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お泊りハプニングはディナーの後で

 コリン達が城の大広間へ来ると、そこには白い服を着た青い肌の男達が料理が乗った皿をテーブルクロスの上へと並べている。



「手早く並べろ貴様らぁ!料理は鮮度が大事だ!時間が経てばそれだけ味が落ちる事を忘れるな!!」



「イエッサー!料理長!」



 腕を組み、彼らの作業を見守る白い服を身に纏い頭に長いコック帽をかぶる、同じ青い肌で黒いスカーフを巻いて口や鼻を覆い隠す緑髪の男が厳しく指示を出していた。



「やあゼオン、夕飯前に間に合ったよー♪」



 コリンは躊躇無く、指示を出している男へ明るく挨拶する。



「良いタイミングだコリン、食事の準備は丁度完璧に整った。早々に席へ着け!俺の料理が冷める!」



 ゼオンと呼ばれる男、魔王であるコリンへ席に着くよう命令するように言うとコリンや一同はそれぞれ席へと座った。



「あ、今日は人間の勇者も一緒だけど良いかな?」



「どもども〜」



 席へ着くとコリンはアリナをゼオンへと紹介した。



「勇者でもなんでも構わん、俺の飯を食うなら歓迎する!ただし残すな!全部平らげろ!」



「あ、はい(お残し許さないタイプかぁ、このシェフは)」



 勇者である事を特に何も気にせず、アリナにも席に着くようゼオンが促せば、アリナはコリンの隣の席へと座る。



「おお、普通に美味しそう〜」



 新鮮なトマトやキャベツが使われ、軽くドレッシングをかけてあるサラダ。



 ジャガイモや牛肉にニンジンとタマネギをじっくり煮込んだビーフシチュー。



 更にパンが1人一個、それぞれの皿に乗っていた。



 アリナの元々居た世界でも珍しくない物ばかりだ。



 ちなみにマルシャには、炙って焼いた魚が丸々一匹乗った皿が用意されている。



「(ドンゴってオークがジャガイモ使うの聞いてゲテモノの可能性は無いと思ってたけど、思ってた以上に普通…マンガ肉とかそういうのも無いし)」



「じゃ、冷めない内にいただきまーす♪」



 コリンやその場に居る皆が手を合わせ、アリナも魔王軍って礼儀正しい!?と驚きながらも遅れて手を合わせた。




「おいしっ!?」



 ビーフシチューの方をスプーンで掬い、一口飲むとアリナの味覚に旨味がダイレクトで伝わって来ていた。



 肉の美味しさ、野菜の美味しさ全てが凝縮されて絶妙なマリアージュを生み出す。



 サラダも素材の味を最大限に活かし、更にそれと合うドレッシングでより長所を引き出していた。



 パンもフワフワで柔らかく、ビーフシチューとの相性が抜群。


 味は絶品、高級なレストランで食事するような感覚だ。



「すっごい美味しい!ゼオンって人、料理の天才じゃない!?」



「俺は魔界随一の料理人、美味いのは当然だ!」



 美味しいというアリナのリアクションを見て、ゼオンは腕を組んでドヤ顔を浮かべていた。



 色々と癖のある魔族の男だが、料理の腕は天才的。


 それがアリナのゼオンに対する認識となっていく。




「相変わらずゼオンの作る飯はうめぇだ〜、オラいくらでも食えそうだぞ♪」



 オークとして立派な体格を誇るドンゴ、見た目に反する事無く彼専用で作られた大きなパンや大皿のサラダやビーフシチュー、それらを次々と美味しく平らげていった。



「ドヤ顔はムカつくけど、美味しい事は事実だわ。セオン様が作れたら最高なのに」



 ザリーから見て偉そうに見えるゼオン、それが気に入らないが素直に美味しいと認めて食を進めている。



「セオン…ゼオン…えー、ひょっとしてだけど兄弟とか?」



「いかにも、セオンは俺の弟でコリンの右腕だ」



 名前だけでなく姿もセオンに近い感じがして、アリナが兄弟かと問えばゼオンはそうだと頷く。



「あっち魔王に対してすっごい礼儀正しかったけど、お兄さんの方は呼び捨てなんだね?」



「俺達は生まれた時からコリンを見て来ている、今更呼び方を変えてもそいつの居心地が悪くなるだけでたいした違いはあるまい」



