第一話──空中戦と空回り
女性向けブロマンスを意識した習作です。
話が進む度に面白くなるはずなので、よろしくお願いします。
いつもの如くゲームセンターでハイスピードメカアクションに興じていたはずの僕は、窮地に立たされていた。
「お前めっちゃうめーじゃん! どんぐらいやってんの? かっこいいよな、このメカ」
たった今倒した対戦相手が筐体を回り込んで、話しかけてきたのだ。金髪ロン毛、学ランの着崩し。一目でわかる。ヤンキーという人種だ。
「あの、えっと、いや、結構やりこんでて」
「そうだよな!やっぱそうだよな!俺いつもタイマンの格ゲーばっかなんだけどさー!この2対2の形式のバトル、めっちゃ難しいわ!」
妙にテンションが高いのは何故だろう。陽キャってやつはそういうものなのか。解らない。
「でさ、お前何本腕あんの? ていうか同クラだよな。わり、名前おぼえてねーや」
二本だよ!と返したいが言葉が出てこない。陰キャにこの勢いの良さは辛い。
「飯田、やめてやれ。奥山が大分ビビってる」
のそのそと坊主頭の男がやってきて、助け船を出してくれた。こっちは覚えてる。クラスメイトの杉田だ。どうやらこのヤンキー、飯田君は本当にクラスメイトらしい。別世界の住人過ぎて意識したこともなかった。
「杉田じゃん。部活いーのー?」
如何にも『どうでもいいです』といった様相で返事を返す飯田君。仲が悪いわけではなさそうだけど、何か因縁でもあるのだろうか。
「昨日遠征での試合があったからな。今日は休養日だ」
堂々とした立ち振る舞い。坊主頭の野球部であるということぐらいしか知らなかったけれど、よく見れば学ランを破りかねないほどに発達した胸筋、腕周りの筋肉、そして太ももなんて僕の胴回りよりも太いんじゃないかと思えた。
「へー。じゃ遊んでりゃいいじゃん。俺いま奥山君と話してんの」
「名前すら憶えてなかった癖に何言ってんだ。やめてやれ」
僕の頭上で空中戦が繰り広げられる。やめてくれ。本当に。
「へいへい。じゃあなーおっくん。今度はガッコで声かけるわ」
「う、うん、じゃあね」
「さっさと帰れ」
無事に飯田君から解放され、杉田君にお礼を言う。
「ありがとう。助かったよ」
「気にすんな。じゃあ俺も帰るから、奥山もあまり遅くなるなよ」
そう言って杉田君も帰って行った。
ほとんどのゲーセンメンバーはさっきの飯田君から逃げるためか距離をとっていたけれど、再び集まってきた。気持ちはわかるので文句は言えない。
どうせ帰っても面白いことはないので、改めていつものメンバーとの対戦を再開することにした。
しかしまぁ、なんというか、我ら陰キャ組はいわゆるヒョロガリだなぁと、さっき間近で見た杉田君の体を思い出しながら思うのであった。
「すごかったな、筋肉とか……」
―――
脱衣麻雀を楽しむのは、俺の秘かな趣味だ。健全な高校生男子が遊ぶのは、別に悪いことではないだろう?
