りましたね。

 私が、それとなく誘導することにしてあげましょうか?


「うん、とりあえず地図的には先生の家から右下に村があるんだから、そっちの方角に行けばいいんだよ」


「右下ってわたしたちから見てどっちよ?


「ん~……方角的に、多分あっち?」


「ふぅん……本当なの?それ?」


「さぁ?でもとりあえず行ってみよ。止まってても仕方ないしさ」


「ま、それもそうね。別に急ぎの旅でもないものね、気楽に行きましょ。迷ったら迷ったときに考えればいいのよ」


「……いや、僕はそこまで気楽には考えられないけどな~」


「うっさい、行くわよ」


 正解の方向へは歩き出してくれましたが……これは不安。

 何ていうか……のんきですねぇ、二人とも。

 きっとそこまで切羽詰まっているわけではないからこそなんでしょうね。

 どうでもいいと思っているというか……きっと違ったところで何とかなると思ってるのでしょう。

 二人ともこういうところは暢気な部分がありましたからね……

 おおらかで大変結構、と私としては言ってあげたいのですけど、ね。

 仕方ありません。

 ここは、やはり私がこっそりと誘導をするしか手は無さそうですね。

 風の向き、ざわめく葉の音……周囲の環境に魔法でそれとなく干渉をして二人を村の方向へと導いていく。

 これが知らない方に行うとなると難しいのですけど、ね。

 そこは私もよく知るレンくんとランちゃん。

 どういうふうにすれば動いてくれるかは私にも分かっています。

 伊達に幼い頃からずっと一緒に暮らしていたわけではないのです。

 

「平和だなぁ……魔物とか全然出てこないね?」


「そうね。楽でいいわね。運がよかったのかも」


「そうかなぁ……ちょっと腕試しをしてみたいなぁ、なんて思ってもいたんだけど」


「そう?来ないんならそれでいいじゃない?しょうもないこと考えてないでこれからのことでも考えなさいよ。これからのことでも」


「そう、言われてもなぁ……」


 気を抜いて歩いてる様子を見ると保護者としては微笑ましい気持ちにはなりますが、ね。

 うぅん、旅路の姿としてはあまり良い姿とは言えませんかね。

 適度な緊張感は大事です。

 まぁずっと張り詰めていてはそれはそれで疲れてしまうので、その辺りメリハリは必要なわけですが。

 それにしても、魔物退治がしたい、ですか……

 腕試しをしたい、とレンくんの言うその気持ちは分からなくもありません。

 私の元で随分と鍛えあげましたからね。

 それは自分の強さを再確認したいでしょう。

 しかし、私としてはあまりやって欲しくはありません。

 怪我をする姿など見たくはありませんからね……何事も段階が必要なのです。

 やはり、いきなり組織立って襲ってくるウルフというのはよくないでしょう。

 ゴブリンかスライムが来るまでは二人の腕試しはお預けです。


「……あれ?今、何か」


「ん~?何よ?」


「あ、うん、何か魔物が居たような気がしたんだけど……」


「何も居ないじゃない?気のせいじゃない?」


「うん……そう、だと思う」


 首を傾げながらもそのまま道なりに進んでいく。

 私が事前に追い払っていますからね。

 遭遇しないのは当たり前、接敵しないのは私が作り出した真実なわけです。

 ここはまだ平和な道中を満喫していてもらわなければ。

 あぁ……また魔力反応がありますね。

 取り囲むような動き、複数の組織だった動きの流れ。

 またウルフですね。

 魔法を打ち込んで適当に追い払って、そのまま付いて行く。

 あなたちでは初戦に相応しくないのですよ。遠慮してくださいね~。

 何もない平凡な道中……今はこれでいいのです。

 初戦が地の利を最大限に活かして複数で襲ってくるウルフだなんて、私としては認められませんからね。


「はぁ、そういえばさ。ねぇ、ラン……僕たちさ、旅立ってきたけど何やる?」


「は?何って、先生が言った通り勇者になるんじゃないの?困ってる人たちを助けなさいって先生も言ってたし」


「いや、それはそうなんだけどさ……」


「何よ?歯切れが悪いわね」


 おやおや、未来設計でしょうか?