「そこは同感、というか今更こいつ様付けで呼ぶ気無いし」



 魔王という身分に関係無く、ゼオンとザリーはコリンを呼び捨てだ。



 コリンが生まれてから彼らはその姿をずっと見て来て、共に過ごしていた。


 彼らにとっては兄弟のようなものだろう。



「だが弟はコリンが魔王となれば、それまで呼び捨てだったはずが忠誠を誓う右腕となってな。そうしないと他への示しがつかないと言ってずっと続けている」



「親しき仲にも礼儀ありだべ、オラは良い事だと思うげどなぁ」



 ゼオンが語っている間、ドンゴは出された自分の分を残さず早くも完食していた。



「魔王になった、その前はどういうのが魔王だったの?」



 パンをほぼ平らげてから、アリナはコリンの前に魔王を務めていたのがどういう人物だったか、気になって一同へと尋ねる。




「コリンの母君だ、あの方が先代の魔王だった」



「おー、お父さんじゃなくお母さんが魔王のパターンと来たかぁ」



 ゼオンからコリンの母が先代魔王と教えてもらい、アリナの中にあった悪魔の男が魔王をやるようなイメージ、それを早くも裏切ってきていた。



「(それを引き継いだって事は、その魔王ママはもうこの世にいないから…なのかな?健在なら今も魔王やってそうだし)」



 コリンが母親から魔王の座を引き継いだ、という事は母親が魔王を続けられる状況ではなくなったからではないかと、アリナは内心で推理を組み立てていく。



 流石に息子へお母さんはどうしてるか、それで悲しい事があったのなら深掘りはしない方が良いと思い、コリンには何も尋ねなかった。





 食事が終わり各自が解散する中、アリナは魔王城に一晩泊まる事が決まり、ザリーに部屋へと案内してもらっていた。



「結構広くて良い部屋じゃーん♪王様かお妃様が使ってるような部屋だけど良いのー?」



 広々とした空間にキングサイズのベッドが置かれており、アリナはルンルン気分でベッドに腰掛けた。



「どうせ此処誰も使ってないし、元々客人用にあった部屋らしいからあんたにピッタリでしょ」



「へぇー、んじゃ遠慮なく使わせていただきまーす」



 腰掛けてフカフカな感じが伝わり、寝心地は良さそう。良い部屋の良いベッドで眠っていいなら断る理由は何も無い、お言葉に甘えて此処で一晩泊まる事を決めたアリナ。




「後は好きに過ごせば?私はもう行くから」



「ありがとうー、セオンってイケメンとの恋が実ると良いね?」



「はぁ!?よ、よ、よ…余計なお世話よ!馬鹿人間のデカ女!」



 部屋を去ろうとするザリーに礼を兼ねて、セオンとの仲をアリナが応援すると、ザリーの顔は分かりやすく赤面していく。



 ザリーがセオンに対して特別な想いがある、それが丸分かりなリアクションだった。



「うーん、今時のサキュバスは肉食系じゃなくて純情系が流行ってんのかな?」



 異世界もそこは流行が変わってるのかと考えつつ、アリナは就寝の準備をする。






「勇者を城にまで招待しちまうし、居場所を万が一知られたら面倒だぞ」



「そんな人じゃないと思うから、大丈夫だよ」



 城の玉座に腰掛けるコリン、持て余す程に広がる空間でマルシャと共に会話をしていた。



 アリナから情報が漏れて魔王城の事を知られれば、此処を襲撃されるかもしれない。


 二重三重にカムフラージュし、警戒は怠っていないがマルシャは万が一を警戒している。



 その心はコリンにも伝わっていたが、アリナなら大丈夫とコリンは何となく思えた。



「魔王の勘ってヤツか?」



「そうなのかな?」



「知らねぇし」



 魔王としての勘なのか、それとも他に何かあるのか、マルシャにもコリン自身にも、アリナを信じられる具体的な根拠が分からなかった。



「此処で深く考えてもしょうがねぇ、今日は一日だけて色々あったから俺も早めに休ませてもらうぞ」



「ん、マルシャおやすみー」



 コリンの肩から降りると、マルシャは垂直に大きく跳躍。



