おいでませ魔王城、個性派集団の魔王軍
「だいぶ遅くなったなぁ、そろそろ引き上げよっか」
「おう」
夕焼けから闇に染まりつつある空を見上げ、コリンは何処かに帰るような事を自身の肩に乗るマルシャへ話す。
既に被害に遭った母子は金品を返してもらい家に帰宅して、ブレイザ達はサイラード達騎士団によって城へ連行されている。
「あー、じゃあ城の方に戻ろうか。騎士団の皆と一緒に戻れば良かったかな?」
「ううん、そっちじゃないよ」
「へ?」
引き上げると言ったので、城に戻るのかと思ったらコリンはベッラの城に戻る訳ではないらしい。
「戻るのは僕らの城、魔王城だよ♪」
「魔王城〜?」
コリンの口から魔王城という言葉が出た瞬間、アリナの脳内には禍々しい外装で雰囲気ある闇の城、それが魔王の住む城というイメージが大きい。
「今から歩いて行ったら、野宿とかなりそうじゃないかな?」
「大丈夫だよ、すぐ着くから」
もう夜を迎えようとしている時間、ベッラ帝国の他に近辺で城のような物は無かったはずだとアリナは記憶している。
それでもすぐに着くとコリンは言い切ってみせた。
「アリナ、ちょっと手を繋いで?」
「うん?勿論良いよ♪」
手を繋いでとコリンから頼まれれば、アリナは喜んで右手を差し出し、コリンの左手と繋ぐ。
こうして繋いでみれば、アリナの方が手は大きくコリンの手は子供と変わらぬ小ささだ。
そう思っていると、不思議な感覚が伝わって来る。
次の瞬間、彼らの姿は町から消えていた。
「はい、到着〜」
「へ…え?」
つい先程までベッラの町にいたはず、それが今目の前に聳え立つのは見覚え無き城。
古城のようで外装は普通、想像より禍々しくは見えないが雰囲気は少し周囲が暗いという事もあり、闇の城には見えた。
「(これが転移魔法、テレポートってやつ!?本当にこういうのあったんだ!)」
テレポートした、というのをアリナは理解する。
漫画やゲーム等で色々知ってきたアリナにとって、不気味で怖いという事は無く、むしろ感動するレベルだった。
「僕の城、魔王城へようこそ♪さ、行こうー」
慣れた様子でコリンは目の前の城へと向かって歩き、アリナもそれに続く。
すると城門に近付いた時、その姿に気付いた。
「おお?これってもしかして、かの有名なゴーレムってヤツ!?」
城門の出入り口、左右に居る3m程ある石で作られた人型の物体に、見上げたアリナの目は輝いている。
ファンタジー系の漫画やゲームを見たりやったりしていれば、高確率でお目にかかるモンスターだとすぐに分かった。
「や、お勤めご苦労♪」
コリンはゴーレム2体へ向かい、笑顔で挨拶。
どうやらこの石人形達は城の門番を担当しているようだ。
「あれだよね?使用者が魔力を込めて動かしたりとかしてるんだよね!?動きは鈍いけど力が凄まじく頑丈な王道のパワーファイター!」
「最後意味分かんねぇけどよく知ってんな、こいつらはコリンの魔力を込めて作ったんだ。命令に忠実な上に疲れねぇし、門番にもってこいの奴らさ」
城を守るゴーレム2体、コリンの肩から見上げるマルシャがアリナへと石人形について説明がされた。
彼女からすればRPG等で見て来た有名モンスターを目にして、ちょっとした有名人と出会った気分だ。
「命令に忠実って、魔王だったら皆が頭上がらないもんじゃない?」
「そんな事は無いよ、結構言ってくる子とか普通にいるし」
「お帰りなさいー♪」
コリンとアリナが会話をしている最中、城から出て来た青いポニーテールの少女が明るい笑顔で駆け寄って行く姿が見えた。
半袖の黒シャツで右肩を大胆に露出させ、黒いショートパンツと見た目は普通の可愛い少女で、コリンと外見年齢がそう変わらぬ身長だが、背中にコウモリのような羽を生やし、尻尾らしき物が見え隠れしている。
少女は明るい笑顔を見せたかと思えば、次にはガッカリした顔へと変わる。
「って、コリンとマルシャだけじゃ〜ん…セオン様どうしたのよ?」
「あー、セオンは城の方に…」
コリンがセオンとは別行動だと、説明した途端に少女がコリンのシャツの胸ぐらを両手で掴み上げる。
「はぁ!?あんた何でセオン様置き去りにしてんのよ!見捨てたの!?」
「わわわ〜!」
ガクガクと激しく少女の手によってコリンは揺らされ、目が回りそうになっていた。
「あの方があまりに麗しいからって嫉妬で亡き者にしようなんて、今すぐ連れ戻しに行きなさいよ!」
「落ち着けってザリー、見捨てた訳じゃなくあいつは城でやる事が色々あるんで自分から残ってんだよ」
