第三話 嫌われ者
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
ゆっくりと目を開く。じっくり観察するまでも無い。
この独特な匂いと空気ですぐに分かる。
ここは、俺が数十分前にいた異世界だった。
「キャァァ!!」
「一体どういうこと!?」
「なんで森の中に!」
「ここどこだよ!」
クラスメイト達の悲鳴が聞こえてくる。後ろを振り返るとクラスメイト全員がここにいた。
まさか、全員転移したのか。ざっと俺含めて40人くらいが一つの場所に固まって転移したらしい。一体どれだけ膨大な量の魔力を消費したら40人も転移させれるのか。一人でもかなりの魔力を消費するのに。
「な!なに!ドッキリ!?」
「ちょっ!押すなよ!」
「誰か!説明してよ!」
「おい!まじでなんだよこれっ!」
みんなかなり混乱しているようだ。パニック状態に陥っている。無理もないだろう。この状況を飲み込めるくらのは多分俺だけだ。一度経験済みの俺はすぐに状況を飲み込む。
それでも、俺も困惑せざるを得ない。
まさか地球に帰還してすぐまた召喚されるとは。しかも、おそらく全く同じ世界だ。ここがどこかは全く知らないが、空気中に漂う魔素がすぐ身体に馴染む。この世界が俺を受け入れるかのように、身体が思い出すかのように、全身に力が溢れてくる。
ただの学生の鳳舞から勇者のホーマに変わるのが分かる。
思わず顔が強張り、臨戦態勢に入ってしまう。俺はそんな自分を抑え付けてできるだけ自然に周りに溶け込むように息を潜めた。
深呼吸して、周りを見渡す。
「……宮殿じゃない」
これが異世界召喚だとするならばそれを実行した召喚士が必ずいるはずだ。しかし、どこにもいる気配が無い。というか人の気配がない。
何故か俺たちは森の中にいた。
大自然の森に囲まれている。俺たちが立つ場所だけ、不自然に地面が抉られたようになっていて、一本の木すら生えていないことから考えるに、俺たちが異世界に召喚された際の反動でここだけ森が削られたのだろう。
誰かが召喚したんじゃないのか?人為的じゃない?
てっきりまたアホな国が異世界召喚でもしたのかと思ったのだが。
「みんな!聞いてくれ!まずは落ち着くんだ!ここでパニックになっても何も変わらない!」
先程教室で俺を罵ってきた茶髪の高身長イケメンが声を上げる。クラスの中心的人物でムードメーカーだ。彼と関わると碌な事が無いと記憶している。
しかし、こんな時でもリーダーシップを発揮するのは流石だと言わざるを得ない。が、俺は無意識に距離を取っていた。
みんなは彼の声に素直に従う。
「流石!竜誠くん!」
「おう!竜誠の言う通りだ!」
「そうだね!とりあえず落ち着こう!」
他のクラスメイト達は彼を中心として集まっていく。俺はその円の外側からみんなの会話を聞いていく。
「まずは状況の確認だ!誰かこの状況を説明できる人はいるかな?」
そこでスッと手をあげたのはクラスのオタクグル-プに所属する男子達だった。
見た目が個性的な子達ばかりなので、なんとなく覚えていたが、やはり名前は思い出せない。
彼らもあまり人とのコミュケーションが得意というわけではないが、内輪で盛り上がる能力は高い。そんな彼らとも俺は接点があまり無かった。
「おそらくっ!これは異世界転移だろう!」
「そう!我々は魔法と剣でモンスターと戦う世界に来たのさ!」
「「「異世界転移!?」」」
……うん。流石オタク君達だ。しっかり合ってるよ。オタクの知識も捨てたものじゃない。
オタク君達は興奮したような表情でペラペラと早口で解説を始めた。何やらひどい妄想も含まれた解説は案外当たっている部分が多い。
周りのクラスメイト達はキョトンとした顔をしている。
「──ということなのさ!」
「そして!僕たちの予想が正しければ!《ステータスオープン》!!」
どうやらテンプレは熟知しているらしい。恐らく彼の前には自身に関する情報がまるでゲームの画面のように見えているだろう。
彼は雄叫びをあげて、目をキラキラさせながら目の前を凝視している。
「……え、なにどういうこと?」
「なにか見えてるわけ?」
「そんなバカな話……」
空中を見つめる彼をクラスメイト達は最初は不審がっていた。なにせステータス画面は本人しか見ることができない。側から見たら何をしているのか全く分からないだろう。
(どれどれ……覗いてやるか)
しかし、本人にしか見れないステータス画面を見る方法は存在する。そうでないと、例えば魔物などと戦う時に相手の力量がまるで分からない。情報収集のためにステータス画面を覗き見ることは良くある話だ。もちろん、覗き見られることを防ぐこともできるが。
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木村 和也 17歳 男
レベル:1
称号:異世界より召喚されし勇者
適性職業:暗殺者
筋力:100
体力:200
耐性:200
敏捷:200
魔力:100
魔耐:100
技能:暗視
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召喚された異世界人は、元から高いステータスを持っていることが多いらしい。それは木村君にとっても例外ではなく、かなり初期ステータスが高かった。まだレベル1だというのに通常人のレベル10くらいに相当する値である。それに加えて技能も獲得している。これはかなり優秀だろう。
