話し合う魔王達の前に突然の乱入者
一体目の前の子供、もとい魔王は何を言っているのか。
ロードハルトや大臣、倒れ伏している衛兵達も頭の中での理解が追いついて来ていなかった。
「魔王…コリンと言ったか?お主の望みは世界を支配して混沌の世界を誕生させ、魔族や魔物が人々を虐げたりする…という物ではないのか?」
「えー、そんなの嫌だよー。イジメとか最低じゃん?見てて気持ちの良いもんじゃないよ、皇帝さんイジメ大好きな訳?」
「む、それは決して無い…国の主として民を守る身としてはそのような事は許さん…!」
コリンは杖をぶんぶんと振り回し、落ち着きの無い様子で玉座に座るロードハルトと話す。
「陛下!?この魔王に主導権を握られてはおりませんか!?こぞ…いや、魔王!ペースを乱して我らの主をどうにかしようものならそうはいかんぞ!」
「さっきからうっせぇな!ハゲデブ黙ってろや、そこの騎士の銅像みてぇに大人しくしとけ!」
「な!?ね、猫が喋った…!」
コリンの肩に乗る白猫、愛らしい見た目に反しての乱暴な言葉遣い、大臣は猫が言葉を操る事に驚き口をパクパクさせていた。
大臣がよろめくと、側に立っている剣を構えた勇ましい騎士の銅像にもたれかかる。
「余計な邪魔は無しっと、さあコリン。続けようや」
「ありがとうマルシャ♪」
自分の肩に乗る白猫ことマルシャ、コリンは笑顔でお礼を言う。
彼のそういう姿は人間の子供と何も変わらない、これが恐れられる魔王というのが信じられないと、ロードハルトはコリンの姿を見て思った。
何も知らない者ならば、彼の小柄で華奢な体格なら力で捻じ伏せられると、襲いかかるものだろうが彼から感じる圧倒的な力と威圧感。
若い頃歴戦の戦士として名を馳せたロードハルトから見て、それは感じ取れたのだ。
「しかし、お主がそれを望むには血を流し過ぎただろう。我が国の騎士を全滅させ、皆殺しにしたりと」
ベッラ帝国は多くの騎士団を抱える大国、皇帝の危機にも関わらず誰も駆けつける気配が感じられないという事は全滅、全員が魔王軍によって殺されたと考えられる。
鋭く睨んで来るロードハルト、恐れもせず目を合わせるコリンは無邪気に笑ったまま告げた。
「死んでないよ?誰も」
「…なんだと?」
騎士団を突破してこの場に立つコリン達、その騎士達を誰一人手にかけていないと答える魔王に、ロードハルトは困惑の表情を浮かべるしかない。
「彼らはふか〜い眠り落ちてるだけ、直に元気よく起きて来るはずだからね、そうでしょセオン?」
「はっ、眠りの魔法を施したり、それでも抗う者は気絶させて来ました」
「血を流さず我が帝国の精鋭達を…!?」
明るく笑って話すコリン、傍に控える美麗の男セオンは目を閉じたまま答える。
その言葉をロードハルトや銅像に身を預ける大臣は呆然としていた。
「感謝しろよ人間、こっちがその気になりゃあな…人なんざ簡単に皆殺しだ。言う事聞いておいた方が身の為だぜぇ?」
「こーら、あんま怖がらせる事言わないのマルシャ」
脅すような事を言う自分の肩に乗るマルシャへ、コリンは軽く叱る。
「お前が望むのは皆が手を取り合う世界、本当にそれを望むのか…!?」
「そうだよー、皆でのんびりまったり過ごす方が楽しいじゃん?」
色々困惑が収まらぬ状況、ロードハルトはコリンへ改めて問う。
微笑みを見せつつ迷いのない目で、コリンは自分の考える世界を言い切っていた。
「陛下!こんな甘い戯言、耳を傾ける価値などありませぬ!魔族と同盟を結ぼうなど、そんな人と魔が共存なんて…!そもそも騎士団が生きてるというのも我々を信用させる為に言った嘘かもしれません!」
「ゲータ…むう…」
大臣ゲータは全く信用せず、コリンが嘘を並べてるに過ぎないと決めつける。
ロードハルトが腕を組んで考え込む。
「彼、嘘ついてないよー」
「へ?」
何処からか声が聞こえ、ゲータは何処だと周囲を見回す。
「(何時の間にこの場へ!?)」
予期せぬ気配に、コリンの側で控えていたセオンが身構える。
魔王の右腕として、実力No.2を自負する自分が相手の気配察知を出来ない、気絶させてきた騎士団などとは違って相当の猛者だと最大の警戒を見せていた。
そのコリンは驚く事なく上、天井の方を見上げている。
するとそこには豪華なシャンデリアに腰掛ける、1人の女性の姿が見えた。
「あ、バレてそうだからそっち行くねー」
女性がそう言うと、吊るしてあったシャンデリアから飛び降りてロードハルトやコリンの間で着地。
ノースリーブの青いシャツの上に軽装の鎧を身に着け、同色のショートパンツで足を大胆に露出させている。
年齢は20前後ぐらいで女性にしては長身で170は超えてると思われ、肩までの長さの赤髪を揺らしながらコリンの方を向いていた。
「はろーはろー、あたし一応勇者やってますアリナってもんです」
魔王を前にしてマイペースに挨拶をする女性。
アリナと呼ばれる女性は魔王と敵対する勇者、そして元々は現代日本で暮らしていて異世界に突然召喚された者だ。
上から勇者が降ってくる事態、困惑は深まるばかりである。
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