 いいですね。

 道中でそうした話は済ませてしまいましょう。

 魔物との戦いなどになったらそれどころではありませんからね。

 ん~……成程、ウルフだけでなく人の反応まで引っかかるようになってきましたか。

 これは、山賊さんですね。

 二人を見つけて襲おうとする動き、隠密も何もない、突っ込んでくることしか考えてない動きに遠方から狙撃をして沈黙させておく。

 簡単な魔力弾ですね。

 それを体外で射出して昏倒させました。

 二人を襲うなんて私が見ている限りは許しませんよ?

 二人には幸せでいて欲しい、それが本音です。

 このまま楽しく、安穏と暮らしていられたら……私としてはそれが一番の望みではありました。

 あったのですが、ね。

 このあたり、ジレンマでもありますね…… 


「うぅん、確か……先生から各地の魔族の活動が活発になってきたとかそういう話は聞いたけどさ」


「そうよね。だから、それでいいじゃない?魔族を倒していきましょ」


「うん、それはそうなんだけど、さ……」


「何よ?歯切れが悪いわね」


 ふむふむ、何やら真面目な雰囲気ですね。

 二人はどのような道を進むのか、私としても興味津々です。


「もちろん、先生が言った通り魔族を倒したり、困ってる人たちを助けるために頑張ろうとは思ってるんだよ? それは当たり前。でも、それをするにも基盤が必要なわけでさ」


「つまり? もっと分かりやすく言いなさいよ」


「えと、どうやってお金を稼いで生きていこうってことかな?」


「あぁ、そういう……レン、あんたけっこう俗っぽいこと言うわね」


「でも、大事でしょ?お金だっていつまでもあるわけじゃないしさ」


 ふむ、そう来ましたか……

 成程、確かにその通りでありますね。

 しっかりしてると褒めてあげるべきところでしょうか?

 私としてはもうちょっと子供っぽく夢を語って欲しかったところではあるのですが……ふふ、まぁそれは別な機会にでも期待しておくとしましょうか。

 レンくんの言う通りです。

 魔族と戦うにせよ、困っている人を助けるにせよ、日常生活を送っていく基盤は必要です。

 お金はいつまでもあるわけではないですからね。

 ……まぁ、私としては二人のお財布にお金をこっそり入れ続けてあげるくらいのことはやぶさかではないのですけど。

 それは不自然ですからね。

 お金を稼ぐ苦しみを知らないのは二人の成長にもよくはありませんし。


「そう、ね……もう先生に貰うわけにもいかないものね」


「そうだよ。もう先生は近くに居ないんだからさ。僕たちで何とかしてかないと」


「……ん、そう、ね。それなら……ん~、そう、ね。仕事、か……」


「うん、それなんだけど、さ……」


「うん?何か当てがあるわけ?」


「いや、当てってわけじゃないんだけど……」


 訝し気なランちゃん。

 少し気恥ずかしそうにはにかむレンくん。

 これは……何でしょう?

 私としては多分、アレだろうと予想は付くのですが、ね。

 ふむ、子供の頃を思い出して照れ笑い、とかでしょうかね? 