技能とは魔法とは違い魔力を消費せずに発動することができる本人の特別な技術のことである。
木村君の様子を見たクラスメイト達は次々に《ステータスオープン》と唱えていく。
一斉にどよめきがあがる。そりゃあ目の前に訳の分からないゲームの画面のようなものな現れたらびっくりするだろう。
「みんな!聞いてくれ!木村君達の話が正しいとするならば、僕達は協力してこの世界を生き延びていかなければならない!だから情報共有のためにみんなのステータスを教えて欲しいんだ!」
誠君と親しげにみんなにそう呼ばれている男子がそう言うと、周りは納得したかのように頷いて、お互いにステータスをバカ正直に言い合っていた。
……だが、こんな時でも俺に話しかけてくる人は誰もいなかった。さっき教室にいた時に気づいたが、俺はどうやら本当に嫌われているらしい。
誰も俺を気に留めない。空気のように扱う。
そのことを別に気にしたりはしない。むしろ近づかれなくて好都合だ。俺は自分のステータス画面を出す。
みんな呪文を唱えるように一生懸命と唱えていたが、わざわざ口に出す必要はない。念じるだけで自分のステータスは浮かび上がる。
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和 鳳舞 17歳 男
レベル:測定不能
称号:表示不能
適性職業:表示不能
筋力:測定不能
体力:測定不能
耐性:測定不能
敏捷:測定不能
魔力:測定不能
魔耐:測定不能
技能:表示不能
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(まあ、いつも通りだわな)
俺のステータス画面にはみんなと違って数字が表示されない。いつからかは覚えていない。だが、気づけば俺のステータスはこんな感じになっていた。
こんな意味不明なステータス教えれるわけない。というか教えても信じてもらえるわけない。
ステータスを知られれば非常に面倒な事になると容易に想像できる。
俺は周りを広く観察する。このクラス全員でひと塊となっているというよりは、みんな仲のいい数人のグループで固まっているという感じだ。困惑した表情を浮かべながらも、そのグループで情報を共有し合っていた。
最も慌てて落ち着きがない様子なのはクラスでは静かで大人しい女子グループ。全員がメガネをかけているので『メガネちゃんず』とでも呼ぼうか。メガネちゃんずはびくびくと周りに怯えながら半べそをかいている。急にこんな辺ぴな森に飛ばされたのだ。無理もない。怖いに決まっている。
逆に一番落ち着いているのはオタク君グループ。四人ほどで固まってなにやら相談し合っている。この距離じゃ良く聞こえないが、パニックになるでもなく、むしろこれからの冒険に胸を躍らせているような明るい表情だった。
そんな二つのグループの中間ぐらいが、他のみんな。突然の出来事に不満を抱きつつもだんだんと現実を受け入れ始めているかんじだ。
それぞれがステータスを教え合っている中、俺は人の輪から外れた所でぼーっとする。
「……どうっすかな〜」
しばらくするとクラスメイト達の視線が俺に向いていることに気づいた。腫れ物を見るような目だ。
「あの…いいかな…確認しても」
少し遠慮気味に近づいてきたのは委員長だった。またもや俺の背後から声をかける。今回はすぐに気がついた。
「……え?俺?」
今一番聞かれたくないことを聞かれて少し焦る。どう切り抜けようかと思考を加速させる。
俺があたふたしていると、彼女は俺にステータスを見せてきた。
「うん、私は……ほら。ステータスオープン。さっき気づいたんだけど、念じれば見せたい相手にも見せれるみたい」
すっと目の前にだされたステータス画面を見る。
不用心だなと思いつつもこの短時間で《ステータスオープン》を使いこなしていることに少々驚く。でもそれは、彼女のステータスを見ればすぐに納得いった。
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加賀美 爽夜 17歳 女
レベル:1
称号:異世界より召喚されし勇者
適性職業:賢者
筋力:70
体力:70
耐性 : 100
敏捷 : 70
魔力:400
魔耐:400
技能:全魔法適性
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適性職業は賢者。かなりレアな職業だ。賢者とはあらゆる魔法を極めることが可能な職業だ。彼女のステータスを見れば分かる通り、魔力と魔耐が特に優れている。というか、飛び抜けている。
「なんかすごい……あの……ゲームって感じだよね…はは」
委員長は自分の不安や恐怖を紛らわすかのように無理やり笑った。
「あはは……うん。そうだね」
愛想笑いは苦手だ。だが、頑張って目の前の賢者さんに合わせて笑う。一体何に口角をあげているのか全く分からないが。
すると、俺を睨みつけながら一人の男子生徒が歩いてきた。
「おい!なに爽夜を困らせてんだよ!後はお前だけなんだから早くステータスを教えろよ!」
いきなり突っかかってきたのはクラスのリーダー坂田竜誠だった。
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