 そのまま暗闇の天井へと姿は消えていった。




「(確かに帝国行ったり、火災が起きて誘拐まで起きたりと…色々あったなぁ…)」



 今日一日で起きた、これまでの事を振り返っているとコリンは自然と眠気に襲われる。



 彼が夢の世界へと誘われるのに、そう時間はかからなかった。





「(初の魔王城であまり眠くないというか…まだ寝る時間でもなかったからなぁ)」



 軽装の鎧を外し、ノースリーブの青シャツと同色のショートパンツだけと身軽な格好になったアリナは眠れず、折角なので初の魔王城を探索しようと城内をうろついていた。



 寝静まっているのか城の中は不気味な程に静かだ。



「うおっと…!?あ、ご苦労さまでーす…」



 途中で城の中をうろつくゴーレムと遭遇、外に居るのと比べて小型だがそれでも2m近くはある。



 それと出会い頭ぶつかりそうになって、上手く避けたアリナは小声でゴーレムに挨拶していた。


 客人という扱いのせいか、敵と認識はされていないようだ。




「(いかにも王様居そうな雰囲気ある扉だなぁ、コリン君は此処に居たりして?)」



 巨大な扉の前に辿り着き、アリナは此処にコリンが居るかもしれないと思い、ゆっくりと扉を開けてみる。




 そこには暗い部屋で1人、玉座に崩れ落ちるように眠るコリンの姿があった。



「(本当に居たー、てか寝てる?玉座でわざわざ寝てんの?)」



 アリナはコリンの姿を見つけて駆け寄り、近くで彼の寝顔を拝見する。




 魔王とは思えぬ、あどけない可愛い寝顔。



「(やっばぁ、めっちゃ可愛い〜、頬とか柔らかそうだし)」



 コリンの左頬をちょっと右手人差し指で触れてみるアリナ。




 ふにっ



「ん…」



 もちっとした感触が返って来て、コリンは僅かに身を動かすぐらいで起きる気配は無い。



「(もち肌だ〜!触り心地抜群、というか羨ましい〜!どんな肌のケアすればこうなるんだろ!?)」



 コリンの肌を羨ましいと思い、アリナは内心でテンションが上がっていた。



「え〜、とりあえず…魔王でも風邪引くというのあるか知らないけど、このまま寝かせる訳に行かないよね?うん」



 自分に言い聞かせるように、アリナは頷くとコリンの体を軽々と抱き上げる。


 大の男を投げる程の並外れた腕力があるので、体の小さいコリンを運ぶのはアリナにとって造作もない。



 お姫様抱っこの格好で、コリンを運び歩き出す。






 何かとても心地良い。



 全部優しく包まれた感じがして、何処か懐かしさもあって温かく柔らかい。



 いくらでも眠れそうで、このまま全てを委ねてしまいたい。



「んっ…」




 コリンが目を開ければ、開けた視線の先も暗い。



 柔らかい枕に顔を埋めてるのか、ぼんやりとした意識で上の方へ視線を向けると赤髪の女性の寝顔があった。




「…!?」



 此処でようやくコリンは状況を把握する。



 自分がアリナと同じベッドで眠っていて、彼女の豊かに実った谷間に顔を埋めている事に。



 コリンの顔は一気に赤く染まっていき、心臓の鼓動が早くなる。


 離れようにもアリナがコリンを両腕でしっかり抱き締め、抜け出す事が許されない。




「ちょっとー、寝過ぎじゃないの勇者?起きないと朝食の時間だってゼオンが煩いからー…」



 そこにアリナが起きるのが遅いと、ザリーが部屋にやって来て起こそうとベッドに近づく。



 今のコリンとアリナの姿を見て、ザリーの顔がコリン以上に赤く沸騰していき、次には魔王城で大声が響く。




「何やってんのあんたらぁーーー!?」

此処まで見ていただきありがとうございます。


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マルシャ「何か騒がしいってなってたら、ザリーが騒いでんのかよ」


ゼオン「早く来んか貴様らー!朝食の時間だぞ!」

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