そうやって自分に言い訳をしながら、休養日の夕方をゲームセンターで潰していた。過剰なトレーニングは良くないし、当校の野球部は飴と鞭が上手い。締めるところは締め、許すところは許す。顧問もコーチもドSじゃないかと思うことも多いが、ちゃんと休養日を用意してくれるのは素直にありがたい。
筐体を見れば対戦相手の美少女に大三元を上がられ、見事なまでの箱割れだ。まさか二巡目に大三元とは、いくら何でもイカサマが過ぎる。即コンテニューで、こちらもイカサマアイテムを使い、天和で上がる。お待ちかねの脱衣タイムだ。ボタン連打にはコツがある。
「お前めっちゃうめーじゃん!」
聞き覚えのある声がするが一旦無視。古臭い昭和臭のするご褒美画像に満足し、次の対戦相手を選ぶ。
「でさ、お前何本腕あんの? ていうか同クラだよな。わり、名前おぼえてねーや」
絡んでる相手はクラスメイトか。それならば看過できない。
脱衣麻雀を完遂することは諦め、現場に向かう。
声の主は予想通りクラスメイトの飯田であった。そして絡まれているのは眼鏡のクラスメイト、奥山。
「飯田、やめてやれ。奥山が大分ビビってる」
そう声をかけて止めに入る。
「杉田じゃん。部活いーのー?」
「昨日遠征での試合があったからな。今日は休養日だ」
この飯田という男は、自由に髪を伸ばしたり、染めたり、ピアスを開けたり、制服を着崩したりと、相変わらず俺とは真逆の人間だなと思う。正直、この自由奔放さに憧れが無いと言えばウソになる。
「へー。じゃ遊んでりゃいいじゃん。俺いま奥山君と話してんの」
対峙する俺と飯田、間に座る奥山という妙な構図になった。奥山はぽかんとしている。
「名前すら憶えてなかった癖に何言ってんだ。やめてやれ」
「へいへい。じゃあなーおっくん。今度はガッコで声かけるわ」
「う、うん、じゃあね」
へらへらと奥山に手を振る飯田。少しどもりながら返す奥山。目的は達成したが、脱衣麻雀はゲームオーバーだ。諦めて帰るとするか。
「ありがとう。助かったよ」
「気にすんな。じゃあ俺も帰るから、奥山もあまり遅くなるなよ」
奥山からの礼を軽く流し、帰路につきながら考える。
野球は楽しい、チーム一丸となって励むこのスポーツの魅力は、友情・努力・勝利の某漫画の三本柱にあると思う。
しかし、飯田のような生き方に対して、惹かれるものもまた事実。不良になりたいわけじゃない。自分と違う生き方が気になっているのかもしれない。
野球を捨てる気はない、が――
「俺も羽目を外してみたくも、あるのかもしれないな」
―――
実は、声をかける機会を狙っていたのはマジ。名前を忘れていたっていうのは嘘。苗字しか知らなかったから、ついでにフルネームを聞きだそうとしたわけ。
きっかけづくりに対戦を挑んだら、当たり前だけどぼっこぼこにされた。けど、本命はそっちじゃない。
「お前めっちゃうめーじゃん! どんぐらいやってんの? かっこいいよな、このメカ」
意を決して声をかけた。俺はこの内向的な男の生き方に、素直にあこがれてる。協調性という名の鎖に縛られず、自由に過ごす様をクラスで見ていた。読書にふけったり、こうやってゲーセンで遊んでたり、俺にはとても選べない孤高の生き方を選んでるところが、クールに思えた。
「ていうか同クラだよな。わり、名前おぼえてねーや」
核心に迫る。苗字だけ答えられたら、『いやフルネーム教えてよ』って返すつもり、だった。
「飯田、やめてやれ。奥山が大分ビビってる」
答え待ちの間に邪魔が入った。野球部の杉田だ。体デカいからちょっと怖いんだよな、こいつ。
「杉田じゃん。部活いーのー?」
「昨日遠征での試合があったからな。今日は休養日だ」
対峙する俺たちの間で小さく座る奥山君の姿は、何だか小動物的で、普段つるんでる肉食獣みたいなやつらとの対比が少し面白かった。
「へー。じゃ遊んでりゃいいじゃん。俺いま奥山君と話してんの」
「名前すら憶えてなかった癖に何言ってんだ。やめてやれ」
「へいへい。じゃあなーおっくん。今度はガッコで声かけるわ」
「う、うん、じゃあね」
手を小さく降ると、奥山君が振り返してくれた。
「さっさと帰れ」
杉田が鬱陶しいが、こいつに喧嘩を挑む勇気なんてあるわけだないし、奥山君を巻き込みたくはない。素直に帰ろう。
背後から奥山君と杉田の話声が聞こえる。
「ありがとう。助かったよ」
「気にすんな。じゃあ俺も帰るから、奥山もあまり遅くなるなよ」
なんだよ、杉田もすぐ帰んのかよ。チクショ。
「あー。やっちまったかなー」
クラスのカーストでいえば上位にいる自覚はある。ただ、あいつらとつるむのは結構気合がいる。
奥山君みたいな、俺と真逆の奴と遊んでみたら、もっと気楽に遊べるかもしれないと、ちょっと期待してた。
またガッコで、とはいったものの、実際はいつもの連中の手前、声をかけるのは難しい。
せっかくのチャンスをふいにしたんだろうなと気づいて、自嘲気味につぶやく事しかできなかった、ってことだ。
「明日話しかけるタイミング、みっけられっかなー」