「冒険者、なんてどうかな?」


「……冒険、者?」


 ランちゃんの反応は不思議そうなものでした。

 いいとも悪いとも言わない、ただの聞き返し。

 ただ、私としては予想通りのことではありました。

 二人とも、小さな頃はよく冒険者の話をねだってきましたからねぇ。

 ふふ、変わっていませんね。

 なんと可愛らしいのでしょう。

 それに、私が教えたことを生かすとするならば冒険者は最有力候補、当然の帰結なわけです。

 講義もその辺りを意識して色々とやってきましたからね。

 私が教えた魔法や戦闘技術が大いに役立つことでしょう。

 しかし、ランちゃんは納得がいかない様子ですね。

 昔はあんなに『わたし、ぼうけんしゃになる~』なんて言ってたというのに……ふふっ。


「冒険者、ねぇ……別にいいけど、何で冒険者なのよ?」


「前から気になってたしさ。それに……ランはさ……昔、先生のところに初めて来たとき何になりたいって答えたか覚えてる?」


「あ~……覚えてる!確か、あんたは勇者になって人を救うんだってそんなこと言ってたわよね」


「そうそう、でランは……」


 うんうん、そうなんです。

 私も良~く覚えていますよ。

 まず将来どうしたいかを聞くのは私の所に来た子供たちにいつも聞くこと。

 大抵はその前に自分が何をやるのかを知っているのでそれを踏まえた答えが返ってくるのですが……ランちゃんは衝撃でしたねぇ。


『ぼうけんしゃになるっ。それでどんどんおかねをかせいだらすぐやめて、ぐぅぐぅねてたい』


 って、あれは新鮮でしたね~。


「……まぁ、確かにそんなこと言ったわね。よく、覚えてないけど……流石にぐぅぐぅ寝てたいはもうわたしの夢じゃないわよ?」


「あはは、まぁ、ぐぅぐぅ寝られたら僕も困るけど、でもいいと思うんだ冒険者」


「ん……そうね。悪くない選択とは思うわよ。わつぃたち先生の元で稽古をしたし、魔法だって自信あるし、無難な選択じゃない?」


「うん、それにちょっとくらい僕たちの楽しさを追い求めてもいいかと思うし」


「楽しさ?」


「だって、ほら?色んなところに行けるかもしれないし、僕もちょっと興味があったしさ。それに」


 それに、何でしょうか?

 私も少しドキドキしてきましたよ。

 かなりしっかりした考えがあったみたいですね。

 楽しさを追い求める、お金を稼ぐ。

 それだけでも私としてはその成長ぶりに感動の涙が出そうなほどなのですが……この上、まだ先があるとは。

 ドキドキしながら次の言葉を待つ。

 まぁ、話しかけられてる当のランちゃんは酷くどうでもよさげな顔でしたけどね。

 その状況下でついに、レンくんがその想いを打ち明ける。

 

「僕たち、さ。これまで先生が教えてくれたこととか自分が強くなったこととか実感したことなかったじゃない?」


「……ま、そうね。わたしたちずっと先生のところに居たもの」


「うん。だけど、僕たちきっとすごく強くなってるはずなんだ。先生が教えてくれたんだから!だから、さ。皆に僕たちの強さを見せて、先生の凄さをみんなに広めようよっ」


「ぷっ、何それ?先生は先生なんだから、わたしたちが広めなくてもきっとすごいのは当たり前よ」


「ランは嫌なの?」


「ううん、別に。いいんじゃない?」


「だよね!それに、ほら?冒険者なら魔族とかの情報も集まりやすいしきっと得だよ」


「そう、ま、わたしは構わないわよ。冒険者、ちょっと楽しみでもあるもの……そういうのちょっと憧れてもいたしね」


 おや……おやおや?

 まさかそんなことを考えていたとは……

 私の凄さを広める、ですか。

 何ていうか……教え子に大切に思われてるのが実感できて胸の内がじんわりと温かくなってきますね。

 なんて、いい子たちなのでしょうか?

 まぁ、私としてはそんなことはしなくて良いと言ってあげたいのですけどね。

 もっと自分たちのことだけを考えて生きていきなさいって。

 その辺り、ちょっともどかしさはありますかね……

 純粋に嬉しいというのが正直なところではあるのですけど、ね?


「……それにしても」


 ふむ……さっきから数が多い。

 魔物や人間の反応がさっきからひっきりなしに索敵に引っかかってくるのですよ。

 まぁ、全部私が二人の近くに来る前に追い払っているので問題といえる問題はないのですけどね。

 少し、瞳に魔量を込めて反応のある方向を見通す。

 すると、そこにはさっきにも見たような、薄汚れた姿の方が……


「はぁはぁ、このあたりだと、思うんだがなぁ。獲物はどこだ?」


 山賊が居る、という話は聞いたことがありますけどね。

 まさかこんなに遭遇するとは思いませんでしたね。

 山賊程度に二人が後れを取るわけはないとは思いますが……しかし。


「変なことが起きなければ良いのですが……」



『ん?今何か言った?先生っぽい声が聞こえたような?』


『さぁ?気のせいじゃない?先生に会いたくって幻聴でも聞いたんじゃないの~?』


 おっと、独り言が少し大きかったみたいですね。

 反省、反省、と。


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