14.ストーカーされているようです
更新開きましてすみません⋯⋯!
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとー!」
ヴィルと母親が頭を下げて去っていくのを見送り、ロゼリアは胸を撫で下ろした。
「行くか」
「はい」
ディートハルトが立ち上がったのを見て、自分も立ち上がる。一瞬、ディートハルトの手が動いたような気がしたが、その手は僅かなため息と共に下ろされた。
「⋯⋯?」
(今日のディートハルト様は少し変な気がします⋯⋯)
様子を伺われているような、何かを言いたそうな、そんな雰囲気がある。
ただ、何かありそうだなと思うだけで、それが何かなのはロゼリアには察しが付かない。
(お姉さまでしたら、分かるのでしょうか⋯⋯)
付き合いの深いコリンナならば、言われずともディートハルトの気持ちを察せるに違いないのに、婚約者である自分は不甲斐ないばかりだ。
「⋯⋯ロゼリア?」
ディートハルトの金色の目がロゼリアを覗き込む。
「⋯⋯はっ。ご、ごめんなさい。⋯⋯なんでも⋯⋯ありません⋯⋯」
「⋯⋯そうか。どこか店にでも入るか」
先程までは、目立つ場所にいようと日向の長椅子に座っていたので、その気遣いはありがたかった。
「行くぞ」
「はい」
歩き始めたディートハルトの背中を見ながら、そういえば、と思う。
(わたくしは歩くのが遅いから、お父様やお兄様と歩くといつも小走りになってしまうのですが⋯⋯ディートハルト様と歩く時はなりませんね)
先を歩いていても後ろを気にして、ロゼリアのペースに合わせてくれているのが分かる。
彼の優しさに気づく度に胸が締め付けられる。
(ディートハルト様⋯⋯)
「⋯⋯?」
心の中で呼んだだけだが、ディートハルトが振り返ったので驚いた。じっと見つめていたロゼリアは慌てて視線を逸らす。
「あ⋯⋯ええと⋯⋯ディートハルト様は、すごいです、ね⋯⋯」
「すごい?」
何か言わなければと思い咄嗟に出たのだが、ディートハルトが眉間に皺を寄せたので、不快にさせてしまったかと慌てて言葉を紡ぐ。
「いえ、その⋯⋯ええと⋯⋯、先程の⋯⋯街の特性も把握されていて⋯⋯いつの間にか、自警団にも知らせてくださっていて⋯⋯。ヴィルが早くお母さんに会えたのはディートハルト様のおかげ、です」
ロゼリアだけだと母親を見つけるのにもっと時間がかかってしまっただろう。ディートハルトがいてくれてよかったと思う。
「ロゼリアの方が、すごい」
「え?」
何故急に自分が褒められたのかと首を傾げると、言葉が足りないことに気づいたのか、追加で説明をしてくれた。
「ロゼリアがヴィルを慰めてくれて、楽しい物語を聞かせてくれたから、ヴィルも安心出来たのだろう」
「わ、わたくしは、目の前の出来ることをしただけで⋯⋯」
ディートハルトのように視野を広く持つことは出来なかったと思うのだが、ディートハルトは「十分だ」と言った。
(ディートハルト様に褒められた⋯⋯)
ほんの少し褒められただけなのに何故かとても嬉しくて胸が温かくなった。ドキドキと脈打つ胸を押さえながら、ロゼリアはディートハルトとの距離を僅かに縮めた。
◇◇◇
ルぺリオ歴629年9月23日
ハルム学園の夏季休暇が明けてしばらく経った。
いつもと変わらぬ日常を過ごしていたロゼリアだったが、僅かに変化があった。
「あ⋯⋯また⋯⋯」
ロゼリアの私物置きに入っていた匿名の手紙。これで三度目だ。
内容は『君にはボクがいる』『婚約を解消しろ』。
そして今回は『君をずっと見ている』。
不審な手紙が立て続けに届いているが、当のロゼリアはおっとりとため息を吐いた。
(またお姉様と間違えているのね。⋯⋯妙なストーカーがお姉様の元に行かなくてよかったとは思うけれど⋯⋯。一応お姉様に怪しい人物がいるかもしれないから注意するように言っておきましょう)
自分が誰かに狙われているなど考えもしない危機感の低さは、困りものである。
◇◇◇
ルぺリオ歴629年9月24日
「殿下!」
バンッと大きな音を立てて生徒会室に入ってきたのはコリンナであった。
いつも淑女らしくゆったりとした仕草のコリンナが慌てている。何かあったのだろうかと視線を向けると、彼女は一通の手紙をディートハルトに差し出した。
開かれたその手紙には、『君をずっと見ている』と一言だけ書かれている。
封筒にも宛名や差出人も書かれていない。傍らにいたイシスも手紙を見て眉をひそめた。
「昨日、教室のロゼリアの私物入れに入っていたそうです。ロゼリアが言うにはこれで三度目だとか」
「なっ⋯⋯?!」
「ロゼリア嬢が誰かにつけられていると?」
イシスの言葉に頷くコリンナ。
(ロゼリアが誰かにつけられている⋯⋯ストーカーか。許せない。私も未だにロゼリアに話しかける勇気が出るのに時間がかかるので多少つけ回したり、安全に帰れたか見守ったりすることはあるが、ストーカーはしたことが⋯⋯⋯⋯ん?)
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
なんだかコリンナから疑惑の視線を向けられている気がする。
気のせいだろうか? その据わった目は何を言いたいのか。
「⋯⋯私ではないぞ」
ディートハルトは身の潔白を証明することにした。




