16.自分だったようです
ルぺリオ歴629年9月27日
本日は、ロゼリアとの嬉し恥ずかしティータイムである。
小さな口でケーキをもぐもぐする姿が可愛い。美味しそうに目を細めながら食べるので、本日のケーキは気に入ってもらえたようだ。後でパティシエを褒めておこうと思う。
そんな可愛い姿をずっと見ていたい気持ちもあるが、対面で座っているのだ、ロゼリアと会話をする権利もある。
ディートハルトは少し緊張しながらその権利を行使した。
「⋯⋯妙な手紙が私物入れに入っていたと聞いた」
当たり障りのない天気の話題の後に本題を切り出すと、ロゼリアは「あ⋯⋯」と心配そうに眉を寄せた。
「はい⋯⋯。お姉様は昔から誰に対しても明るく話しやすくて優しい方ですから、行き過ぎた好意を抱かれることもあるのです」
「⋯⋯」
本当に自分宛だという意識がないのだなと、眉間に皺を寄せると、ロゼリアは慌てたように言葉を続けた。
「あ、でも今回はわたくしと間違えているようで、まだお姉様には実害は無いと思います」
⋯⋯お姉様には?
「⋯⋯ロゼリアには何かあったのか?」
コリンナは、ロゼリアは誰かに付けられている気配を感じたことはないと言っていたが、違うのだろうか。
「あ⋯⋯わたくしも手紙が入っていたくらいで⋯⋯あと、ちょっと不思議なことがあったので、もしかして手紙の差出人かと思っただけでして⋯⋯」
「何があった」
自分が気づいていないところでロゼリアが被害を受けていたのかと焦ったディートハルトは、少し口調が強くなってしまった。
ロゼリアは肩を震わせると、おずおずと口を開いた。
「あの⋯⋯本当に大したことではなくて⋯⋯。ええと⋯⋯学園内で失くしてしまった髪留めが机に置かれていたり⋯⋯。わたくし宛に差出人不明の薔薇の花束とアイビーの小鉢が送られて来たり⋯⋯。あ、あの、特に害があったわけではないので⋯⋯」
「⋯⋯」
ディートハルトはこう思った。
――――すまない、ロゼリア。それ、私だ。
そういえばこの前、ロゼリアがお気に入りの髪留めを失くして落ち込んでいたのを見たディートハルトは、前日のロゼリアの行動をシュミレートしながら学園を探し回ったのだ。
見事髪留めを見つけたが、ロゼリアの口から失くしたことを聞いたわけではなかったので、そっと机の上に置いておいた。
薔薇の花束は、用事で町へと出向いた際に美しい薔薇が目に付いたので、ロゼリアに贈ろうと思ったのだ。
その時は王宮に戻る時間が迫っていたので、包装してシュタッフェル侯爵家のロゼリアに送るように頼んだ。
まさかとは思うが、花屋に自分の名前を伝えるのを忘れたのだろうか。
うん。よく考えればそんな気がしてきた。
「わたくしも、ちょっと怖いと思っただけでして⋯⋯、何か被害があったわけではないのです⋯⋯」
「⋯⋯ロゼリア」
「も、もちろん、お姉様にも何かあったわけではないので、安心してください⋯⋯」
「ロゼリア、すまない」
「⋯⋯⋯⋯え?」
きょとんとした顔でディートハルトを見上げるロゼリア。その顔も可愛いくて心臓が掴まれたような心地になったが、これは言わなくてはならない。
「それは私だ」
「⋯⋯⋯⋯へ?」
「髪留めは⋯⋯拾った。薔薇は、急いでいたからか花屋に名前を伝えるのを忘れたようだ。すまない」
「⋯⋯⋯⋯え?」
目の前の紺色の瞳がゆっくりと瞬きをする。
数秒経って、理解したのか、ほっと息を吐いた。
「⋯⋯よかったです」
「すまない。不安にさせた」
「い、いえっ! 髪留めも、薔薇も、ありがとうございます」
失敗した、とディートハルトは思う。
コリンナに向けられた手紙だとは思っているが、自分の周りで不可思議な出来事があれば不安にも思うだろう。
(髪留めも薔薇も、自分の手で渡せばよかったな。⋯⋯⋯⋯あれ?)
「アイビー?」
「?」
先程ロゼリアは『薔薇の花束とアイビーの小鉢が送られてきた』と言った。
しかし、ディートハルトが送ったのは薔薇だけである。
(花屋がおまけで付けてくれた⋯⋯とかならいいが、違うのなら⋯⋯)
眉間に皺を寄せたディートハルトを、ロゼリアは不思議そうな顔で見ていた。