何時の間にかコリンの肩を降りて避難していたマルシャ、ザリーという魔族らしき少女へと説明する。
「あ、そうだったの?流石セオン様♡ちゃんと先を考えているんだなぁ」
「ほあ〜…」
ようやくザリーから解放されたコリンの目はすっかり回り、フラフラの状態だった。
「え〜と、一番上の魔王に早速無礼を働く見た感じサキュバスの少女っぽいこの子は?」
「おう、御名答。こいつはサキュバス族のザリー、こう見えても魔法の腕前超一流の持ち主だ。コリンには及ばねぇが」
「こう見えてとか及ばないとか一言二言余計よ!」
アリナへの説明で語っていたマルシャに、ザリーは怒った表情を見せる。
最初に出て来た明るい笑顔はすっかり消え失せていた。
「(サキュバスかぁ、イメージだとボンキュボンッて感じの超ナイスバディですっごいやらしくて誘惑する感じだったけど…全然当てはまらないかも)」
コリンに近い身長のサキュバス少女ザリーの姿は、アリナの中にあるサキュバス像とは、どう見ても全く違う。
「人間、あんたすっごい失礼な事考えてなかった!?」
「あ、全然。全く何も滅相もないってー」
ザリーはアリナの前に腰に手を当てて、仁王立ちで睨んで来ていた。
「そもそも何で人間が此処にいんのよ!?」
「彼女はアリナ、勇者で僕を監視してるんだよー」
解放され、ようやく回復したコリンがアリナについて説明する。
「勇者ぁ!?魔王軍最大の敵じゃない!それに監視されてるってどんなヘマしてんのよー!」
「わぁぁ〜!」
再びザリーにコリンは胸ぐらを両手で掴まれ、ガクガクと揺らされていた。
それからザリーはマルシャにこれまでの事を説明され、場が落ち着くと一行はようやく魔王城へ入る事になる。
「(禍々しい感じが無いなぁ、髑髏とか骨とか飾ってたり建物の一部で作ったり転がしてるのかと)」
アリナはもっと不気味な内装を想像していたが、普通に赤い絨毯が敷かれたり、額縁の絵が飾られて、騎士の銅像があったりと内装は普通の城と変わらない。
「おお、魔王様戻ったかぁ」
城内を歩いていると、コリン達に近づく2m以上あるだろう巨大な影。
白いシャツに茶色いズボン、人と変わらぬ格好をしているが人ではない。
人型で豚の魔物オークだ。
頭には金の短髪を思わせる物が生えている。
「や、ドンゴ。君が此処に居るって事は畑仕事終ったのかな?」
「んだ、大体終わって後は他のオークがやってくれてるだよ。今日の食事はオラの畑で育ったジャガイモが使われるがら楽しみだぁ」
目の前の相手と親しく話すコリン、目の前に居る魔物も魔王軍の一員と見て間違い無いだろう。
「(こっちのオークはこんな感じと来たかぁ、都会暮らしには無い田舎の優しさを感じるってヤツ?)」
オークという種族についても、アリナにとってはこの世界に来る前から知っていてゴーレムと並んで有名な魔物。
イメージとしてはもっと凶悪だったが、ドンゴからそんな感じは全く無い。
「勇者も一緒で珍しいこどもあるもんだなぁ、まあでもせっがく来た魔王城だぁ、ゆっぐり寛ぐと良い」
「あ、どもっすー」
ザリーと違ってドンゴはすぐ勇者のアリナを受け入れており、敵意は無く歓迎していた。
「けどあたしが勇者って何も言ってないのによく分かったねー?」
「オラ耳良いだぁ、外でザリーのでっかい声が此処まで聞こえただよ」
「そんな大声出した覚え無いし…!」
ふいっとそっぽ向いて、ザリーはそこまで大きな声は出してないと言うが、聞いてた限りかなり声は大きかった。
「じゃ、食事の時間が近そうだし食堂行こうー」
「あたしもゴチになって良いのかな?唯一の人間っぽいけど」
「気にしない、というか1人だけ食事無しは駄目でしょ」
魔王城という場で当たり前だが、アリナ以外に人間らしき姿は何処にも無い。
それでもコリンは気にせず食事へと誘って来た。
「んだ、食事は皆で食うほうが美味いだよ」
「あんた1人何も食べず突っ立って見られたら逆に居心地悪いし、食べときなさい」
ザリーやドンゴもアリナの同席は反対せず、受け入れている。
丁度お腹は空腹状態、お言葉に甘えてアリナは魔王城での夕飯を迎える事となった。
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アリナ「ゴーレムにオークにサキュバスと、此処まで来たらスケルトンでもドラゴンでもドンと来ーい!」
マルシャ「と、こんな感じでこいつは突然こういう事を言ったりする」
ドンゴ「はあ、変わった勇者だぁ」
ザリー「妄想癖とかなんか凄そうじゃないの?」
コリン「それもアリナの特徴の一つって事にしとこー」