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第五話 勇者の力

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

 さてさて、どうするか……。


 どこまで続いているかも分からない森を彷徨うこと数時間。

空は既に真っ暗に染まっており、カラフルに眩く輝く星々はいつもは何も感じないのに、何故か今はなんて綺麗なのだと感動してしまう。どうやら俺にも景色を嗜む情緒が残っていたらしい。


 とは言え景色をずっと堪能している訳にもいかない。


「……あ、またか」


 常時発動している《探知》スキルが再び反応した。探知とは魔力を持っている怪物、つまり魔物を感知することができるというスキルである。これがあれば、魔物に接触する前に魔物の存在に気づくことができる。


 この森は比較的安全で弱い魔物がちょろちょろいるくらい。夜の森は魔物の巣窟と化すのであまり長い時間すごしたくない場所ではあるが、この森ならまあやっていけそうだ。


 俺は探知した魔物に出会わないよう右に舵をきってそのまま進む。


 夜の森は当たり前だが、真っ暗。もし《暗視》スキルがなければ何も見えなかったことだろう。光属性の魔法を使う手もあるが、常時魔力を消費してしまうので、体内に魔素がまだあまり溜まっていない今は好ましくないだろう。


 そう言えばオタクの木村君も暗視スキルを持っていた。同じスキルとは言っても、その効果は全く別次元。


 ステータスと同じでスキルもレベルごとに成長する。そのスキルによって違うが、スキルが強化されるか、もしくは上位スキルに昇格する。


 今の俺が《暗視》スキルを使えば昼間のように明るく、そして鮮明に周りを見ることができる。何故か目を瞑っても景色が変わらず見えるのは俺のレベルが高すぎているせいだろう。寝る時は流石にスキルを解除しよう。


「……はぁ」


 ふと、突然なんでこんな所に飛ばされたのかと疑問に思う。恐らく教室で使われた召喚魔法は、以前俺に使われたものと同じ。だったら召喚主が近くにいるはずなのに召喚主は姿を見せていない。それどころか何もない森に召喚するなんて明らかに不自然すぎる。俺の場合は、王座の間に召喚されたしな。


「まあ、考えても仕方ないか。今どうするかだけ考えよう」


 いくら進んでも森からは出られない。大きな木々が続くだけ。そろそろどこか休める場所でも見つけたいところだ。


「……《地図》で出てこないか」


 《地図》スキルは一度来たことがある場所の情報を表示する。一度来たことがある場所ならば二度目以降はその地図を頼りに迷わず進めるわけだ。


「……《探索》はどうだ」


《探索》スキルに切り替える。


 これは地形を把握するのに使うスキルだ。サバイバルでは重宝される便利スキル。たとえ来たことが無い場所でもこのスキルを使えば自分がどんな所にいて周りがどんな風になっているか知ることができる。ただし地図のように詳しい道を知ることができない。


「……あれ〜」


 しかし、スキルを発動してもほんの少ししか表示されない。普段なら半径2キロメートルぐらいは軽く探索できるのだが。


 スキルは使用できている。スキルが使えなくなったわけではない。ということは、考えられるの原因は一つ。


「……魔素が薄すぎるのか」


《探索》スキルは地形の把握のために地面や木々などに蓄積されている魔素ーー魔法を行使するための元素のようなものーーを感知している。それがこの森は薄すぎるのだ。


 だが、これで諦めているようでは元勇者は名乗れない。


 となると選択肢はあと一つしかない。


 そう、知っている奴に聞けばいい。


「〈精霊召喚〉大精霊エリミエンス!」


 精霊召喚魔法を行使する。これはスキルではなく魔法だ。スキルとは違って一回一回魔力を消費する。体内に溜まりかけていた魔素が魔力に変換される。


 俺が唱えた瞬間パァッと目の前が眩く光る。空中に立体の青緑色の魔法陣が浮かび上がり、クルクルと回る。


 まるで尻尾をふって喜んでいる子犬のよう。


 細かい光の粒子が魔法陣から空に向かって放出される。数秒後に一箇所に集まってくると人の身体を形作った。


 空から一人の美女が降ってくる。


 エメラルドのように輝く綺麗な瞳。腰まで伸びる絹のように滑らかな翠色の髪。天女が着ているような羽衣は純白で、全体的にキラキラと輝いているものの、微妙に透けており、下に隠れる豊満な身体を覗かせる。天女のトレードマークとも言える細い帯状の天衣は無風の空でヒラヒラと踊るように波打つ。


 羽衣から伸びる細くしなやかな肢体は雪のように真っ白。ゆゆっくりと右手を伸ばし、優しく俺の頬に触れる。


 白色の肌に映える真っ赤な唇は妖艶に微笑む。


「……あらあら、なんだか久しぶりね。私を召喚するなんて」


 彼女こそ、大精霊エリミエンス。


 精霊界でも抜きん出た実力を持つ、世界で最も気高い種族の一人だ。


 俺の扱える魔法の一つ、〈精霊召喚〉。精霊界から一定時間だけ精霊を呼ぶことができる。だが、精霊はその性格上、非常に気まぐれなので手を貸してくれるかはほぼ運だ。


「何言ってんだよ。お前らからしたらこっちの時間なんて一瞬だろ?」


 彼女はうふふと上品に笑う。この大人のお姉さんみたいな落ち着く雰囲気は俺にとっては懐かしく感じるが、彼女にとっては懐かしいほど時間が経っていないはずだ。


 俺が最後に彼女を呼び出したのは確か魔王軍四天王の1人を倒した時だ。弱点が精霊魔法しか無いというチートモンスターだったので彼女を呼び出した。魔王を撃ち倒す足掛かりとなったこの戦いは確か二年ほど前のこと。


「ふふっ!そうかもしれないけど私はずっとあなたの事を想っていたのよ?」


 ペロリと下唇を舌で舐めると、俺の顔を掴んで、俺の唇に自分の唇を近づける。


「……それは後でな」


強引に彼女を引き剥がす。大精霊様はまるで駄々をこねる幼稚園児のようにぷくりと頬を膨らます。


「また意地悪するんだからっ!このヘタレ!甲斐性無し!」


 さっきも言ったように精霊は気まぐれ。彼女の言う事は話半分で聞くのが得策だ。俺は無視して話を進める。


「えっと、聞きたいんだけどさ?ここら辺に寝床になりそうな場所ないかな?」


 顔をこれでもかと近づけど続ける彼女に向かってそう言った。吐息が鼻にかかってくすぐったい。


「ちょっと待ってね…。う〜〜ん。近くにあるけど?どうしたの?あなたがこんな辺鄙な森にいるなんて」


 森の大精霊エリミエンスは全ての自然を司る大精霊であり、普通の精霊よりも強力な精霊力を行使したり、高度な知能を持ち合わせたりしている。

 

 彼女は森ならば一瞬でその地形を把握することができるので、召喚したというわけだ。


「まあ…いろいろあってな。後でゆっくり話すよ」

「そう?じゃあ案内するからついてきて」


 起きたことを順々に説明しているととてつもなく時間がかかるので、今はまず寝床を探すことに専念した。


 彼女についていくと数分ほどで良さげな洞窟が見つかった。


「……急にサバイバルでもしたくなったの?」


 寝床として使う洞窟を物色していた時、彼女はプカプカ空気中に浮きながらなにか怪しむような目をしてそう聞いてきた。


「……いろいろ事情がな」


 追放されたと聞いたらエリミエンスはどのような反応を見せるだろうか。


 いや、というかその前に魔王を討伐した後にほぼノータイムで世界を往復した話を聞いてどう思うか。


 今冷静に考えれば、かなり笑える話だ。信じてもらえるかどうかも怪しい。


 それよりも、気がかりなのは俺以外の奴らだ。


 正直俺を追放したクラスメイト達に苛立ちを覚えないといったら嘘になる。だが、一度異世界を経験しているからこそ、生き抜く厳しさは身にしみてわかっている。平和ボケしている一般人がいきなりサバイバルできるわけない。それに仮にもクラスメイトだ。死なれてしまったら寝覚めが悪い。


 いくら魔物が少ない森といっても、危険であることに変わりはない。


「はぁ……考えるのも面倒くせぇ」


「ん〜?まあよく分からないけど、とりあえず今日は2人きりなのよね?」


 エリミエンスは一度目の前からふっと消え、次の瞬間俺の背後に一瞬で現れると背中に抱きついてきた。


「……胸、当たってるぞ」


薄い生地を挟んだその豊満な胸が俺の背中に当たる。


「当ててるんだけど?それにいつもあなたは誘いに乗ってくれないじゃない?」


 さらにギュっと胸を押し当ててくる。


「あのな……今はこんなことしてる場合じゃ」

「今はあなたと触れ合える数少ない絶好のチャンスなんだけど?」


 俺の発言に森の大精霊様は少し怒ったかのように間髪入れずに返答した。洞窟内に鋭い風が吹き込む。頬を凍てつかせるような冷たい風だ。


 俺は大きくため息をつく。


 ここまで意地を張り合っていてもどうしようもない。洞窟に案内してくれた恩もある。ここは俺が折れよう。


 両手を上にあげて、降参の意を示す。


「……補充だけだぞ」

「……やった」


 大精霊エリミエンスの唇と俺の唇が静かに重なった。


 

ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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